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閑話 出会い:テオ視点

 俺の名前はテオ・ストデルム、8歳。

 ストデルム商会の長男だ。家族構成は祖父、父、母、弟、妹2人 。

 うちは国内でも一二を争う大きな商会で、それを継ぐことが決定している俺は日々勉強に勤しんでいる。


 午前は教会で勉強、午後は家で商会の勉強や手伝いと忙しいが、充実していると思う。たまの休みには遊んでくれる友達もいるしな!


 今はこの生活が楽しいと思うけれど、以前はそうじゃなかった。

まだ教会に通う前、5歳の時かな、お前は跡継ぎなんだからと朝から晩まで勉強だ、お手伝いだとやらされて、弟や妹達は自由に遊んでいる。どうして俺だけ?といつも思っていた。


 その日も、お手伝いだと父さんに連れ出され、ある喫茶店に来ていた。

なんでもそこの店主が新しいデザートを作るんでいろんな食材を卸して欲しいと依頼があったそうだ。


「おう、久しぶりだな!」

「ああ、久しぶりだね。元気そうで何よりだ」


 どうやらこの喫茶店の店主と俺の父さんは友人関係にあるらしい。商談をしながら昔話も始める二人にげんなりしていた頃、喫茶店の店主に声をかけられた。


「テオくん、よかったら隣の部屋でうちの娘と遊んでやってくれないかな?たしか君と同い歳だったと思うから」


 店主の言葉にめんどうだとも思ったが、ここに居るよりはマシかと思い素直に頷き隣の部屋に行く。


 部屋に入ると、中には黒髪黒目の少女が懸命に何かを書いていた。

 黒髪黒目とか珍しいな。そういえば、ここの店主もこの少女よりは明るめだが黒髪黒目だったな。とか考えていると、俺の入ってきた物音に気づいたのか、ふと少女が顔を上げ、キョトンとした顔をする。


「誰?」

「あ、俺はテオ。ストデルム商会の息子だ。ここの店主から、お前と一緒に遊んでろって言われたんだ」

「そうなんだ。私はティア。よろしくね、テオ」


 そう言って、ふにゃと笑った少女を見て、雷が直撃したような衝撃を受けた。


「――――?!」

「どうしたの?」


 ドクン、ドクンと心臓が打つ音が聞こえる。何だ、これ。


 突然硬直した俺にティアは心配そうに声をかける。

「大丈夫、何でもない」そう言うつもりだったのに、口から出たのは違う言葉だった。


「お前の髪の毛、カラスみたいだな!」


 ・・・うわあぁぁぁぁ!!

 何言ってんだ!俺!喧嘩売ってどうすんだ!


 ティアはパチパチと瞬きした後、何故かキラキラと瞳を輝かせた。


「つまり、私の髪は大空に羽ばたける翼のようだと!」

「違ぇよ!」


 ポジティブだな!おい!


「なるほど、漆黒の翼。ふふっ」

「ちょっとかっこいいな!」


 自分で言って自分で笑ってるよ、こいつ。喧嘩にならなくてよかったけど、やべぇ奴だよ。

話題を変えよう。


「ところで、さっきから何を書いてんだ?」


 もしかしてティアも俺と同じように早くから跡継ぎの勉強をさせられているんじゃないかと、手元を覗き込む。


「これね、家族の絵だよ!」


 そこには普通に5歳児並のとりあえず人っぽいのが並んでる絵だった。ティアは嬉しそうに「これがお兄ちゃんで、こっちが母さんで~」と説明をしてくれる。


 なんだよ。普通に絵描いて遊んでただけかよ。てか、兄がいるならそっちが跡取りなんだろうな。こいつは自由に遊んでるだけかよ。


 その時の俺は毎日跡継ぎだどうの言われて、鬱憤が溜まっていたのだろう、自分でもわからない何か黒い感情が湧き上がって来て、気づけば声に出していた。


「・・・なんなんだよ、いつも、いつも!お前ら下の弟妹は勉強もせずに毎日毎日遊んで、長男の俺だけが跡継ぎだなんのって必死に勉強させられて!」

「テオ?」


 ティアはいきなり声を荒らげた俺に驚いた顔をしている。

 わかってる、ティアが悪い訳じゃないんだ。こんなのただの八つ当たりだ。でも、一度溢れた感情の波は止められない。


「父さんや母さんだって、何で俺に求める事を弟妹にも求めないんだ!?いつも俺ばっかり!同じ兄弟なのに生まれた順番で差別するなよ!」


 溜まっていた不満をぶちまけると、スッキリもしたが途端に後悔が襲って来た。こんな事、言うつもりはなかったのに。


 ポンポン


 ティアの手が俺の背中を撫でてくれていた。小さいけど、暖かい手だ。


「そっかそっか。お兄ちゃんって大変なんだね」

「・・・」

「でもさ、それってテオが他の弟妹よりも優秀だから、期待されてるんじゃないの?」

「ゆうしゅう・・・だから?」


 優しいティアの口調に怒ったり悲しませたりしていない事にまずはホッとする。

俺が言葉の意味を聞き返すとティアはパァっと笑顔になる。


「そう!私はお兄ちゃんと二人兄妹なんだけど、私は紅茶の種類すら覚えないからって、呆れられちゃったんだよね。それに比べてお兄ちゃんはすごいんだよ!紅茶の種類もあっという間に覚えちゃったし、お茶の入れ方もどんどん上達してて、きっと私が長子でも父さんはお兄ちゃんを跡取りにしたよ!」


 ふふんっと胸を逸らす姿は誇らしそうだが、いいのか、それ。自分をすげぇ卑下してるぞ。お前がすごいんじゃなくて、お前の兄貴がすごいんだからな。

それと途中から俺の慰めじゃなくてお前の兄貴自慢になっているからな。


「ぶはっ」


 あははははは、と腹を押さえて笑う。


 何だろう、ティアと話していると俺の悩みなんかどうでも良くなってくる。

 優秀だから、か。長男だからって言われないのは初めてだ。何だか黒い感情が薄くなっていく気がする。


 突然笑い始めた俺にもやっぱり背中をさすってくれていたティアに俺はニッと笑う。


「てか、喫茶店の娘が紅茶の種類覚えてねぇのはまずいだろ」

「あ、やっぱりそう思う?」


 俺はえへへと笑うティアの手を引いて立ち上がる。


「来い!優秀な俺が教えてやるよ!」

「ほえ?」


 確か商談用に持って来た荷物の中に紅茶もあったはずだ。


 その後、父さんの商談が終わるまでティアに紅茶講座を開き、少し紅茶の種類を覚えたティアを見て、ティアの父親からとても感謝された。


 そして、それは教会でも、


「テオ~授業わかんないよぉ、教えてぇ」


 とティアに泣きついて来られるのがいつもの光景となった。


「しょうがねぇな、座れ!全く、俺がいないとどうしようも無いな!」

「わーい。ありがとう」

「よろしくお願いいたしますわ」

「・・・アリア、お前いつもスルッと現れるな。まぁいいけど」


 何だかんだティア(+アリア)の先生のような事は続いている。

 もちろん、商会を継ぐ勉強も変わらず頑張っているし、忙しいけれど充実した毎日だ。

この居心地の良い日々のまま、大人になっていけたらいいな。


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