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黒幕と陰謀2:ミュラン視点

 

 私の名前はミュラン・ファロム。このサクレスタ王国の宰相を務めている。


 私には二人の息子がいる。

 長男のシヴァンは、跡取りとして大切に育ててきた事もあり、私の期待に応える優秀な息子だ。

 この春から領地の運営を任せているが、上手くやっているようで、さすがは私の息子だと鼻が高くなる思いだ。


 次男のカインは、こちらも同じく優秀なのだが、こちらは専ら頭痛の種だ。

 カインは生まれた時から魔力が少なかった。この国で魔力が少ない者が出来る仕事は限られてくる。騎士になるにも文官になるにも魔術具を多く使うからだ。だから、カインには特に期待をしていなかった。精々政略結婚の駒として上手く動いてくれればそれでいいと思って碌に構わず育ててきた。


 例えば、誕生日。シヴァンの誕生日は毎年家族で、節目時には他の貴族も招待し、盛大に祝ったが、カインの誕生日は特に祝わなかった。贈り物も、カインの身の回りの世話をさせている使用人に選ばせて、贈るだけだった。


 それでもカインは、幼い頃から何の感情もないように、笑わず、怒らず、泣かず、不満を言う事なんてなくて。まるで人形のようだと思っていた。


 こんな扱いをしていたから、当然カインは私にも妻にも懐かなかったし、それに対して私も特に何も思わなかった。


 それが間違いだったのだと気づいたのはいつだったか。


 幼い頃、引きこもりがちだったカインがよく外に出かけるようになった。付けている護衛の話では友人が出来たのだとか。そんなに興味もない話だったのでその時はすぐに忘れた。私がその話を思い出したのはカインを伯爵家の令嬢と婚約させようとした時だ。


 実力のある伯爵家だったが、跡継ぎが生まれておらず困っていたので、カインとの婚約話が持ち上がったのだ。お互いにとっていい話だったので婚約証書を作成し、話をまとめようとした所で問題が起きた。


 カインは既に婚約していたのだ。それも、ただの平民と。既に婚約証書が提出されているのに新たに婚約させる事は出来ない。

 神官から奪い取って確認した証書には、確かに私のサインがあった。


 私はすぐにカインに婚約を解消するように言った。なんの気の迷いか反抗か知らないが、いつも何の感情もない人形のように言うことを聞くカインだ。私が言えば従うと思っていた。


 しかし、カインの反応は拒否だった。


「僕は父様にきちんと説明をしてサインを頂きました。婚約証書にサインをしたのは父様です。僕はこのまま彼女と結婚します。それでも婚約を解消させようとするならば、僕はこの家を出て行きます」


 淡々と、いつもと変わらない無表情だったが、カインが私に感情を向けた。失望、呆れ、決意、それから僅かな怒り。

 カインの優秀さが出始めていた頃だったので、カインを手放す事と、このままファロム家一員として使う事、どちらが利となるかを天秤にかけ、伯爵家令嬢との婚約は白紙に戻した。カインはまだ幼い、そのうち平民の婚約者と喧嘩でもして目が覚めるかもしれないと期待して。


 結局、カインの婚約は解消させられないまま月日は流れた。


 そのカインの婚約者であるティアさんに初めて会ったのは魔術学園の学園祭の時だ。

 その頃にはティアさんの魔力が特別多いと聞いていて、私や妻も多少は前向きになっていた。ただ、今までカインにティアさん以外の女性にも目を向けるようにと機会を作っても、ことごとく潰されたので、カインにそこまでさせるティアさんとはどんな平民なのかと見極めるつもりだった。


 ティアさんは、笑顔の可愛らしい女性だった。平民と言う割には礼儀作法はしっかりとしていて、立ち居振る舞いには品が感じられた。黒髪黒目は珍しいが、平民は色味の濃い者が多いから平民らしいなと思った。

 しかし、その魔力量に驚愕した。


 王族以上の多量の魔力、その容姿も相まって、私は一つの可能性に辿り着いた。

 もしかすると、ティアさんはリオレナール王家の血縁ではないのか。


 もし、そうだとするならば、ティアさんと婚約させるべきなのは、魔力の少ない次男のカインではなく、跡継ぎで魔力の多いシヴァンだ。


 すぐにティアさんにシヴァンを勧めたが、彼女には断られた。

 身分や魔力など関係なくカインを慕っているという彼女。その彼女がカインを見る目は優しくて、カインを大切に思ってくれているのだと感じた。

 不思議だった。私から見たら人形のようにしか見えないカインが、彼女から見たらどう見えているのかと。


 カイン達が2年生の時の学園祭で、カインとティアさんが仲睦まじく会話をしているのを見た。

 妻と共に「カインはあんな顔も出来るのだな」「ええ、あの子は表情を何処かに落として来たのだと思っていたのですけれど」と話していたら、明るいシヴァンから「・・・はい?」と低い声を向けられたのは記憶に新しい。


 弟思いのシヴァンには、「カインはティアと一緒にいる時は様々な顔を見せるので面白いですよ」と言われ、確かにその通りだなと思った。

 ティアさんと話すカインの表情は柔らかく、楽しそうで。そして何より愛おしそうにティアさんを見つめる。私や妻の前では一切見せないその顔はとても人形のようには見えなかった。


 私はなんとなく、そんな二人をもう少し見ていたいと思った。・・・そのまま学園祭が終了してしまい、ティアさんと話す事が出来なかったのは残念だったが。

 ティアさんは何度か家にも来てくれているようだが、何故か私は外せない仕事だったりで、すれ違う事ばかりなのだ。


 そんな深い溝しかないカインとの関係を改善したいと妻と話したのは最近の事だ。ただ、何をすれば良いか分からず、とりあえず会話でお互いの理解を深めようかと思い、カインによく話しかけるようにしている。先程はなかなかいい感じの親子の会話が出来たのではないかと思っている。





「陛下、戻りました」

「ああ、すまないな」


 陛下の執務室に戻ると、陛下は書類から顔を上げた。


 私は持ってきた資料を机に置くと、先程のカインとの会話で得た情報を陛下に報告する。


「そういえば、狩猟大会にアリベルが出た件ですが、ユーリから黒幕を聞き出せたそうです」

「なに・・・?」

「シャルロッテ王女に唆されたそうです。ただ、証拠はありませんので、これを立証するのは難しいかと」


 他国の王女相手に証言証拠のみで罪を認めさせるのは難しい。きっとトカゲの尻尾切りのように、そんな者は知らないで通されるだろう。


 陛下はこめかみを押さえてため息をついた。


「何故ネルラント王国王女が平民のティアを狙うのかが分からぬな」


 ティアさんはただの平民だと宣言された陛下だが、彼女をとても気にかけている。ティアさんに何か被害があると、カインが国に牙を剥く可能性があるから防ぎたいとも考えているらしい。・・・父親の私が国の宰相を務めていながら、無いと言いきれないのが情けない。


「陛下、ティアさんを王宮に迎えてはどうです?幸い、魔術師長がティアさんに興味を示しております。彼女の作る魔術具はとても面白いそうで」

「人も攻撃も阻む透明な壁だったか?あれを国の守りに使えたらありがたいのだが」

「はい。国の為の魔術具を作ってもらうならば王宮魔術師になってもらうのが一番効率がいいかと」


 身分というのは人を守ってくれる。ティアさんは魔術師の才能がありそうなので、王宮で発揮してもらえるとこちらも彼女を守りやすいだろう。


「魔術師長は、出来ればティアを王宮魔術師にしたいらしいな。しかし、そなたの息子に阻まれないか?」

「・・・」


 いつもなんの感情も無いかのように言うことを聞くカインだが、ティアさんの事に関しては頑なに譲らない。カインはティアさんを誰かに利用されるのは許さないだろう。

 だが・・・


「やり方次第かと。カインはティアさんに関しては狭量ですが、ティアさんに対しては寛容なので。ティアさんがやりたいと言えば反対はしないかと」

「なるほどな・・・」


 陛下が再び考え込んだ。「それはそれで難しいな」と呟いていたので、ティアさんを王宮に引き入れるには少し策を考えなくてはならないかもしれない。


「それにしても、そなたもティアを気に入っているのだな」

「・・・はい?!」


 ニヤリと笑った陛下がからかうようにそんな事を言ってきた。この方はたまにこういう子供のような顔をされる。


「昔は、『どうにか婚約解消させられないか』とばかり言っていたのに、こうしてティアを守ろうとするなんてな」

「ち、違います!彼女は魔力も多いし、魔術具作成の才もある、国にとって有益なので守るべきだと言っているだけで、私個人の感情はありません!」


 陛下がからかうようにニヤニヤとするので、思わず否定する。

 別に私は娘(予定)が心配だから守ろうとしているのではない。娘(予定)を取り上げられるとカインが国に牙を剥こうとするかもしれないからそれを止めたいだけで、娘(予定)が王宮に勤めたらいろいろ理由を作って会いに行きたいとかそんな事は考えていない。


 そう主張するが、陛下は「余も息子しかおらぬから、娘が出来るのは羨ましいぞ」と楽しそうに笑うだけだった。


ミュランは有能な宰相ですが、私事ではけっこう残念ですね。

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