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黒幕と陰謀1:カイン視点

 コツコツと足音を響かせながら薄暗い石造りの廊下を歩く。


 ここは王宮の一角にある、罪を犯した者の隔離場所だ。


 分厚い扉を開けて尋問室の一つに入ると、鎖で椅子に括り付けられた青年と騎士団の制服を来た人物が向かい合っていた。


「お疲れさま、調子はどう?」

「カイン様」


 騎士の彼は僕を見るなり立ち上がり、敬礼をする。


「申し訳ございません、変わらず協力者等いないの一点張りで・・・」

「そう」


 自分でも冷たい声が出たなと思ったけれど、騎士の彼はビクッと肩を震わせて顔を青ざめさせた。

 ・・・別に君には怒っていないよ?


 どうも僕の機嫌を損ねると排除される、みたいに思っている人がいるようで、最近はこんな反応をされる事が多くなったように思う。

 ティアに関する事ではそうだけど、それ以外は僕は基本的に無関心だから、誰彼構わず排除したり面倒な事はしないんだけどな。

 ティアと一緒にいる時間が減るでしょう?


「代わるよ」と騎士に言うと、鎖で括り付けられている人物――――ユーリ・アクリノルを見る。

 ユーリは魔術学園2年生で、狩猟大会にアリベルを持ち込んだ奴らの一人。ティアに血を付着させた人物がユーリだ。

 数日間じめじめとした牢屋に閉じ込められて尋問をされているからだろうか、目の下には隈が出来、頬がゲッソリと痩けてきていると思う。


「ユーリ、知っていると思うけれど、アリベルは魔獣の中でもランクが高い、それを君達だけで捕獲して狩猟大会に持ち込むのは不可能だよ。他に協力者、もとい首謀者がいるはずだけど?」

「・・・何度も言っていますが、そんな者はおりません。アリベルは偶然眠っている所に出くわしたので、麻酔を打ち込んで捕らえたのです」

「ふうん」


 あくまで自分達だけで実行したと言い張るユーリだ。その首謀者に忠誠でも誓っているのか、それとも脅されているのか。


 ユーリの向かいの椅子に座って目線を合わせると、彼の表情が強ばった。


「じゃあ、この血についてはどう説明する?」


 懐から取り出したのは、ティアの肩に付けられていた血だ。容器に入れて密封してある。

 アリベルは血に寄ってくる魔獣だが、正確には、血に含まれる魔力に寄ってくるのだ。魔力の多い者を取り込んで、自分の力に変えるのだとか。

 故に魔力の多い人や魔獣はアリベルに狙われやすい。


「成分を調べたけれど、この血には多量の魔力が含まれていてね。貴族の森にいる魔獣ではないし、Cクラスの君の血でもない。・・・これは何処から手に入れた?」

「それは・・・」


 ぐっと唇を噛み締めてそれ以降は何も言わないユーリ。しばらくウロウロと視線を彷徨わせると、ボソリと口を開く。


「・・・俺は、生まれ持った魔力の量で差別されるこの国の制度が嫌で、平民のくせに魔力が多いだけで優遇されているのが気に食わなくて、痛い目を見ればいいと思って行動しただけです」


 答えになっていないな。

 彼は捕まった時からずっと同じ事を言っている。

 ティアは魔力が多いせいで、何もしていないのに貴族から妬まれたり、利用されかけたりしている。優遇されている事なんて無いと少し見ていれば分かると思うけれど・・・学年の違う彼がティアをよく知っているはずもないだろうし、誰かの入れ知恵かな。


「・・・そういえば、アクリノル領はネルラント王国との交易が盛んだよね。あの国は王族すらも魔力量は多くはないから、魔力差別はないらしいね。生まれ持った力に関係なく実力で評価される、君達にとっては理想の国だ」


 僕の話題転換にユーリは訝しむような顔をするが、気にせず続ける。


「ネルラント王国のシャルロッテ王女がニコラス殿下と結婚すれば、アクリノル領は更にネルラント王国との繋がりを強めるわけだね。学園内でも君は随分とシャルロッテ王女に熱をあげているそうじゃないか。彼女に付くとそれはそれはいい事があるんだろうね。・・・王女に従えばネルラント王国の貴族にでもしてもらえるの?」

「――――っ!」


 ユーリは一瞬目を見開き、グッと下を向いて視線を隠した。

 ・・・やっぱりシャルロッテ王女か。


 この国では魔術具を多く使うので、何をするにしても魔力量が重要視される。

 魔力の少ない貴族は魔力の多い貴族から蔑まれる事も多いのだ。彼もその一人なのだろう。


 対してネルラント王国は魔力量を重要視しない。魔術具より効率が悪いが、魔力をあまり使わない物を作り出す事が得意な国だ。なので計画が成功すればネルラント王国で爵位を授与する、とでも言えば彼等は食いついたのだろう。・・・シャルロッテ王女に上手く利用されたな。


 ただ、シャルロッテ王女まで繋がる証拠が出ないんだよね。

 周りの男のみを動かしているのか、『彼』が上手く隠しているのか、彼女までは辿り着かない。


 とりあえず、このユーリから言質だけでも取っておくか。



 僕は最初に尋問をしていた騎士に視線を移すと、騎士はピシッと姿勢を正す。


「彼、明日までに吐かなかったら、アリベルと一緒の檻に入れておいてよ」

「はっ!」

「なっ・・・!」


 騎士は敬礼で答えたけれど、ユーリは一気に顔を青ざめさせた。


「ま、待ってください!カイン様!」

「・・・何かな?」


 生きた魔獣と同じ檻に入れられるなど事実上の死刑宣告だ。ユーリは黙りだった先程とは打って変わって喋り始めた。


「俺はそこまでの事はしていないはずです!狙ったのはあの平民だけで被害も出ていない。あの平民を追い出せばネルラント王国の爵位を与えると言われて、それで実行しただけで・・・」

「同じ場所にニコラス殿下やリオレナール王国のツバキ王子もいたのに、害なす気はなかったでは通じないよ」


 それに、僕にとってはその平民を狙った事が一番許せないんだ。僕のティアを危険に晒す奴は早く処分しないと。


「――――っ!カ、カイン様にも、分かるはずだ!侯爵家のくせに魔力の少ないCクラスで、だから魔力の多い平民を婚約者にさせられている!シャルロッテ王女はそんな魔力量の報われない俺達を救ってくださるのです!ネルラント王国では弊害なく出世できるように取り計らってくださるのです。カイン様もシャルロッテ王女に頼めば、ネルラント王国の爵位を与えてもらえ――――」

「必要ない。僕は君とは違って自分の魔力が少ない事を悲観した事など一度も無いよ。僕に同意を求めないでくれない?」


 僕は魔力なんて無くてもこの国で十分成果を上げられている。魔力なんて関係ないと傍にいてくれる人がいる。愛してくれる人がいる。

 ユーリがこの国で成果を上げられないのは単なる実力不足だ。それを魔力のせいにしているだけ。

 生まれ持ったものを人と比べて悲観した所で何にもならない事に気づかないのだろうか。


 まぁ、彼の事などどうでもいいか。


 ――――シャルロッテ王女。

 ニコラス殿下の婚約者候補としてやって来たくせに随分と好き勝手に動いているな。

 ティアに対する態度にも目に余るものがあるし、彼女に王太子妃が務まるとも思えないし、もうこの国に要らないんじゃない?


「・・・ああ、それから、僕は魔力量でティアと婚約しているんじゃない。ティアを愛しているから婚約しているんだ。・・・これ以上僕の愛する人を侮辱するのなら、アリベルと同じ檻に入れるくらいじゃ済まさないからね」


 僕はユーリを一度睨みつけると、「ひっ」と固まってしまったユーリ(と、何故か顔を青ざめさせた騎士)を置いて、尋問室を出た。






「カイン」

「・・・父様?」


 王宮を歩いていると父様に出くわした。父様は宰相として陛下に仕えているので、仕事中だったのだろう、何やら書類を抱えている。


「・・・ユーリ・アクリノルの尋問か?黒幕は聞き出せたか?」


 僕の歩いてきた方向から予測したようだ。父様もユーリの尋問に関わっていたので彼の頑なな態度を思い出したのか軽く顔をしかめた。


「はい。やはりシャルロッテ王女に唆されたそうです。ただ、今のところ証拠はその証言だけですね」

「そうか。ネルラント王国は魔力量はあまり重視しないと聞く。爵位を与えるとでも言われたか?」

「らしいですね。彼等が捕まっても何も言ってこない所をみると、その話も方便だった可能性が高いですが」

「上手く利用されたな。これだから低魔力の者は・・・」


 父様と母様は魔力差別の激しい人だ。魔力の少ない人間は魔力の多い自分達よりも劣っていると考えている。それは昔からずっと変わらない。僕は今更両親に何も思う事はないが。


「そうだ、陛下から今度カインとティアさんにアリベル出現の件で貢献してくれたとして謝辞を述べたいからと呼出状がいく事になった」

「ティアも、ですか?」

「ティアさんはアリベル出現時、魔術具で無力化させ、皆を守ってくれたのだろう。陛下が直接謝辞を述べるに値する功績だ」

「ああ、それはそうですね」


 狩猟大会での魔術具が注目され、ティアは今、貴族の中でも有名になって来ている。奇抜な発想と多量の魔力で新しい魔術具を次々と作り出している『魔術革命の女神』なんて呼ばれ始めているそうだ。

 狩猟大会の打ち合わせで、「こんなの作ったんだけど、使えるかな?」と持って来られる物の数々にはとても驚いたものだ。おかげで狩猟大会では優勝する事が出来たし、被害を一切出さずにアリベルを無力化する事も出来た。

 ティアの頑張りが正当に評価されるのは僕も嬉しい。


「魔術師長が随分とティアさんの魔術具に興味を示していた。卒業後は王宮魔術師に、と勧誘を受けるかもしれないな」

「王宮魔術師・・・」


 王宮魔術師とは、その名の通り王宮に仕える魔術師で、王宮内の魔術具に魔力を注ぎ、管理する人達だ。

 魔術具研究者は自分の好きな魔術具を作るのに対して、王宮魔術師は国の為の魔術具を作る。その分地位や給金も高いそうだが。


「ティアさん程の魔力量があればいずれは魔術師長も夢ではないな。カイン、ティアさんが実績を積む為にも結婚を少し遅らせてはどうだ?」

「嫌です」


 普通、貴族の女性は結婚すると仕事を辞める。夫と共に領地を運営したり、子育てをするなど女主人としての役目がある為だ。その後、仕事に復帰する場合もあるし、しない場合もあるが、僕はティアのしたいようにすればいいと思っている。しかし、結婚時期は絶対に譲らない。

 僕としては今すぐにでも結婚して対外的にもティアを僕のものにしたいんだ。

 魔術学園を卒業したらすぐに結婚する、これ以上は待てない。



 間髪入れずに否定すると父様は押し黙った。

 僕がティアに関しては譲らない事を知っているからだろう。


「・・・まぁ、良い。ティアさんは魔術師長に目を付けられた、とだけ頭に入れておけ」

「わかりました」


 魔術師長か。僕は今まであまり関わりはなかったから噂程度にしか人物像を知らないが、魔術具研究の最高峰で、年老いた今でも最前線に立ち続ける人。研究一直線で、魔術具研究に没頭すると寝食を忘れる研究馬鹿なタイプだそうだ。


 エリク様もそうだけど、魔術師には研究一直線の人が多いな。ただ、魔術師長は巨大な権力も有する人だ。

 ティアが望むなら王宮魔術師という選択肢も良いと思うけれど、権力で無理矢理引っ張りこまれないようには注意しようかな。


「ではな」と父様は仕事に戻って行った。


 それにしても、父様はちょっと前までは、家でも王宮でも僕を視界にも入れなかったのに、何の心境の変化か最近はこうして話しかけてくる事が多くなったと思う。

 しかし、口を開けば碌な事を言わないので、出来れば前のように僕の存在は無視して欲しいのだが。面倒だ。



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