閑話 出会い:アリア視点
わたくしの名前はアリア・フラゾール、8歳です。
わたくしのフラゾール家は代々服飾で財を築いてきた一族で、わたくしも幼い頃から母から服飾や貴族に対する礼儀作法を学んでいます。
母は特に礼儀作法に厳しい方で、家に居る時も、家族との団らんでも、姿勢や言葉遣いを注意されます。
母がまだ見習いの頃に礼儀作法で貴族の方に手酷く叱られたらしく、娘のわたくしにはそんな思いをさせたくないとの事です。
だけど、物心ついた時からそんな生活ですので、それ程苦に感じたことはございません。
それがフラゾール家の当たり前でしたから。
しかし、一歩外に出るとそんなフラゾール家が異質なのだと気が付きました。
歳の近い子供達は口を揃えてこう言います。
「平民のくせに変な喋り方」
「気取ってる」
「貴族でもないのに馬鹿みたい」
母がわたくしの為に身につけさせてくれた事なのに、とても悔しく思いました。
6歳になって、教会で学問を学ぶようになった頃は友達もおらず、いつも一人で周りと関わらないように過ごしていました。
しかし、こちらから近づかないにもかかわらず周りの子供達は砕けた言葉で、荒々しい動作で、変わらずにわたくしを馬鹿にするのです。
何も知らないくせに勝手な事を言わないで!
何度も心の中で叫びました。実際には言えませんでしたが。
もう教会に行くのすら憂鬱になってきた頃、わたくしは彼女と出会ったのです。
「隣、座ってもいい?」
フワフワと柔らかそうな黒髪に黒い目、可愛らしい顔立ちが印象的な方でした。
「・・・えぇ、どうぞ」
いきなり声をかけられたので少し驚いて返事が遅れてしまいましたが、彼女はさして気にした様子もなく、「ありがとう!」と言ってニッコリと笑い、わたくしの隣に座りました。
「私、ティアっていうの。よろしくね!貴女の名前は?」
「・・・アリア・フラゾールと申します」
正直、あまり話しかけないで欲しいと思いました。喋れば喋る程に変だと言われるから。
「アリアちゃんね!私、実は前からアリアちゃんの事が気になっててね」
「はあ」
よく言われる事です。わたくしの言動が変で、気取っているからでしょう。
「アリアちゃんて、すごく綺麗だよね!」
「え?」
え?・・・きれい?何が?わたくしが?
「あ、いや、えっと、見た目じゃなくて動作が!あと言葉遣いも!違う、見た目も綺麗なんだけど!えっと・・・んん?」
何だか勝手に混乱し始めた彼女ですが、わたくしはそれどころじゃありません。
綺麗?変じゃなくて?気取っているじゃなくて?
・・・そんな事、初めて言われました。
「とにかく!私もおばあちゃんから礼儀作法を習ってるんだけど、難しくて、お手本にさせて欲しいの。出来ればコツを教えてください!」
そう言って手を差し出してきた彼女ですが、わたくしは彼女の言葉が嬉しくて、自分や母が認められたような気がして、思わず泣いてしまい彼女を困らせたのは今となってはいい思い出です。
そんな彼女、ティアちゃんは今ではすっかりわたくしの大切なお友達。
ティアちゃんとお友達になってからわたくしは自分の言動が周りにどう言われるかを気にしなくなりました。
ティアちゃんがそのままのわたくしを受け入れてくれたからでしょう。
ストデルム商会のテオくんとも仲良くなりました。きっと彼も何かでティアちゃんに救われたに違いありません。不器用な言葉遣いをしていますが、いつも優しい目でティアちゃんを見つめています。
まあ、一生ティアちゃんの隣にいる権利は渡しませんけどね!
15歳になったら魔力の多いティアちゃんは一人で魔術学園に行ってしまいます。わたくしは魔力が基準に満たない為行く事が出来ません。わたくしも一緒に行けたらどれ程よかったか。
どうかこのまま、誰もわたくしからティアちゃんを奪っていきませんように。