狩猟大会7
「え、あれ、マグオウルじゃないか?」
「マグオウルって、凶暴だから見つけ次第逃げた方がいいんじゃ・・・」
「どんなペースで狩ればあの量になるんだ?!」
周りのざわめきが先程より酷い。
周りの反応からしても私達の獲物の量はとんでもないらしい。・・・ちょっとわくわくしてきた。
しばらく待っていると、集計が終わったようだ。
「カイン様のチームは、1752ポイントです」
おおっ!と歓声が上がる。
「さすがはカイン様とアーサー様、ティア様ですねっ!」
「キリアもよくついてきたな、頑張ったな!」
「これ、優勝いけるんじゃない?」
「皆のおかげだよ」
わーっと盛り上がる私達。
だって1752ポイントだよ?すごくない?カインが作戦立てて、全体を見て指示を出して、私が魔術具で拘束して、アーサーとキリアがとどめを刺して回収する。この流れと連携が上手く出来たからこそのポイントだと思う。高ポイントらしいマグオウルも二体倒したしね!
「・・・マジかよ」
周りが沸き立つ中で、低く呟き頭を押さえるツバキ。
・・・ツバキが勝ったらツバキにキスをする約束をしていたのだ。私達が勝ったのでその約束は果たされない事になる。
「ツバキ王子、僕達の勝ちです。約束、覚えていらっしゃいますね?」
カインはツバキに向けて勝ち誇ったように、ふっと笑った。
「ああ、わかっている・・・。くっそ、悔しい。ニコラス王太子、反省会しますよ」
「あ、はい!・・・カイン、おめでとうございます」
ツバキ達はそれだけ言うと悔しそうにこの場を去って行った。
私達もまだ集計が終わっていないチームの邪魔にならないように移動する。こちらのカインはとても上機嫌である。
「ティアも、僕との約束覚えてるよね?」
「・・・うん」
カインがツバキに勝ったら私からカインにキスをする約束をしている。
ポンっと赤くなった私をカインが愛おしそうに目を細めて覗き込んだ。
「ティアのタイミングでいいからね。楽しみにしているよ」
「〜〜〜っ」
今更ながらとんでもない約束をしてしまったものだ。いや、カインのおでこや頬になら自分からキスした事もあるけれど、やっぱりそういう雰囲気にならないと出来ないし、しようって思うと余計に緊張してしまう。
「カイン、よかったな!」
私が赤くなった頬を押さえて立ち止まると、アーサーがカインの肩を組んで笑う。
「アーサーとキリアのおかげだよ。お祝いに今夜皆で食事にでも行こうか」
「お、いいじゃん」
「是非、ご一緒させてください」
自分からキス、いつしよう。やっぱり唇かな、頬じゃダメかな。いや、頬でも緊張するんだけど。だいたいカインは整った顔立ちしているから、まともに見つめるとかっこよすぎてドキドキするし・・・ふにゃりと笑ってくれる顔も好きだし、照れた顔も可愛いし、キスした時の蕩けた顔とかもう私の心臓が破裂しないか心配になるし――――
「ね、ティアも一緒に――――、ティア!」
「・・・え?」
立ち止まったままの私の方を振り向いたカインの顔は驚きに染まり、私に向かって手を伸ばした。
アーサーとキリアは剣を抜いて、私の後ろを睨みつけて駆け出した。
グルルルルルルル・・・
獣の低く唸る音がすぐ後ろから聞こえる。
「ひっ」
振り向けば、ゲームのスチルで見た大きな虎のような魔獣が、私に向けて牙を剥いた所だった。
――――ヒュン、バチンッ!
ガガガガガガ、ドオォン!
ドクドクと心臓が早鐘を打つ。
「ティアっ、怪我はない?!」
駆けつけたカインが無事を確認してくれるが、私はかすり傷一つ負っていない。
ただ、かなり怖かっただけで。
振り向いた時の魔獣の牙が降り掛かってくる恐怖で思わず魔術具を連発して使ってしまった。
魔獣を光の鞭で拘束し、魔獣の周りだけを円形のシールドで囲って閉じ込めると、突風を起こす魔術具で吹っ飛ばした。更にこの辺り一帯にシールドを張って、もう魔獣が入って来られないようにした。
「怖かった・・・」
ペタンと地面に座り込んだ私の背中をカインが撫でてくれる。
「よしよし。でも、ちゃんと身を守ってくれてよかった」
「思わずいろいろ使っちゃったけど、大丈夫だったかな」
「ティアが無事ならそれでいいんだよ」
他の生徒や教師達も異常事態に気づいたのか辺りが騒然とし始めると、吹っ飛ばした魔獣を見に行ってくれていたアーサーが困った顔をしながら戻ってきた。
「えっと、ティア。魔獣の周りのシールドだけ解除してくれねぇか?とどめが刺せねえ」
「あ、今行くよ」
「・・・いや、その魔獣は生きたまま捕縛しておいてくれない?アリベルはこの辺には生息していないはずだから・・・持ち込んだ奴がいるはずだよ」
あの虎のような魔獣はアリベルというらしい。
カインの声がワントーン低くなった。怒っている時の声だ。
「わかった。とりあえず完全に気絶してたから、転がして来るな」
「よろしくね」
アーサーが魔獣の元へ行って、状況を確認する教師に説明を行うと、カインが周りに聞こえないような声で聞いてきた。
「・・・ねぇ、ティアの前世の物語では、出てきた魔獣はアリベルだった?」
「そう、だね。物語で出てきたのも同じ魔獣だったよ。たしか、その時ヒロインは嫌がらせで怪我をして血を流していたの。その魔獣は血に寄ってくる魔獣だから、ヒロインが狙われたんだったかな。・・・あ」
私は自分の肩を見る。付いていた返り血はまだ乾いていない。アリベルはこれに寄ってきたのか。
「不思議だよね。だいぶ時間が経っているはずなのにその血はまだ乾かないんだ。アーサーやキリアが付けていた返り血はもうとっくに乾いていたよ」
「乾きにくい血を付けられた・・・?誰かが故意に私を狙ったの?」
ぶつかってきた男子生徒の顔は覚えているけれど、彼とは何の関わりも無かったと思う。
強いて言うなら平民の私が気に食わない・・・?
でもそれだけでここまでするのだろうか?下手したら死ぬところだったのだ。
不安が顔に出ていたのだろう。カインは私を安心させるようにニッコリと微笑んだ。
「大丈夫だよ。僕が犯人を見つけ出して、血祭りにあげてあげるよ」