狩猟大会6
狩猟大会終了の時刻になったので、私達は森の入口の広場へと戻る。
「楽しかったぁー」
「それはよかった」
私の後ろに座り、馬の手綱を取るカインの声が頭の上から降ってくる。
私は一人で馬に乗れないので、カインと一緒の馬に乗せてもらっているのだが、後ろから抱きしめられているような体勢なので、この密着具合にいまだにドキドキとする。
というか、狩猟大会中はやたらと抱き寄せられたり、手を握られたりが多かった。たぶん、私が勝手に行動して危ない目にあわないように物理的に拘束されていた。小さい子どもじゃないんだからとむくれるべきか、心配してくれているんだなと感謝すべきか悩むところだ。
「でもティアの魔術具はすごかったな。倒すのがかなり楽だった」
「本当っ!いろいろ作ったかいがあったよ」
アーサーに褒められて更にテンションが上がる。
私は狩猟大会の為にカインとたくさんの魔術具を作ったのだ。剣の威力を高める魔術具も魔力節約タイプにしてみたし、一番よく使ったのが鞭の柄の形をした魔術具だろうか。
日本の創作の世界で、ヒュッて振ったら光のロープみたいなのが出てきて、相手を拘束するという物があったなと思い、試しに作ってみたら上手くいったのだ。これで効率よく魔獣を拘束する事が出来た。
「ティア様が魔獣を仕舞ってくださるので、荷車係が要らなくて早く進めましたね」
「そう言っていただけると嬉しいです」
普通はチームに荷車係というものがあるらしい。狩った魔獣を荷車に乗せて運ぶのだ。これは生徒ではなく生徒の家の使用人が行ってくれるのだが、私達はこれが要らなかった。私の『マジュウボール』を使ったからだ。
モンス・・・じゃなかった、『マジュウボール』は、某子供向けアニメを参考に作ったのだが、狩った魔獣を次々と仕舞うことが出来たので、荷車要らずで楽だった。まあ、私のマジュウボールは魔獣の死体をひたすら入れるという子供向けアニメにあるまじき使い方なのだが。
おそらく異次元空間に物をしまっているのだと思うが、動物以外の物などは仕舞うことが出来なかったので、狩り以外で使うことは無さそうだ。
とにかく、私の我儘で狩りに参加させてもらったのだ。邪魔にならずに貢献出来たのなら良かったと思う。
「ティア・・・!無事でよかったわ、怪我はない?」
森の入口の広場に戻り、馬から下りると一番に駆けつけてくれたミーナが私を心配そうに覗き込む。
「大丈夫だよ。ミーナの方こそ、大丈夫だった?」
一応、ゲーム通りにお茶会中に魔獣が出る事も危惧していたので尋ねたが、ミーナには不思議そうな顔をされた。
「ええ。普通にお茶をしていただけよ?そういえば、Cクラスの女子たちの間でティアの男装が話題になっていたわよ。美少年のようで素敵だって」
「わお、モテ期到来?」
「そうねぇ・・・。ティアがモテているっていうより・・・カイン様との仲睦まじいやり取りが『美青年と美少年の禁断の恋』のようで素敵だと盛り上がったわ」
「そっち?!」
Cクラス、というか貴族のご令嬢には意外と腐女子が多いのかもしれない。
ドンッ!
「痛っ」
「・・・あ?」
ミーナと立ち話をしていたら男子生徒にぶつかられた。今は皆狩りから戻ってくる時間だから、邪魔だったのかもしれない。・・・別に混雑はしていない場所だったけれど。
「・・・申し訳ございません。不注意でした」
「はっ、平民の・・・いや、こちらこそ申し訳ない」
「・・・?」
ぶつかった男子生徒は、最初は傲慢な態度だったのに急にしおらしくなり、そそくさと去って行った。
「ティア、大丈夫?」
「ひゃっ、カイン!びっくりした」
馬を置きに行っていたカインが急に後ろから現れたので驚いた。
「・・・何か付いてるね、動物の血?」
「えっ?本当だ・・・」
肩の部分にべっとりと赤黒い血が付いてしまっている。
私は狩りの時は魔術具で拘束するだけだったので、返り血が付くことはなかったけれど、アーサーやキリアを始め戦闘員は返り血が付くことも多かったので、ぶつかってきた男子生徒は戦闘員だったのだろう。私の服にまで血が付いてしまった。
・・・元々、汚れてもいい服として着てきているし、仕方ないかな。
男子生徒の去った方向をじっと見ているカインの袖を引く。
「獲物の提出に行くんだよね、行こう?」
「・・・そうだね」
アーサー、キリアとも合流し、獲物の提出場所に行く。
生徒達が狩った獲物が全て集められているこの場所は、なんというか、すごい臭いだ。一応、魔術具の防臭シートのような物で荷車を覆っているので、まだマシらしいが、お茶会会場から距離が離れているのも頷ける。
他のチームが重たそうに荷車を押しているのに対して、私達は手ぶらで歩く。
「お前ら狩った獲物はどうしたんだ?」
先に獲物のポイント集計をしてもらっているツバキが不思議そうに私達を見た。
「ちゃんと、持ってきていますよ」
カインがそう返すと、ツバキは不思議そうな顔をした。
「そうか・・・?」
「ニコラス殿下チーム、1436ポイントです」
集計をかけていた教師がそう言うと、周りにざわめきが走った。
たしか、今までの狩猟大会での最高成績は987ポイントだったはずだ。それを大幅に上回る1436ポイントか・・・。
負けたつもりは無いけれど、勝てるか不安になってきた。ポイントを聞いたカインも眉をひそめているし・・・
「ツバキ王子、やりましたね!」
「はい、ニコラス王太子のおかげかと」
ニコラスとツバキはハイタッチを交わし、健闘をたたえ合っている。レイビスはホッと息を吐いていた。王族の二人について行くのは大変だったのだろう。
「次、どうぞ」
教師の声掛けに私達は前に進み出る。
「獲物をこちらに置いてください」
教師は足元の黒いシートを指し示す。これも獲物の種類や数を分析する魔術具なのだろう。
私はマジュウボールを取り出し、黒いシートの上で解放した。
ボンッと音がして中の魔獣達が出てきた。
「・・・」
全て出てくるとシートいっぱいに小さい山のようになった。私の身長などゆうに超えている。
・・・こんなに狩ったっけな。
とりあえず魔獣を見つけるなりカインから拘束する指示が出たので、その通りにしていたけれど、周りの荷車と比べても明らかに多すぎる。
「え、と、少々お待ちください・・・」
集計をしている教師は戸惑いながらも魔力を通して集計を開始した。