狩猟大会5:アーサー視点
「行っけぇ、ドローン二号!」
取り敢えず飛ばす時に何か言いたいんだな。
ティアは2つ目のドローンを飛ばした。
これは魔獣を探すためのドローンだ。ティアがケータイを見ながら操作してドローンに搭載しているカメラで大物を探す。
その間にも出てくる魔獣を次々と狩っていく。
ティアが獲物を見つけたら俺やキリアが狩る。もしくはティアが魔術具で獲物を拘束して俺やキリアがとどめを刺す。
カインは全体を把握して、俺達に指示を出したり、ティアをフォローする。
そうして次々と魔獣を狩っていくと、ティアが「ああー!」と声を上げた。
「どうした?」
「一号が壊された・・・」
しゅんと肩を落とすティア。
一号とは、最初に飛ばして、今いる西側の森にシールドを張っているドローンだ。
「ツバキ王子達だろうね。結構上空に構えたのによく届かせたね」
上空で待機してシールドを張っていた一号を、弓矢か何かで落としたのだろう。弓矢も魔術具だろうし、魔力で威力を上げれば出来ない事はない。
「王族が二人もいるチームはさすがに強いな」
魔術具を使う上で魔力量は重要だ。思ったより早くシールドが攻略されてしまった。
すると、ケータイを見ていたティアが再び「あっ!」と声を上げた。
「クマ?みたいなのがいるんだけど、これも魔獣?」
ティアはカインにケータイを見せる。
「あ、マグオウルだね。この森では主に近い魔獣だよ。アーサー、キリア、どうする?」
「当然、行くだろ」
「お供します」
マグオウルはクマのような見た目で、鋭い爪を持った凶暴な魔獣だ。当然ポイントも高いので、優勝を目指す俺達に狩らないという選択肢はない。
ティアの情報によると、マグオウルは川のほとりの岩穴に入っていったそうで、おそらくそこが巣なのだろう。
俺とキリアは剣を構えて岩穴に近づく。
戦闘員でないカインとティアは少し離れた所で待機だ。
俺は懐から一つの魔術具を取り出してマグオウルがいるであろう岩穴に投げ入れた。
岩穴の中からポン、と音がしたと思うと、グオォォォ!!とマグオウルの雄叫びが響いてきた。
あの魔術具は、大量の粉末を空中に散布させるもので、毒ではないが、少しでも吸い込んだら涙とくしゃみ、鼻水、咳き込みが止まらず呼吸が苦しくなり更に徐々に手足が痺れてくるのだ。
・・・俺も実験の段階でふわっと吸い込んだら酷い事になった。死ぬかと思った。ティア発案、カイン監修の魔術具である。・・・エグイなー。
「来るぞ」
「はい」
岩穴から苦しそうに咳き込む音が聞こえる。岩穴の中は狭いから粉が充満しているだろう。呼吸をすればするほど苦しくなる。そろそろ出てくるはずだ。
のそり、と岩穴から黒い巨体が姿を現した。マグオウルは見た目はクマに似た魔獣だが、立ち上がると2.5メートル程の巨体で、力も強く素早い。額から頑丈な角が一本生えているのが特徴だ。
俺とキリアは目で合図を交わし、岩穴の上で構えていたキリアがマグオウルの背中に飛びかかり、肩口に剣を突き立てた。
岩穴に放った粉で弱っていたのもあるだろう、巨体が揺らいだ所で俺が心臓を貫いた。魔獣は急所をしっかりと貫かないとまた動き出してしまうので、動かなくなった事を確認した。
「ふぅ・・・。終わったぞー」
カインとティアを呼び寄せると、キリアが倒れたマグオウルをじっと見つめていた。
「どうした?」
「いえ、マグオウルなのでもっと抵抗されると思っていました。この剣の威力もかなり上がっています。ティア様の魔術具はすごいですね」
「そうだな。俺も驚いた」
剣の威力を上げる魔術具もティアが作ってくれた。ティアは魔力節約タイプの魔術具を作るのが得意なようで、ほとんど魔力を込めなくても大きな威力になるので、最初は調節に戸惑った程だ。
「二人ともお疲れさま」
「怪我はない?」
カインとティアがやってきて、ティアが魔術具の中にマグオウル片付ける。他の生徒は狩った獲物は荷車に乗せて運ぶのだが、俺達は違う。
ティアが『マジュウボール』という魔術具に獲物をしまうのだ。5センチ程のボールのような魔術具に何故か巨体のマグオウルが入る。
以前、どういう仕組みなのか聞いたら「私もわからない」と言われた。魔術具は明確なイメージがあればある程度は作れるが、その明確なイメージが難しいので、わからないのに作れてるティアはすごいと思った。
「少し休憩しようか」
という事になり、地面に腰を下ろす。
俺達の腰を下ろした場所にティアが小さなシールドを張った。
一応、魔獣が襲ってこないように対策らしい。
休みつつも次はどうするかと作戦を立てていると、ふいにドオォン!と大きな爆発音が響いた。
「?!」
「何だっ?!」
俺とキリアは剣を構えて、カインはティアを守るように抱え込んだ。
「あっ、ごめんなさい。仕留め損ねましたっ」
「構わない。レイビス、逃がすな!」
「無茶いいますねっ」
イノシシのような魔獣、モウシンが真っ直ぐこちらに向かって来ている。それを追うニコラス殿下にツバキ王子、レイビス。
モウシンに向けてレイビスが魔術具を放った。
網のように広がった魔術具はモウシンを捕らえるが、少し怯んだのみで、もがきながらもまた進み始めた。
「長くは持ちませんよっ」
「十分だ」
ツバキ王子が魔力を込めて弓を引く。
放たれた矢は光を纏ってモウシンに突き刺さった。グアァァァと苦しそうに叫んでからモウシンは倒れた。
・・・あの弓も魔力で相当威力が高められているな。
「ツバキ王子、ありがとうございます。最初に仕留めきれなくて申し訳ないです」
「いえ、王太子の爆破でモウシンの速度が落ちたのでやりやすかったです。助かりました」
「荷車に乗せてくれ。・・・あれ、君達はここにいたのか」
レイビスが荷車係に指示を出すとこちらを振り向いた。
「さすがは王族がいるチームだな。あんなに早くモウシンを倒すなんて」
「ああ、どんどんと狩っていってしまわれるので、私もお二人について行くのがやっとだ」
ふぅ、と汗を拭うレイビス。王族二人に挟まれて苦労していそうだ。かくいう俺もティアとカインがどんどん魔獣を見つけて拘束するので、ついて行くのが大変なのだが。
「あー!ティア!」
ツバキ王子が俺達を認識し、こちらに向かって来た。
「何だよあの透明な壁は!狩場を囲うとか狡いだろう。壁を壊すのに無駄に時間を取られたぞ」
「ふふん。他チームの生徒に危害を加えるのは禁止ですが、妨害するなとは言われておりませんので」
ティアは胸を張って得意気に答える。
「なんだそれは。まったく。しかし、俺達は巻き返してみせるからな!見てろよな!」
ツバキ王子は「行くぞ」とチームを連れて次の獲物を探し始めた。
ティアに文句を言いつつも、ティアと話すとなんだかんだ嬉しそうなんだよな、あの人。
シャルロッテ王女と同じでめげないタイプだけれど、王女とは違って好意が真っ直ぐだと思う。
ティアのリオレナール王国との関係性を聞いた時は驚いたが、納得もした。
ティアはツバキ王子の恋愛感情には困っているが、王子自体は好ましく思っているようだったから。性格もあるだろうが、レオンハルトとは随分対応が違うと思っていた。
ただ、ティアがツバキ王子を身内として好感を持っているから、カインもツバキ王子には手が出しにくいんだろうな。・・・邪魔や牽制はよくしているが。
今も、ティアを抱き寄せていたカインとツバキ王子の間で『ベタベタしすぎだろう』『ティアは僕の婚約者なんで』みたいな視線を交わし合っていた。
「僕らもそろそろ行こうか。ティア、この辺に魔獣はいる?」
カインが立ち上がり、ティアに手を差し伸べる。
「んー・・・、あ、さっきのマグオウル?がもう一体いるよ」
「お、ラッキー」
「アーサー様、今度は俺にとどめを刺させてください」
「ああ。やってみろ、キリア」
その後も俺達はどんどん魔獣を狩り、終了時刻になったところで、女子生徒達がお茶会を楽しむ森の入口へと戻った。