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狩猟大会2

 

 狩猟大会までの準備期間は授業時間を短縮して準備を行う。

 狩りに参加する生徒はチームを組んだり、チーム内で作戦を立てたり、チームの連携練習をしたりする。

 狩りに参加しない生徒は参加する生徒に渡すハンカチに刺繍をしたりして過ごす。



「――――つまり、ティアには獲物の動きを止められるような魔術具を作って欲しいんだ」

「まかせて!」


 私達は談話室の一つを借りて作戦会議中だ。

 狩猟大会でチームで動くのは、一人で行動して危ない目に合わないようにする事と、役割分担をする為らしい。


 私達だと、カインは全体を把握し適切な指示を出す指令役。アーサーは主に狩りを行う戦闘員。私が魔術具を使って戦闘員を補佐する魔術師らしい。

 あと、まだ来ていないけれど、もう一人戦闘員がいるのだとか。

 私達はこの4人のチームなのだ。


『魔術師』とは

 魔術具を管理し、魔力を込めて魔術具を使用する役職である。


 何それかっこいい。

 RPGで言う魔法使いポジションだ。ファンタジー感あるよ!


 獲物の動きを止めるのだったら、捕獲網みたいなのが出る魔術具かな。それから、自分の身を守る為の盾みたいな魔術具も欲しいし、日本の創作の世界の魔法みたいな魔術具作れないかな、いろいろと使えそうだ。


 カインには俄然やる気になった私を見て「ほどほどにね」と釘を刺されてしまった。



 魔術具を考えていると、扉がノックされて男子生徒が一人入って来た。


「遅れて申し訳ございません」


 硬質そうな緑色の髪にキリッとした空色の目をした青年は丁寧に頭を下げた。


「キリア、紹介するよ。僕の婚約者のティア。今回僕らのチームに魔術師として参加してもらう事になったんだ。ティア、こちらはキリア。もう一人の戦闘員だよ」


 カインに紹介され、キリアに向かって礼をする。


「ティア・アタラードと申します。邪魔にならないように頑張りますので、よろしくお願いいたします」

「セディル公爵家長男キリア・セディルと申します。学園一の魔力量を持つティア様にご協力頂けるとは心強いです。こちらこそ、よろしくお願いいたします」


 キリアは真面目で堅物そうな青年だ。セディル公爵家という事は、ニコラスの婚約者候補のルピアの兄かな。見つけられなかっただけで、この前の結婚式にもいたのかもしれない。


 いや、それよりも・・・ティア『様』?


「あの、キリア様、わたくしは平民ですので、そのように丁寧でなくともよろしいのですよ」

「いえ、カイン様のご婚約者様に無礼を働く訳には参りません。ティア様こそ、俺への態度を緩めてください」


 平民の私が会ったばかりの公爵令息に緩い態度を取れる訳がないではないか。

 どういう事かとカインを見ると、苦笑しながら説明してくれた。


「キリアは今年入った1年生なんだけどね、どうも僕とアーサーを慕ってくれているみたいなんだ。是非チームに加えて欲しいと言うから採用したんだよ」

「カイン様とアーサー様の不正摘発や戦いの手腕は素晴らしいですから、憧れる者は多いです。今回同じチームに加えてくださって、大変嬉しく思います」


 キラキラと目を輝かせるキリアにアーサーも苦笑する。


「まぁ、悪いやつじゃないし、剣や弓の腕も立つ。ティアも仲良くしてやってくれ」


 こんな風に憧れてくれる後輩がいるなんて、カインもアーサーもすごいんだね。キリアは私への敵意や害意も無さそうだし、Cクラスのように私を崇め奉る感じも無いし、仲良くなれるといいな。




 放課後。私は自分の研究室にて狩猟大会の為の魔術具作成を行う。


 私が魔力枯渇で一度倒れてからというもの、ツバキは私が魔術具を作る時は出来る限り一緒にいてくれる。ケータイ程の機能が詰め込まれた魔術具じゃなければ問題ないと思うのだが「何かあるといけない」と傍にいてくれるのだ。優しい人だ。


「ティアは今度は何を作り始めたんだ?」

「狩猟大会で使う魔術具だよ。・・・そういえば、ツバキも参加するんだよね?」


 留学生だが、全員参加の催しなのでツバキも参加のはずだ。本当にここで私と研究していていいのだろうかという疑問が生まれる。


「ああ。俺はニコラス王太子やレイビスとチームを組むことになった。絶対カインやアーサーには負けねぇから、見てろよな!」

「ニコラス殿下と?すごいメンバーだね」


 うちの国の王太子と隣国の王子がチーム組むって、身分も魔力も高すぎるメンバーだ。一緒に組むレイビスは大変だな、と他人事のように思う。


「一応俺は、王太子と交流を深める建前で来てるからな。・・・ティア、狩猟大会で、なんだけど」

「うん?」


 ツバキの口調が真剣なものに変わる。

 その目には少し熱が籠っているようで、ドキッと心臓が鳴った。


「俺が取った獲物をお前に捧げる。狩猟大会で俺が上位に入ったら、キスをくれないか」

「え・・・」


 ツバキの手が私の頬に添えられる。


「いいだろう?たかがイベント事だ、皆やっている。そんなに身構えなくていい。頑張った俺へのご褒美だと思ってくれ」


 次々と言い募るツバキの手は少し震えていて。・・・その震える指が唇に触れた。


「――――っ」


 ツバキはイベント事だから、大した意味は無いと言うけれど、紡がれる言葉とは違ってその目は真剣で、きっとツバキにとっては大きな意味があるのだ。

 なら、私は――――



 バンッ!と大きな音を立てて研究室の扉が開けられた。


「カ、カイン?!」

「・・・ちっ、もう来たのか」


 ツカツカと研究室に入って来たカインに、ツバキは小さく舌打ちをした。


 カインは私の肩を引き寄せるとツバキを見据えた。


「カイン、あのね・・・」


 変な勘違いをされては困るので、状況を説明しようと口を開くが、カインに遮られる。


「・・・狩猟大会で上位に入ったらティアのキスが欲しいって言うんでしょう。・・・いいですよ」


「えっ、いいの?」

「いいのか?!」


 意外なカインの返答に私とツバキは同時に驚きの声を上げた。

 ツバキの目があまりに真剣なので、私は断ろうと思っていたのだが、まさかの許可が出てしまった。


「ただし、『上位に入ったら』ではなく『僕らのチームに勝ったら』です。それ以外は認めません」

「・・・いいだろう。カインとアーサーのチームに勝てばいいんだな。やってやろう」


 ツバキが不敵に笑うとカインも唇の端を上げる。


「まぁ、僕らのチームには最高の魔術師がいるので、貴方が勝てる事はないでしょうが。ね、ティア?」


 最後に優しく私に向けて微笑むカインに、ツバキは眉をひそめる。


「最高の魔術師?・・・もしかして、ティアが狩りに参加するのか?」

「あ、うん。だから狩猟大会の魔術具作ってたでしょ?」


 作りかけの術式を指さすと、ツバキはポカンとした顔をした。


「いや、カインに頼まれて作ってるだけかと・・・てか、正気か?!狩りだぞ?危ねぇだろ!」


 ツバキに肩を揺さぶられて頭がグワングワン揺れる。


「ちょっと、理由があって、カインとアーサーに頼んだの・・・」

「はぁ?!理由って・・・」


「ツバキ王子、ティアは僕が守るので大丈夫ですよ」


 私の肩を揺さぶるツバキの手を振り払い、ツバキとの間に入るカイン。


「・・・ティアの魔力に異常があったら俺を呼べよ」

「わかりました。その点だけは頼りにさせてもらいます。前回は全く頼りになりませんでしたが」

「一言余計だ」


 ツバキはカインと一瞬視線を交えると、荷物を片付け始めた。


「じゃあ、俺はカインに勝つ算段を整えに行くから。俺はティアが敵チームでも容赦せずに勝ちに行くからな!お前はキスする心構えでもしておけよ!」


 じゃ!とツバキは研究室を出ていった。




「・・・絶対負けない」


「カイン?・・・んっ」


 ツバキの出ていった扉をしばらく見ていたカインのボソリと呟かれた言葉を聞き返すと、頬に手を添えられ、口付けを落とされた。


 ちゅ、と触れるだけのキスを何度か角度を変えて交わすと、頭がぼんやりとしてくる。


 リップ音をさせて離れた唇を、ペロッと舌舐めずりして拭うカインの色気にドキドキと心臓がうるさく騒ぎ立てる。


「ティア、僕がツバキ王子に勝ったら、僕もティアからキスもらってもいい?」


 とろんと蕩けた目をしたカインが私の唇に指で触れる。


「うん・・・」


 未だにぼんやりとした頭で返事をすると、カインは嬉しそうに笑って、額にキスをくれた。


「じゃ、ツバキ王子に勝てるように、一緒に魔術具作ろうか」



 それから狩猟大会までは、大会で使う魔術具を作ったり、アーサーやキリアと共に連携の練習をしたり、カインと一緒に馬に乗る練習をしたりした。




 そして、あっという間に狩猟大会当日がやって来た。



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