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狩猟大会1

 ゲームのシナリオでは、2年生の秋に狩猟大会が開催された。


 狩猟大会は男子生徒と希望する女子生徒が森へ狩りへ行き、残りの生徒は森の入口の広場でお茶会をしながら帰りを待ち、狩りから帰ってきた生徒達を労う催しだ。

 その際、狩った獲物のポイントが高かったチームには褒賞も出るのだとか。


 ゲームでは、ヒロインは悪役令嬢リリアーナの嫌がらせを受けてお茶会を楽しめずにいたところ、安全なはずの広場に魔獣が出現し、ヒロインに襲いかかる。

 すんでのところで攻略対象が現れてヒロインを守ってくれ、ヒロインはそのお礼にと、攻略対象の頬にキスをするのだ。狙いの攻略対象の好感度が一気に上がるイベントである。


 私はもう3年生に上がったし、私に嫌がらせを行う悪役令嬢のリリアーナもいない、いたとしてもリリアーナはそんな事しない。


 では何故、今このイベントを思い出しているのかというと、今度、狩猟大会の開催が決定したからである。

 本来は昨年の秋に行われる予定だったのだが、夏にレオンハルトの事件が起こり、その後始末やニコラスの王太子就任の式典やツバキの留学等でかなり忙しかった為に中止とされていたのだが、ツバキやシャルロッテとも交流を深める為に何か催しを、との事で開催される事となったそうだ。


 今、学園内はその話題で持ちきりである。

 狩猟に行く生徒は3~5人のチームで行動する。そのチーム作りに奮闘したり、チーム内で作戦を立てたり。

 日にちは1ヶ月後と急な話なので、狩りに参加する生徒達は大慌てで準備をしている。


 ちなみに、狩猟大会は好きな女性へのアピールの場にもなるので、「貴女に獲物を捧げます」と約束して、高ポイントを手に入れると、その女性からキスがもらえるらしい。そして女性側からは、ハンカチに刺繍をして男性に渡し、男性の無事を祈るのだとか。

 これを機会に恋人同士になる人も多いそうだ。


 先程からたまに出てくる『ポイント』だが。

 これは、狩った獲物の種類によってポイントが付いている。ウサギを狩るよりも、鹿を狩った方がポイントが高い。そして、鹿よりも魔獣の方がポイントが高い。


 魔獣は、倒せば魔術具の素の魔石が取れる貴重な動物だ。だからこそ狂暴で力も強い。なので高ポイントに設定されている。


 ゲームでヒロインを襲ったのは、大きなトラの形をして鋭い牙の生えた黒い魔獣だったと思う。

 時期が違うとはいえ、魔獣が襲ってくる可能性があるのに、呑気にお茶を飲んではいられない。


 対策が必要である。






「という訳で、私も狩りに参加したいの。カインとアーサーのチームに入れて!」

「「却下」」

「えぇ?!なんで?!」


 昼休み。カイン、アーサー、ミーナとご飯を食べている最中の私の提案は、カインとアーサーに声を揃えて棄却された。


 狩りに参加するのはほとんどが男子生徒だ。しかし、女子生徒もいる。女性騎士を目指していたり、体を動かすのが好きだったり、そういった生徒は狩りに参加したりもするのだ。私が参加してもいいと思うのだが。


「いや、むしろ何故行けると思ったのか分かんねぇよ。『という訳で』がどういう訳なのかも分かんねぇし」

「戦闘力の無いティアは大人しくミーナ様とお茶して待っててね」

「ティア、狩りは危険よ?カイン様の言う通り、わたくしとお茶していましょう?」


 取り付く島もないとはこの事か。ササッとあしらわれてしまった。

 ・・・しかし、私はめげないよ!


「お願い!邪魔はしないようにするから!自分の身は自分で守る魔術具作るから!」


 魔力が有り余っている私だ。身を守る魔術具をたくさん持っていけば、狩りの邪魔にはならないと思う。もちろん、魔力残量が無くならないように気は配る。


 私の必死のお願いにカインが首を傾げる。


「そもそも、どうして狩りに参加しようと思ったの?別に狩りが好きな訳じゃないよね?」

「えっと・・・耳貸して」


 前世のゲームの話はカインにしか出来ないので、カインに耳打ちをする。


 お茶会をしていると魔獣が襲ってくるかもしれない事。あの魔獣はヒロインを標的にしていた事。ならば狩りに参加していた方が魔獣は出ないかもしれない事。万が一出たとしても、周りに魔獣を倒せる生徒がいれば、戦闘力の無い女子生徒の中に出るよりも被害も少なく済むかもしれない事。


 そう伝えると、カインは顎に手をあてて考え始める。


「・・・なるほどね。それなら、ティアは僕らの傍にいた方がいいかもしれないね」

「でしょう!絶対邪魔にならないように木とかにへばりついているから!参加させてくれる?」


 カインが私の味方になってくれれば話は早い。私は両手を合わせてお願いポーズを取る。


「・・・いいよ」


 しばらく思案したが、許可を出したカインにアーサーが目を剥く。


「カイン本気か?・・・ティアは馬にも乗れないんだろ?大丈夫か?」

「はっ、盲点だった」


 そっか、貴族は馬に乗って狩りをするのか。

 貴族は小さい頃から自分の馬が与えられ、馬に乗る練習をするのだ。当然だが、平民の私は馬も持っていないし、乗った事もない。


「ティアには僕の馬に乗ってもらうよ。元々僕は剣や弓を多く使う予定はなかったからね。・・・それから、ティア」

「ん?」


 あれ、何だかちょっと、カインから黒オーラが出ているな。


「僕らのチームに参加するからには、ティアを木偶の坊にするつもりはないよ。ちゃんと狩りに参加してもらう。その代わり、僕の指示には従ってね?間違っても、勝手に傍を離れて一人で行動したりはしないで」


 あ、これ心配してくれてる感じの黒オーラだ。勝手に行動して危険な目にあった事もあるので、心配してくれているのだ。


「わかった。カインの言う事はちゃんと聞くし、離れない」


 決意を込めてカインを見ると、カインも黒オーラを消してふわりと微笑む。


「うん、約束だよ。・・・アーサー、ティアには魔術師としてチームに貢献してもらうから、ティアにも参加してもらっていいかな?」

「魔術師か、確かにティア程の魔力量があれば心強いな。カインが良いなら、俺は良いぞ」


 よろしくな!とアーサーは笑った。


「ティア、気をつけてね・・・わたくし、ティアの無事を祈ってハンカチに刺繍をするわね」

「ありがとう、ミーナ」


 ミーナは若干涙目で応援してくれた。


 こうして、私は狩猟大会で、カインとアーサーのチームに加わり狩りに参加する事になった。




 ・・・ん?『魔術師』?


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