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お砂糖の時間1

 今日はこの前魔力枯渇で倒れて流れてしまったカインとのデートだ。


「ふふふ〜ん」


 私は買ったばかりの白地に花柄のワンピースにカーディガンを羽織る。髪も兄に結ってもらったので、準備は万端だ。


「楽しそうだな」


 パタパタと動き回りながら鼻歌を歌う私に兄は苦笑する。


「だってカインとのデートだよ?すごく楽しみ!」

「毎日のように会ってるじゃん」

「それとこれとは話が別だよ!デートは特別」

「そんなもんか?」

「そんな事言ってるから恋人が出来ないんだよ」

「余計なお世話だ」


 ぶにっと頬を伸ばされた。


 いひゃい。


「あー、でもそろそろ父さんや母さんが結婚相手を見繕って来るんじゃない?お兄ちゃん、今年でもう20歳でしょ?」


 この国の結婚適齢期は18~23歳ぐらいなので、兄は今ちょうどお歳頃なのだ。この国は恋愛結婚より、親の決めた相手と結婚するお見合いをきっかけにする結婚が多いので、そろそろ両親が相手を連れて来ても不思議ではない。


「そうかもな」

「『そうかもな』って、そんな他人事みたいに・・・」

「俺は、なんて言うか・・・恋愛ってよく分かんないんだよな。ティア見てると楽しそうだとは思うけど。結婚相手として考えるなら、喫茶店を一緒に経営してくれる人なら誰でもいい」


 およそ20歳の青年とは思えない枯れた考えである。


「お兄ちゃんには幸せになって欲しいんだけどなぁ・・・」


 私の大切な家族だ。身内の贔屓目としても、優しくて面倒みの良い兄なので、いい人を見つけて幸せになって欲しいのだが。

 私の言葉に一瞬キョトンとした兄は、ははっと笑う。


「俺は、ティアが幸せになってくれたら、幸せだぞ」

「嬉しいけど、そうじゃないよー!」


 幼い頃から私の面倒をみてきたせいか、親みたいな事を言い出した。

 むー!と怒ると玄関のノッカーの音が鳴った。


「はいはい。ほら、カインが来たんじゃないか?行ってこいよ」

「うん、行ってきます」




「おはよう、カイン」

「おはよう。・・・新しいワンピース?ティアの優しい雰囲気に合っていてすごく可愛いね。服も髪型も可愛い、似合ってるよ」

「あ、ありがとう」


 カインに可愛いって思って欲しくて頑張ったんだけど、すごくストレートに褒めてくれるから照れてしまう。

 こういうちょっと頑張った事を気づいて褒めてくれる所も大好きだ。また頑張ろうって思える。


「最初はスイーツ食べ放題のお店に行くんだよね?」

「その予定だよ。いい?」

「うん!楽しみ!」


 今回は王都に初めて出来たスイーツ食べ放題のお店に行くのだ。

 時間制限付きで、いろんな種類のケーキが食べられるらしい。甘い物好きにはたまらないお店だ。




「わ、すごい行列」


 スイーツ食べ放題のお店は最近出来たばかりだからか大人気で、外にまで行列が出来ていた。これはかなり並ばないといけなさそうだ。


「ティア、こっち」


 行列の最後尾に並ぼうとしたらカインに手を引かれて、店に入る。カインが店員さんに声をかけると、すぐに席に案内してくれた。


「あれ?並ばなくてよかったの?」

「人気店らしいからね、予め予約しておいたんだ」

「わぁ、さすがはカイン!ありがとう」


 なんて気の利く婚約者なんだ。

 と、思ったら続くカインの言葉が少し気にかかった。


「たまには身分も役に立つよね」


 ・・・侯爵家の身分を使って予約したのね。そりゃ優先的に案内してくれるよね。

 何だか複雑だなぁ・・・


 私の思っている事を察したのだろう。カインは苦笑すると、優しく諭すように言う。


「ティアはまだ『平民』って意識が強いと思うけど、僕の婚約者なんだから、いずれ貴族になるんだよ。貴族は外聞とかもあるからね、貴族の身分を使う事も、それなりの物を身に付けたりする事も必要なんだよ。今から少しずつ慣れていこう?」


 ・・・そっか。確かに貴族は見栄とかだけでなく、身分に見合った装い、振る舞いが求められる。礼儀作法等は頑張っているけれど、自分の意識がかなり平民寄りだという事に気づいた。平民の行列に並ぶ貴族はいないよね。


「そうだね、私も少しずつ慣れるように、頑張るね」

「うん、僕も協力するからね。・・・そうだ、ティアにファニールの髪飾りを贈らせてよ。ティアに似合いそうなのがあったんだよね」

「ファニール?!」


 ファニールは平民の私でも名前は聞いた事があるような高級ジュエリー店である。物によっては、平民の家が一軒建つほどの値段のジュエリーを販売しているのだとか。

 そんな物もらってしまったら恐ろしくて付けられないのだが。


 ファニールは勘弁して欲しいなとカインを見るけれど、ニッコリと微笑んで、「慣れていこう?きっと、ティアに似合うから」と言われてしまった。


「私、頑張るね・・・」


 貴族への道のりは厳しいなと改めて思った。







「ん〜。おいしいねぇ」


 ケーキを食べつつ破顔するとカインも嬉しそうに笑う。


「ティアは本当においしそうに食べるね」

「だって、おいしいんだもの」


 スイーツ食べ放題は本当にたくさんの種類のケーキ等スイーツがあって、一つ一つもとてもおいしい。

 ケーキだけでなく、フルーツ、スナック菓子のような塩辛いもの、軽食もあるので、カインはケーキだけでなく軽食でお腹を満たしている。


「食べる姿も可愛いから、いくらでも見てられるよね」


 私を見ながらふにゃりと幸せそうに笑うカインに胸がキュンとする。

 ・・・本当にカインは私に甘いよね。カインは私が食べると幸せそうに笑うので、一緒にいるとついつい食べすぎてしまう。将来、太らないように気をつけよう。


「ティア、このクレープっていうスイーツもおいしいよ。焼きたてで」

「うわぁ、いいなぁ。私も貰ってくる」


 カインの皿に乗っているクレープがおいしそうだったので、席を立って、オープンキッチンに赴く。クレープは注文して目の前で焼いてくれるようだ。



 私がクレープが出来上がるのを待っていると・・・


 ガシャン!


 ドサッ


「痛っ・・・あ・・・」


「大丈夫ですか?」


 テーブルの脚に躓いて転けてしまったのだろう。ケーキの皿を落として顔を青ざめさせている女性に声をかける。

 その濃い紫のショートカットの髪の女性に手を差し出すと、錆色の瞳が困ったように揺れていた。


「すみません・・・」

「お怪我はありませんか?」

「はい・・・」


 すぐに店員さんがやって来て、床に落ちた皿とケーキを片付けてくれていたが、女性は終始申し訳なさそうにしていた。


 はぁ、とため息をついた女性はクレープ待ちの私の後ろに並んだ。


「甘い物、お好きなんですね」


 彼女が持っていた皿には全て甘いケーキが乗っていた。たいていはフルーツとかそんなに甘くない物を挟んで食べるので、単に甘い物が好きなのだなと思っただけなのだが、彼女の返答は少し意外なものだった。


「ああ・・・おかしいよね、こんな見た目なのに」


 困ったように目を伏せる彼女。

 彼女はこの国では珍しいパンツスタイルの女性で、背もスラッとして高く、ボーイッシュ系の見た目ではあるが・・・


 何か見た目と甘い物好きに関係があるだろうか?


「男性でも甘い物が好きな方もいますし、甘い物好きに見た目は関係ないと思いますよ?」


 私の周りに甘い物好きの男性が多いからだろうか、テオは甘過ぎるのは苦手みたいだけど、ケーキも普通に食べるし、アーサーに至っては甘ければ何でもいいタイプだ。この前、筋肉の話をしていたら、「俺の筋肉は砂糖で出来ているんだ」とかよく分からない事を言っていた。・・・とにかく、体格もよくて男らしいアーサーが甘党なのだが、別に変だとは思わない。甘い物好きと見た目は関係無いと思うのだが。


「そう・・・?」


 私の言葉が意外だったのか、錆色の目を見開く彼女。


「はい。それに、私は貴女のような凛々しい見た目の女性も素敵だと思いますよ」


 実際、身長も肩幅もある彼女には、ボーイッシュ系のスタイルはとても似合っているし、かっこいいと思う。


「あの・・・」

「クレープ、お待たせしました」

「あ、ありがとうございます」


 彼女が何か言いかけたが、私のクレープが出来たようだ。店員さんからクレープを受け取る。


「ごめんなさい、なんでしょうか?」

「・・・いや、助けてくれてありがとう」


 私は「どういたしまして」と微笑むと、クレープを持ってカインの待つ席へと戻った。


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