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ケータイ

ティア視点→カイン視点になります。

 今日の授業は全て終了したので、放課後少し残ってケータイの調整をする。

 カインとアーサーは私が終わるまで待っていてくれるらしい。今は私の研究室に二人がいる。


「それって、ティアが倒れた時に作ってた魔術具だろ?ティアってありえねぇくらい魔力が多いのに、それを枯渇させる程の魔術具って何なんだ?」


 アーサーは私の手元を覗き込む。


「ケータイっていってね、魔力電話の発展系なんだけど、声と文字を相手に送る事が出来て、あと写真や動画も撮影、送信できて、本を取り込む事も出来るんだよ」

「へぇ、なんかすごそうだな」


 アーサーが興味を持ってくれたようで、まじまじとケータイを見ると、カインがふぅと息を吐く。


「・・・ティア、わかってるとは思うけど、もうそのケータイは作ったらダメだからね?」

「う、わかってるよ」


 カインにケータイを作って倒れたと言ったら『ケータイ作製禁止令』が出されてしまったのだ。二つ一気に作ったのがダメだったので、一つずつなら作れると主張してみたが、目眩がした時点でダメだと言われてしまった。

 まあ、私もいろんな人から怒られたし、私自身とても身体が辛かったし、もうあんな経験は御免である。


「本当はそのケータイも解体して欲しいくらいだよ。そんな便利な物、他人が知ると欲しがる奴がいるかもしれない。でも作れるのはティアしかいないから、ティアに頼んだり命令したりするかもしれない。・・・ティアが危険でしょう?」

「解体は勘弁して欲しいな・・・」


 このケータイは、私が自分の研究室を持ってから今まで半年間の努力の結晶である。作るのに倒れて迷惑をかけてしまったが、私の頑張りが詰まっているのだ。


「うん。だから、見つからないように、こっそりと使ってね。同じ形の魔力電話を作るとカモフラージュになっていいと思うよ」

「あ、それいいね」


 電話機能だけあるケータイの形の魔力電話が流通すれば、私がケータイを使っていても見た目には分からないのだ。


 カインのアイデアにポンと手を打つ。


 ・・・それにしても、私が倒れたせいでカインは少しケータイに対して嫌悪的になってしまった気がする。

 カインの為の魔力節約タイプのケータイはもう作っちゃってるんだけど、受け取ってくれるかな・・・?


 じっとカインを見ると、「ん?どうしたの?」と優しく微笑んでくれる。


 ・・・言ってみようかな。



「あの、ね、カイン。私、カインの為の少ない魔力で稼働するケータイ、もう作ってあるんだよね・・・カインと電話したり、メールしたりしたいんだけど、受け取ってくれる・・・?」


 そっとカインのケータイを差し出すと、カインは目を見開いた。


「僕の為の・・・?ティアが、作ってくれたの・・・?」

「うん。カインは本をたくさん読むから容量も大きくしてみたし、でも使う魔力は少なくなってるの。一回魔力を込めて五日程持つようになってるし、どうかな?」


 せめてものイメージアップを狙い、カインのケータイの利点を挙げ連ねる。


「・・・もちろんいただくよ。ありがとう」

「!」


 カインは嬉しそうに笑って受け取ってくれたので、ホッとした。


「ティア、これはどうやって使うの?」

「これはね・・・」


 ケータイの使い方を説明する。

 カインはワクワクといった感じで私の説明を聞いてくれるので、嫌がられなくてよかった、勇気を出して渡してよかったと思った。


「ティア、なんかすごく嬉しそうだな?」


 そう思っていたら、顔に出ていたようだ。アーサーに不思議そうな顔をされた。


「実は、私が倒れたせいで、カインがケータイに嫌悪的になってる気がして・・・カインにケータイ受け取ってもらえないんじゃないかと思ってたから、喜んでくれてるのが嬉しくて」

「僕がティアからの贈り物を喜ばないはずないよ?」


 カインが当然というように言うと、アーサーは苦笑した。


「まぁ、それもあるけど。カインはもう一つのケータイは助手のツバキ王子の分だと思ってたんだろ」

「わあー!ちょっと、アーサー!」

「ティアとツバキ王子の二人だけがケータイ持ってるってのが気に食わなかったんだ。それが自分の為の物だと知って嬉しいんだろ」


 カインが慌ててアーサーを口止めしようとするが、カインよりアーサーの方が力が強いらしい。力比べでカインは敗北していた。


「え、そうなの?カイン?」


 ケータイが気に食わなかったのではなく、私とツバキだけが持っているというのが気に食わなかったのか。

 ただ、ケータイを作って私が倒れたので、自分の分も作って欲しいと言う訳にもいかず、モヤモヤとしていたのか。


 カインは視線を逸らして、呟くようにもらす。


「・・・狭量な男でごめんね」

「ううん。やっぱりカインは優しいよ」


 自分がモヤモヤを抱えていながらも、私にケータイ持つことは許可してくれたし、目立たない対策も考えてくれた。カインは狭量なんかじゃないと思う。


「ね、カイン。さっそく今晩電話かけてもいいかな?家でもカインの声が聞きたくて、この魔術具作ったんだよ」


 1年生の学園祭で、エリクの音声転送魔術具を見つけてからの私の願望である。


「うん。僕もティアからの電話楽しみにしてるね」





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 その日の夜、ティアが作ってくれた『ケータイ』という魔術具からティアの声が届いた。


『カイン、聞こえる?すごいでしょ?』

「聞こえるよ、ティアはすごいね」


 距離が離れていてもティアの声が聞けるなんて幸せだな。

 僕と離れていても話がしたいとケータイを作ってくれたティアの気持ちもとても嬉しい。ティアからの贈り物だ、大切にしよう。



 この魔術具は遠く離れている人にも声を届ける事が出来て、更に文字を送ったり、色付きの写真や映像を撮ったり、送ったりも出来るらしい。

 昨年エリク先輩が作っていた魔力電話は音声のみだったので、ティアがこの小さい魔術具にどれほど術式を詰め込んだのかが窺える。


 ただ、これだけ詰め込むとなると、尋常ではない魔力量を使う事と、魔術具を作る時のイメージが明確じゃないと魔術具は作れない。

 僕の予想だけれど、ティアは前世に実際あったという物を参考に作ったらしいので、明確なイメージが出来た事とティアの多量の魔力が生み出したティアしか作れない魔術具だと思っている。


『そうそう、そのケータイで本の取り込みも出来るんだよ!』

「本の取り込み?」

『うん!』


 ティア曰く、本の上にケータイを置いて魔力を通せば内容をケータイ内に取り込めるらしい。そしてケータイ一つでいつでもどこでもその本を読むことが出来るし、色々な本を取り込めば、知りたい情報だけ探し出す事も出来るらしい。


「・・・本当にとんでもない物を作ったねぇ」

『そうかな?』


 ティアには自覚が無いのが困る。

 これ以上作らないように約束してもらったけれど、これはたくさん作っていい物ではないと思う。

 ティアは本の持ち運びも楽になるし、かさばらないから便利だろうな、くらいの気持ちで作ったんだろうけど、本の取り込みが可能ならば、これさえあれば王宮の機密文書でも禁書でも証拠も残さず簡単に盗み出す事も出来るのだ。悪用し放題である。

 ・・・真っ先にこんな使い方を思い浮かべる僕の性格が悪いのかな?


『それでね、本の取り込みが出来たから、イメージさえしっかりしていれば、前世では創作の世界でしか出来なかった事も魔術具で出来るようになるんじゃないかって思ったの!』

「ティア、わかってるとは思うけど・・・」

『ちゃんと魔力量考えて作るようにする!』

「うん。それから、この際ツバキ王子でもいいから、たくさん魔力使うような魔術具作る時は誰かが一緒にいる時にしてね」

『わかったよ。気をつけるね』


 ティアは素直に返事をしてくれるけれど、僕はまだ倒れたティアの冷たい感触が消えなくて、怖いんだ。

 ティアが僕の前からいなくなってしまうかも知れない、あんな恐怖はもう二度と味わいたくない。


 ティアが倒れた時、僕は目の前の景色が全て色褪せていくような感覚がした。まるで、砂でも掴もうとしているみたいに手の中から色がこぼれ落ちていく感覚。

 ティアが目覚めずにベッドで眠り続ける間も、時間が許す限り寄り添った。そうしないと、気づいたらティアがいなくなってしまうような気がして、不安だった。


 ティアの目が覚めて、『抱きしめて欲しい』と言うように腕を広げられた時は心の底から安堵した。抱きしめたティアの体温は、冷たくも熱くもなくて、いつものティアの甘い香りがした。ティアはここにいる。僕を抱きしめ返してくれている。そう思って、やっと、僕の世界に色が戻った。

 ティアがいなくなった世界なんて僕には耐えられない。そう強く感じる出来事だった。



 こんな事を考えていたら、ティアに会いたくなってきた。会って、抱きしめて、ティアが生きてるって実感したい。


「会いたい・・・」


 思わず口から溢れると、ティアがコクンと喉を鳴らす音が聞こえた。


『・・・私もだよ。カインの声が聞けるのは嬉しいけれど、会いたくなっちゃうね』


 ティアの寂しそうな声に、きゅんと胸が鳴る。ティアも僕と同じ気持ちでいてくれている。


 ああもう、好きだ。大好きだ。


 僕のティアを想う気持ちはとどまる事を知らなくて、魔術学園に入ってからはほとんど毎日ティアに会えるし、僕とティアの関係も進展している。けれど、足りない。足りないんだ。

 もっと、もっとティアが欲しい。


 出来ることなら本当にティアを閉じ込めて、誰にも邪魔されないように僕だけの世界で愛してあげたい。


 大きくなり続けるこの独占欲を、少しでも満たしたくて・・・


「ね、ティア。この前行けなかったデート、今度の休みに行かない?」

『うん、行きたい!』

「じゃあ、決定ね。少し予定を変更しようと思うんだけど、いいかな?」

『いいよ。私のせいでこの前行けなかったしね、カインの行きたい所行こう』

「ありがとう」


 ふふ。ティアとのデートの予定ができた。

 この前アーサーも言っていたけれど、少し贈り物をさせてもらおうかな。僕の贈った物をティアが身につけていると、ティアは僕のものなんだって、ティア自身が示してくれているようで、少し独占欲が満たされる。


 ただ、ティアはあまり高額な贈り物だと難色を示すかもしれない。婚約記念のペンダントを喜んでくれたように、僕に贈られるのが当たり前のような感覚になってくれるといいのだけれど。


 どうやって受け取ってもらおうかな。


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