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憂鬱なお茶会:アーサー視点

 俺の名前はアーサー・ラドンセン。

 伯爵位で騎士団長の父を持つラドンセン伯爵家の長男だ。


 最近俺に平民の友達が出来た。

 彼等との出会いは最悪で、チョコレートメインのスイーツ試食会がある事を我が家の料理人から聞きつけ、無理矢理ついて行ったのが始まりだった。

 山盛りのチョコレートに浮かれた俺は走って転び、近くにいたティアにチョコレートソースをぶちまけ、謝罪もせず大爆笑してしまった。そこでティアの友達のアリアとテオにこっぴどく叱られたのだ。


 俺は昔から親にすら叱られた事がほとんど無く、使用人もひたすら甘やかしてくれていたので、その時の衝撃といったらない。

 最初は怒りで言い返してしまったが、テオの話を聞くと、どう考えても俺が悪いと思ったし、まず謝るのが当然だと思った。

 ティアも笑って許してくれて、ティアの懐の広さに感謝した。


 この日をきっかけに俺はテオを兄貴として慕い、アリアを姉御として敬い、ティアを妹分のように可愛がった。


 それから何度か4人で遊ぶようになったのだが、俺の身分がバレた時にはゾッとした。

 兄貴とティアに今までの非礼を詫びられた事も距離を置かれたようで悲しかったが、姉御に「アーサー様」と呼ばれた時には、水をかけられ、敬っているような口調で蔑んだ言葉をかけられた事を思い出し、ゾワゾワと寒気が上がってきた。

 今まで通り接してくれと泣いて頼めば苦笑しながらもいつも通り接してくれて、とても嬉しかった。

 ・・・姉御にはちょっとキツめな口調で命令されるぐらいがちょうどいい事が分かった。



 さて、今日はそんな友達と遊ぶのではなく、貴族同士のお茶会に来ている。


 ロサルタン公爵家主催で、錚々たるメンバーが集まっている。

 まだ社交界デビューしていない子供達の顔繋ぎ場といった所だろうか。大体似たような世代の子供達が招待されている。


 正直憂鬱だ。

 こうしてお茶を飲んでいるより、兄貴達と過ごす時間の方が何倍も有意義だと思う。


 俺は大人達のおべっかと腹の探り合い合戦を横目に会場を見回すと、端っこで一人で本を読んでいる子供を見つけた。


 焦げ茶色のふわふわした髪の毛は整髪料で整えられており、濃い緑色の目をした少年。全体的な色味が暗いからだろうか、とても陰鬱な雰囲気を纏っているように見える。

 この一見華やかなお茶会には不釣り合いに見えた。


「なぁ、何読んでんだ?」


 興味を持った俺はそいつに話しかけてみるが・・・


「・・・」


 相手は俺を一瞥しただけで返事は無かった。

 と言うか、目が『話しかけんな』と言っていた。


「俺はアーサー・ラドンセン。ラドンセン伯爵の長子だ。よろしくな!」

「・・・カイン・ファロム」


 お!返事が返ってきた!

 以前の俺だったら最初に返事が無かった時点で興味を無くして他に行っていたんだろうけど、兄貴達と一緒にいるようになって、俺の考え方も変わってきた。何事も根気強く続ける事が大事なのだ。


「そうか、ファロム家の!」


 ファロム家は当主が宰相を務めている侯爵家だ。このお茶会の中では主催のロサルタン公爵家に次いで地位が高い家になる。そう言えばそこの次男坊が俺と同い歳だったはずだ。


「なぁ、カインって呼んでいいか?俺も気軽にアーサーって呼んでくれ!よろしくな!」

「・・・」

「なぁ、カイン、さっきから何読んでんだ?・・・俺も最近友達の影響でよく本を読むようになったんだけどな、」

「・・・ねぇ」

「何だ?」


 何とか仲良くなれないかと思った俺はカインに根気強く話しかける。

 カインは低く呼びかけたと思うと、パタンと本を閉じ俺に顔を向ける。正面から見据えたその目には、光が無かった。


「君がファロム家に媚びを売りたいのなら、僕じゃなくて兄様に愛嬌振り撒いた方が良いよ。跡継ぎは兄様だから」


 そう言ってカインが指差した先には、ふわふわとした明るい茶髪に黄緑色の目をした人当たりの良さそうな少年がいた。顔立ちはカインそっくりで、カインの色味をそのまま明るくしたような少年だが、纏っている空気が全然違う。彼の周りは賑やかで明るい。


 俺がカインの兄を見ているとカインは話は終わったとばかりに読書を再開させた。


「俺はファロム家に媚びを売る事には興味無い。カインと仲良くなりたいのだが?」

「・・・は?」


 カインが少し目を見開く。

 お、初めて表情が変わったぞ。


 俺はカインの隣に腰掛ける。カインは何も言わなかった。


「さっき言った本に興味を持たせてくれた友達な、平民なんだ。初めは身分を隠して仲良くなったんだが、すぐにバレてな。でも変わらず接してくれている。俺が間違った事をしたら叱ってくれて、伯爵令息じゃなく、ただのアーサーとして接してくれる。そういう存在って大事だと思うんだ。もちろんこの国の身分制度を否定するつもりは無いが、それが全てじゃないだろう?俺はカインと身分を超えた友達になれたらと思っている」


 どうだ?と聞いたら俺の話を黙って聞いていたカインがポツリと話し出した。


「・・・僕も、そういう存在の人がいるよ。君の事はまだ信用出来ないけど、隣に座るぐらいは許してあげる」


 プイッと顔を逸らすカインだが、少しは認めてくれたみたいだ。


「カインにも大切な人がいるんだな!どんな奴なんだ?」

「・・・彼女は優しくて、可愛くて、明るくて、キラキラした目をしてて、たまに抜けている所もあって、でもそこもまた可愛くて・・・僕の全部を受け止めてくれる、そんな子だよ」

「ベタ惚れだな!」


 ビックリしたよ!大切な人の事を話し出すとさっきまでの無愛想は何処へやら、急に柔らかい表情になって、饒舌になるんだから。

 てか、彼女だし女だな。想い人なんだな。へぇー。

 カインにこんな一面があったとは。きっとこのお茶会のメンバーのほとんどは知らないのだろう。何だか得をした気分だ。


 その後も俺はカインと色々な話をした。

 カインは話してみると案外気さくな奴で、特に大切な人の話では自慢するように色々な事を話してくれた。

 カインは一見全てに無関心に見えるけど、大切だと思った人は全力で大切にする熱い奴なんだと思った。


 俺もカインにとって友達だって言ってもらえるようになれたらいいな。そしていつか、俺の大切な友達と、カインとカインの大切な人と一緒に遊べたらいいなぁと考えながら。


 憂鬱だったお茶会はカインという友達を見つけ、有意義な時間になり、終わりを告げた。

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