魔力枯渇1
「で、出来た・・・!」
「出来たな・・・!」
ここは私の研究室。
何が出来たって?それはもちろん・・・
「ケータイが出来たよ!」
「よかったな、ティア!」
一緒に喜んでくれるツバキと手を合わせてハイタッチする。
とうとう出来たよ!携帯電話!
大きさも現代日本のスマホみたいな大きさまで小さくしたし、電話機能はもちろん、メール、写真・動画撮影、ついでに本をスキャンして内容を取り込める機能をつけたのだ。たくさんの本を読み込めばそれだけ情報が入るから調べ物も簡単だ。
「それにしても、なんで『ケータイ』なんだ?元は魔力電話だろ?」
「携帯出来る魔力電話だからだよ」
「『ケーデン』とかの方が分かりやすくねぇ?」
「私の中では『ケータイ』だもの。もしくは『スマホ』・・・って、あれ?」
クラり、と目が回り机に手を付く。
「ティア?大丈夫か?」
「・・・ん。ちょっと目眩がしただけ」
「・・・一気に魔力を使いすぎたのかも知れないな。少し休め」
ツバキが椅子に座らせてくれて、背中をぽんぽんと撫でてくれる。
私は行儀が悪いけれど、ペトっと机にうつ伏せになる。
・・・ちょっと楽になってきたかも。こんな体勢、研究室以外じゃ出来ないけれど。
「魔力を一気に使いすぎると目眩がするの?」
その体勢のままツバキに話しかける。
魔術の授業でも聞いた事は無いし、カインやアーサーも授業やテストで魔力を使ってもそんな素振りは無かったと思うのだが。
「ああ。・・・リオレナール王国の建国の話は知っているか?」
「え?国がバラバラだった時に異民族が国を纏めて建国したって話?それがどう繋がるの?」
脈絡のない話に疑問符を浮かべるとツバキも椅子に座り、頬づえをついて話し始めた。
「つまり、俺たちの先祖は異民族だ。この辺の国の人々の持つ魔力とは少し性質が異なるんだ」
「え、そうなんだ」
「俺たちは魔力量が尋常じゃなく多いだろ?その反動か魔力が減りすぎると身体が動かなくなる。魔力の無い状態が長時間続くと死に至る事もあるそうだ」
「死っ?!何それ、知らない」
「可能性の話だ。ティアの魔力量じゃまず起きないだろう」
「そっか・・・」
「ちなみに、俺たちは魔術具なしでも魔力を暴走させ、放出する事が出来る。我が王家はこれを大衆の前で上手くコントロールして力を示し、支持を得ている」
「そんな事出来るんだ。でも『暴走』なんだね」
この世界で魔力を使うには魔術具が必須だと思っていたよ。
「ああ。身体が一気に熱くなって、魔力が溢れ出る。そして後でぶっ倒れる」
「ダメじゃん!」
「だから『暴走』なんだよ。やるなよ?」
「やり方わかんないから」
後で倒れるようなそんな危ない事しないよ。大衆の前で力を示す必要も無いしね。
「この辺の国の人はどうして大丈夫なのかな?」
「俺の予想だけど、たぶん、この辺の国の人には身体の中の魔力の箱に制御する物が付いているんじゃないかと思う。減りすぎないように、暴走しないように調節する物が」
「私達にはそれが無い・・・?」
「たぶんな。その代わり魔力量がかなり多い。でも、この近辺にそんな民族いないから、俺たちの先祖はすごく遠くから来たんだろうな」
「へぇー。黒髪黒目もその異民族の遺伝なんだよね?」
「だろうな。リオレナール王国の王族の名前も初代が残した手記から取ってきているんだぞ。たしか、植物の名前らしいが、そんな植物聞いた事ないよな」
「えっ」
それって、ツバキとかサクラとかの事?
この世界では変わった名前だと思っていたけれど・・・もしかして、リオレナール王国を建国したのって、日本人?
というか、黒髪黒目だから、転生じゃなくて転移とか?!そんな事あり?!
いや、事実私が転生してるんだから転移もあるかも・・・?
ううーん・・・考えても分からないね。もう亡くなってる人達の事だし・・・。
「ティア、具合はどうだ?」
「ん。だいぶ良くなってきたよ」
私は身体を起こして椅子に座りなおす。
目眩も治まったし、一時的なものみたいだ。
「そういえば、この間話したチョコレート専門店は覚えているか?」
「あっ、それ!詳しく聞きたかったの!」
チョコレート専門店とかすごく興味あるよ!甘い物万歳!
私が食いつくとツバキはクスクスと笑う。
「今度予定が合う時にニックと俺とティアの三人で行かないか?喫茶店跡取りのニックの勉強にもなるし、ティアはチョコレートが食べられる、名案だろ?」
「三人で・・・?」
「俺はニックとティアとゆっくりと話したいしな」
ツバキとふたりきりじゃないならいいかな?身内の集まりみたいなものだしね・・・
「お兄ちゃんにも聞いてみて、また返事するね」
「わかった。いい返事を期待してるぞ」
そんな話をしているうちに、授業時間終了の鐘が鳴った。
「じゃあ、俺は今日用事あるから帰るけど、ティアは残るのか?」
「うん。カインとアーサーが新入生歓迎パーティーの後片付けあるの。それが終わるまでもう少し魔術具作りしてるよ」
何せケータイは1台では意味が無いのだ。カインが使えるような消費魔力の少ないケータイがもう1台必要だ。
「わかった。無理するなよ」
「うん。またね」
ツバキが研究室を出てから、私は術式の書いた魔紙を取り出す。
たぶん、これで消費魔力の少ないケータイが出来ると思うんだけど・・・
私が最近試しているやり方で、日本語を術式に組み込んでみている。この世界の文字ではない日本語は術式と判断されるのか、これを入れると術式が簡略化でき、使用時の魔力の消費が一気に減るのだ。
その代わり、作る時にかかる魔力量は増えるが、私の魔力量ならば問題無いだろう。
目をつむり、身体の中の魔力の箱を覗いてみる。
・・・うわ。さっきのケータイ作りで4割くらい減ってるよ。
こんなに減っているのは初めてだ。そりゃ目眩もするな。
うーん、出来ればもう一つも今日作ってしまいたいんだよね。
さっきより使う魔力は増えると思うから、5割くらい使ったとして、残り1割か・・・
ツバキは魔力を使いすぎると身体が動かなくなるって言ってたけど、すごくだるくなるとかかな?
カインとアーサーが終わるまで休んでれば回復するかな?
「よし、やっちゃえ」
明後日の休日はカインとのデートなのだ。その時にこのケータイをプレゼントしたい。いつも私を大切に守ってくれるから、私も何かお礼をしたいのだ。
私は魔石に術式の魔紙を乗せ、魔力を込め始めた。
・・・う、思ったより魔力持っていかれる・・・!
魔石に魔力がグングンと吸い出される感覚に冷や汗が伝う。
あ、ヤバい。
そう思った時に魔石の変化が終わってケータイが出来上がった。
私の意識はそこで途絶えた。