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新入生歓迎パーティー(3年生)2

 ニコラスはツバキの方を向く。リオレナール王国の王子であるツバキに挨拶に来たのだろう。


「ツバキ王子、こちらはネルラント王国のシャルロッテ王女です。先日から留学生としてやって来ております」

「お初にお目にかかります、ツバキ王子。ネルラント王国からまいりました、シャルロッテ・ネルラントと申します。以後お見知りおきを」


 ニコラスの紹介の後にシャルロッテが可愛らしい笑顔を浮かべ、丁寧に膝を折って礼をする。


「これはご丁寧に。リオレナール王国第三王子ツバキ・リオレナールと申します。よろしくお願いいたします、シャルロッテ王女」


 ツバキも丁寧に礼を返す。王子様らしい優雅な振る舞いだ。

 顔を上げたシャルロッテは、ほぅ、と潤んだ目をして頬に手を当てる。


「リオレナール王国の王族の方は黒髪黒目に整ったお顔立ちの方が多いとお聞きしましたが、本当なのですわね・・・たたずまいにも気品がございますわね」

「恐れ入ります」


 ・・・随分とツバキに熱烈な視線を向けているけれど、シャルロッテはニコラスの婚約者候補だよね?

 もしかして、ゲームのツバキルートはシャルロッテが悪役令嬢だったりしたのかな。


「きゃっ!」

「おっと」


 方向を変えようとしたのだろう、バランスを崩したシャルロッテが何も無いところで躓き、ツバキに受け止められた。


「大丈夫ですか?」

「ええ・・・ありがとうございます、ツバキ王子」

「いえ、シャルロッテ王女はこの国にやって来てまだ日が浅いですからね。疲れが出ているのでしょう。お気をつけください」


 ツバキが紳士的に微笑むと、シャルロッテも可愛らしく頷いてツバキから離れた。


「・・・あの、こちらの方もリオレナール王国の方かしら?」


 シャルロッテの青い目が私に向けられた。

 こてん、と首を傾げる仕草は可愛らしいのだが・・・何だろう、視線に違和感がある。


「いえ、ティアは我が国の平民ですよ。魔力が多いので魔術学園に通っているのです」


 ニコラスが私はリオレナール王国には関係ないと擁護してくれる。


「・・・平民?」


 シャルロッテが低く呟くと、私を見て目を細めた。


「お初にお目にかかります。ティア・アタラードと――――」

「では、こちらの方はどなたでしょうか」


 くるりとニコラスを振り返り、カインを指すシャルロッテ。


 えー・・・無視ですかー?


 一瞬とても冷たい目で見られた。平民なんて視界にも入れたくないという感じだろうか。

 私も王女様とあまり関わりたくはないから別に良いけどね。


「こちらは、カインです。我が国の宰相の息子で、とても優秀なのですよ。すでに文官仕事もしてくれています」


 ニコラスの紹介にカインも礼をする。


「ファロム侯爵家次男、カイン・ファロムと申します」

「シャルロッテ・ネルラントと申します。・・・もしかして、カイン様はあの『冷血の狼』の?」

「・・・そう呼ぶ人もおりますね」


 二つ名を聞いてカインが嫌そうに顔をしかめるが、シャルロッテは「まあ!」と顔をほころばせた。

 彼女が動くとサラリとした金髪が揺れる。


「あたくし、『冷血の狼』のファンですのよ。次々と不正を暴き国を正し導く存在。噂ではもっと怖そうな方だと思っておりましたが、まさかこんな美しい男性だったなんて・・・噂なんて頼りになりませんわね」


 とろん、とした目付きでカインを見つめ、カインの手を取り胸の前で愛おしそうに握るシャルロッテ。

 ・・・モヤっとした気持ちが湧き上がる。


「そうですか」


 カインは抑揚の無い声で返事をすると、パシっとシャルロッテの手を振り払い、ハンカチを取り出して自分の手を拭った。


「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」


 お、王女様の手を振り払った上に、まるで汚い物でも触ったかのようにハンカチで拭った・・・!


 場の空気が凍りつくのが分かった。


 えっと、かなり失礼だけど、大丈夫かな?!不敬罪とかならないかな?


「ええと、カインはちょっと潔癖な所がありまして!そうですよね、ティア?」

「え、はい。そうなのです!」


 慌てて場を取り持つ穏健派ニコラスに話を振られ、首を縦に振る。


 まぁカインは、潔癖どころか家にGが頭文字に付くアイツが出た時は、厚紙一つで退治してくれる人だけどね!


「・・・何故貴女がカイン様の事を知ったように言うのかしら?」


 うわっ、顔は笑っているのに目は笑ってないよ。怖っ。


 シャルロッテの冷たい視線にたじろぐと、ニコラスが間に入ってくれる。


「ティアとカインは婚約しているのですよ。それも親の決めた婚約ではなくお互いに愛し合った上での婚約なのです。素敵ですよね」

「・・・愛?」


 一瞬、シャルロッテの視線が訝しげな物に変わるが、すぐに「まあ、まるで夢物語のようで素敵ですわね」と微笑んだ。

 そのシャルロッテに答えたのはカインだった。


「ええ。幼い頃、ティアから情熱的にプロポーズしてくれたあの日から、もう僕はティアに首ったけなのです」


 私の腰に手を回し、もう片方の手で私の手を絡め取って持ち上げ、手の甲にキスを落とすカイン。


「ふぇ」


 ポンっと顔が赤くなる。


 ちょっ、「情熱的にプロポーズ」って、私達の婚約結ぶ時は、「結婚してください」「いいよ」みたいな軽い感じじゃなかったっけ?契約成立!みたいな感じじゃなかった?


「ティアは何年経っても僕を魅了し続けてくれるので、ちゃんと責任を取ってもらわないと・・・ね、ティア」

「ほぇっ」


 カインの慈しむような優しい眼差しに何も言えず、心臓がうるさく騒ぎ立てる。

私がカインを魅了しているわけじゃなくて、カインが私を魅了してくるのだと思うのだが。


「・・・ニコラス王太子、あたくしデザートが食べたいですわ。案内してくださいますか?」


 そんな私達に興味を無くしたのか、シャルロッテはニコラスの腕を取って微笑んだ。


「ええ、行きましょうか。では失礼いたします」


 ニコラスは私達に挨拶をして、シャルロッテを連れて離れて行った。




「くっ、・・・ははっ」


 なんだか笑い声が聞こえるなと思ったら、ツバキが口に手を当てて笑いをもらしていた。


「・・・ツバキ王子?」

「はっ、あー、面白い。あの女狐の悔しそうな顔、見たか?手を振り払われてポカンとする顔も傑作だったな」

「女狐、ね。・・・やはり彼女はそういった類の女性でしたか」


 カインが眉をひそめる。ツバキに、じゃなくてシャルロッテを思い出しているのだろう。


「噂では顔のいい男は一通り唾をつけるタイプらしいぞ。か弱く可愛い女性の振りをして近づいてくるから面倒だったが、カインの冷たい態度を見てたらスッキリした。俺ちょっとだけカインを好きになれそうだぞ」

「僕は変わらず嫌いです。ティアに近づかないでください」

「それは無理だな。てか、とうとう『嫌い』ってキッパリ言いやがったな」

「言ったことありませんでしたっけ?」


 んん?変わらず言い合いをするカインとツバキだけど、ちょっとだけ・・・


「仲良くなった?」

「「なってない!」」


 口を揃えて否定するカインとツバキに思わず笑ってしまった。



 ちなみに、夜風に当たりに行ったミーナは帰ってくるなり真剣な顔で、「ティア、わたくしね、今とても創作意欲が湧いているのよ。ちょっと早退させてもらうわね」と言って足早に帰っていった。


 ・・・創作意欲?


タイトルは「新入生歓迎パーティー」ですが、全く新入生を歓迎していませんね。

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