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ドレスとヒール2

前半ティア視点、後半カイン視点になります。

「今日はどうしたの?」


 祖母の礼儀作法の指導がある日は会えないって伝えてあるからカインが来ることはないのに、どうしたのだろう。


「ティアのお祖母さんに呼ばれたんだ」

「おばあちゃん?!」


 祖母の方を見るとふふっと笑っていた。


「んふふ〜。今日は初めてのドレス姿だからね。歩くのもまだ慣れてないだろうし、エスコート役が必要でしょう?」


 祖母はそう言って、悪戯が成功したみたいに楽しそうに笑った。



 そして現在、私は廊下でカインの腕を掴んでプルプルしている。


 いや、決して寒いとかそういう訳ではない。

 ヒールの靴を履くのが前世ぶりで、どうやって立つのか分からなくなったのだ。部屋を出る数歩で既にカクンッと足を捻った。怪我はしなかったけれど。


 カインはとても心配そうにしてくれるし、私が倒れそうになったら支えられるように構えてくれている。優しい。


「ティア、エスコート相手の腕は両手でガッチリ掴むものじゃないのよ。あと背筋を伸ばしなさい」

「はいっ」


 部屋を出たから祖母の礼儀作法指導が始まった。

 今日は私の部屋から祖母の部屋まで歩き、お茶をして、私の部屋に戻るまでが課題らしい。


「ティア、ゆっくり歩くからね?」

「バッチ来い」

「言葉遣い」

「わかりましたわ」


 しまった。カインから話しかけられるとついいつもの感じで返してしまった。即効で注意された。祖母は礼儀作法に関しては厳しいのだ。


 ゆっくりと一歩一歩、歩くうちに少し、本当に少しだけ歩き方が分かってきた気がする。

それでも何度か足を捻ってカインに支えられながら、なんとか祖母の部屋に到着する。


「ふむ。5点て所ね。まだまだぎこちないけど、姿勢は良くなって来たわよ」

「ありがとう存じます」


 やっぱり慣れが大事ね、という事でこれからも度々ドレスで指導を受ける事になった。




「はふぅ。終わったー」


 部屋に戻り、普段着に着替えた私はグッと伸びをする。


「お疲れ様」


 カインがニコッと笑って入れたての紅茶を目の前に置いた。


「ありがとう。ごめんね、私の家なのに紅茶入れてもらって」

「気にしないで、疲れたでしょう?」

「うん。ドレスっていろいろ大変なんだって思ったよ」

「そうなんだね・・・でも、」

「でも?」


 カインは軽く頬を染めて俯いたかと思うと、顔を近づけて私の目を覗き込んできた。


「ドレス姿のティアも可愛くて素敵だったよ。それに、一番にエスコート出来るなんて、すごく得した気分だよ」

「〜〜〜っ!」


 な、ななな、何これ?

 顔がボンッてなった!カインはいつの間にそんな甘い台詞を言うようになったの!

 私、現実でそんな台詞言われた事無いから、どう反応したらいいのかわかんないよ!でもカイン、言った後に自分でちょっと照れてる!可愛い!


「だから、その、また僕にエスコートさせてね」


 カインの上目遣いっ!可愛い!!


「こちらこそ、よろしくお願いします」





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 今日は僕は、ティアのお祖母さんにティアの礼儀作法の指導のエスコート役として呼ばれた。


 ティアには僕が来る事を知らせていなかったのだろう、驚いて目を丸くするティアはとても可愛かったし、ドレスを着たティアはいつもよりも可愛らしくて、まるで何処かのお姫様みたいに綺麗だった。


 おっかなびっくり歩く姿はお姫様ではなかったけれど、僕の腕にしがみつくティアの姿はそれはそれで可愛く思うのだから、僕は相当ティアの事が大好きなのだろう。


「カインくん、ちょっといいかしら?」


 ティアの家を出ようとすると、ティアのお祖母さんに呼び止められた。


「はい。なんでしょうか」


 ティアのお祖母さんは平民だと言うのが信じられないくらい気品の溢れた方だ。ティアの礼儀作法の指導役なのも納得がいく。


「一つ、お願いがあるのよ」

「はい」


 なんだろう。いつもニコニコしている穏やかな人だから真剣な表情をしていると緊張してくる。


「もしも、外でティアがいきなり倒れたり、体温が上がったり、逆に下がったりしたら真っ先にわたくしの所に連れて来てちょうだい」

「ティアが体調不良を起こしたら、という事でしょうか?」

「ええ、そうね。実はわたくしは昔、医者をやっていた事があってね。家族の体調はわたくしが診ているのよ。だから、お願い。その辺の医者じゃなくて、必ずわたくしの所に連れて来て」

「はい。わかりました」


 真剣な声色に僕が頷くとお祖母さんは安心したように笑顔を作る。

 医者をやっていたのか。喫茶店よりもよっぽど稼げる仕事だろうに。何故辞めたのだろう。


 この時の僕は、まだお祖母さんの言葉の意味をきちんと理解してはいなかった。僕がこの言葉の本当の意味を理解するのは、魔術学園入学以降である。

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