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贈り物:アーサー視点

 

「おつかれー」


 カインの部屋の扉を勢いよく開ける。

 昔は「もう少し静かに入って来てよ」とか文句を言われていたが、最近はあまり言われなくなった。諦めたな。


「お疲れさま。ティアは無事?」

「無事だ。言われた通り、ティアに気付かれない内に片付けたぞ」

「ありがとう」


 今回カインはリオレナール王国の第一王子の不祥事を暴いた。

 そのおかげで、リオレナール王国からニコラス殿下への婚約者候補推薦の話は無くなったし、サクレスタ王国はリオレナール王国に貸しを作る事が出来た。

 最近、ツバキ王子がやたらとティアを口説こうとするので、その牽制らしい。第一王子は調べれば簡単に埃が出てきてやりやすかったとカインが黒い笑顔を浮かべながら言っていた。


 それから、その第一王子がツバキ王子に気に入られているティアを害なすかもしれないから、こっそりとティアの周囲を見張って欲しいと言うので、今回俺はティアの護衛を行った。怪しい男は無事に捕まえたし、ティアには気付かれなかったし、バッチリだ。


「そういえば、今回も叙爵の話は蹴ったんだろ?」

「うん。叙爵はまだ早いからね」


 カインはこれまでも何度か叙爵の話が来ているらしいが全て断っている。

 表向き『まだ学生の身分に叙爵は不相応なのでお断りします』と言っているが、本音は『叙爵なんて受けたらティアに何かあった時に動きにくいだろうが』である。

 ティアに何かしらあれば国をも標的にする予定である。恐ろしい奴だ。まぁ、さすがに卒業すれば、身分も必要になるので受けるだろうけれど。


「代わりに褒賞金はたくさん頂いたよ」

「へえ、何に使うんだ?」

「次の軍資金」

「・・・カインって、金持ってるのにあんまり使わないよな」


 カインは侯爵家という家のお金も入ってくるし、不正摘発や戦争回避で褒奨金もたんまり入って来ているはずなのだが。


 カインが金かけてるのなんて、軍資金を除けば、ティアの御守りの魔術具か部屋にたくさん置いてある本くらいだろうか。どちらもカインからすれば微々たるお金だろうけど。


「あ、せっかくだから、ティアに贈り物とかはしないのか?」


 意外な事に、カインはあれだけティアを溺愛しているのに、あまり贈り物をしたりはしていない。誕生日に花束とか、美味しい菓子とか、御守りのアクセサリーくらいである。


「ティアの喜ぶ贈り物って難しいんだよね・・・」

「あー・・・、確かに、貴族の普通の女性みたいに、ドレスや宝石じゃ喜ばなさそうだな」


 ティアをその辺の貴族の女性と同列に考えてはいけないんだった。

 ドレスよりも動きやすい服を好むし、宝石を贈った所で「いったいいくらするんだろう・・・」と困らせてしまいそうだ。


「前にレオンハルトがティアに『欲しいものは?』って聞いて、『平凡な日常』って答えるくらいには物に興味無いんだよね・・・」

「『平凡な日常』って・・・贈れる物じゃないな」


 その答えではレオンハルトもさぞかし困った事だろう。


「そうなんだよね・・・。僕だってティアの頭のてっぺんから足のつま先まで僕の贈った物で飾り立てて欲しいとは思うんだけどね。やっぱり喜んでもらえないと意味無いしね」

「その発言は普通に引いたけどな」


 カインはやっぱりカインだった。ティアに関しては独占欲の塊である。


「でもさ、宝石はともかく、ドレスはいいんじゃないか?ティアって、学園のパーティーはいつもお古をリメイクして着ているんだろ?あれでも充分似合ってるけど、ティア用に作ったドレスがあってもいいんじゃないか?」


 今の豪華なドレスもティアに似合うが、ティアの為に作ったドレスならもっと可愛くなると思うんだよな。

 そう提案するが、カインは顔をしかめる。


「ドレスはダメでしょ」

「え、何でだ?」


 即否定される理由が分からなくて首を傾げると、少し躊躇いがちにカインが声を潜める。


「・・・男が女性に服を贈るのは、違う意味が付随されるじゃん?」


 ・・・はぁ?

 ちょっと照れてる所を見ると、これはアレか?

 男性が女性に服を贈るのは『これを着た君を脱がせたい』的な意味がある事を言ってんのか?馬鹿なのか?


「いや、確かにその意味もあるけどさ、カインは婚約者なんだから問題ないだろ?」


 そう、友人知人関係は良くないが、恋人や婚約者ならば問題ない。

 そもそも、それ自体が古い考え方である。むしろ服を贈れる関係であると誇るべきなのだ。


「僕がティアに(よこしま)な事ばかり考えてる男だと思われたらどうしてくれるのさ」

「・・・邪な事も考えてはいるだろ?」

「・・・っ、と、とにかくドレスは却下!」


 かぁぁと顔を赤くしたカインはそっぽを向いた。

 考えてはいるんだな、邪な事。


「ただでさえも、ティアに触れると理性飛んじゃうのに・・・」


 カインも普通の17歳の男だなと思っていたら、口に手を当ててポツリと呟かれた言葉を聞き逃す。


「え?悪い、聞いてなかった」

「僕はティアを大切にしたいって話だよ!」


「もう!」とカインが怒るので「はいはい」と流す。


「じゃあ、ティアをデートにでも誘って出掛けたらどうだ?一緒に買い物行けばティアの欲しい物も分かるかもしれないし」

「ティアと、デート・・・!」


 キラキラとカインの緑色の目が輝き出す。

 カインは出会った当初に比べると俺の前での表情が豊かになったと思う。それだけ気を許してくれていると思うと嬉しく思う。


「兄貴から聞いたんだけど、時間制限付きでいろいろなケーキをたくさん食べられる店が王都に出来たらしいぞ、ティアが好きそうじゃねぇか?」

「何それ詳しく」


 情勢が安定してからもティアは研究、カインは生徒会やリオレナール王国への対策で忙しく、二人で出掛けるようなデートは出来ていなかったはずだ。

 新入生歓迎パーティーが終われば生徒会の仕事も一旦落ち着くし、ティアと一日ゆっくりデートして過ごすといいと思う。


 俺は兄貴や姉御から聞いたティアが好きそうなオススメの店をいくつか紹介しておいた。

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