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ドレスとヒール1

 私は誕生日を迎え、9歳になった。

 誕生日には例年通り、家族でケーキを食べてお祝いしてもらった。


 今日は祖母の礼儀作法の指導がある日だ。

 今日は祖母の部屋ではなく、祖母が私の部屋に来るらしい。

私は祖母が来るまで、ゲームの対策を立てようとゲームの事をまとめたノートを取り出す。




 ヒロインは魔術学園で唯一の平民で、テンプレの如く平民が気に食わない貴族達から嫌がらせを受ける。

 その主犯が、公爵令嬢リリアーナ・ロサルタン。

 彼女は第一王子レオンハルト・サクレスタの婚約者で、レオンハルトのルートでは、平民のヒロインがレオンハルトと仲良くしているのが気に食わず嫌がらせを行う。ヒロインと絆を深めたレオンハルトから終盤で婚約破棄されるという悪役令嬢ポジションだ。

 リリアーナの他にも悪役令嬢ポジションの人はいるのだが、リリアーナはほとんどのシナリオで悪役令嬢として登場する。私の平凡ライフの為にまずは彼女を避けなければならない。


 ヒロインがリリアーナの逆鱗に触れる最初のきっかけが挨拶である。

 リリアーナとヒロインの出会いは入学初日、知り合いが誰もいないヒロインが友達を作ろうとリリアーナに声をかけるのだ。「おはよう!」と。


 ・・・正直、9年この世界で暮らしていると、この行動がどれ程阿呆なのかよく分かる。

 貴族は上下関係にとても敏感だ。彼等にとって平民は従僕で、決して自分達と平等ではないのだ。

 当然リリアーナは怒り、「無礼な」「平民は礼儀も知らないのか」と言葉をぶつけ、行動は日に日にエスカレートしていく。


 と言うか、あの祖母の厳しい礼儀作法の指導を受けておいて何やってんだヒロイン。本気で。


 嫌がらせ受けるのを避ける為に、リリアーナを避けるのは当然としても、やっぱり貴族が気分を害さない程度には礼儀作法を身に付けておかなければならないと思う。ここは祖母に今まで通り礼儀作法教えて貰おう。



 それから、学園に入る前にやっておきたい事がある。


 魔術学園は生徒のほとんどが貴族なので、たまに学園で全生徒参加のパーティーが開催される。

 平民には学園側がドレス等を貸出してくれて、ヒロインもパーティーに参加するのだが、慣れないドレスとヒールの靴で上手く歩く事が出来ない。

 仕方なく一人で中庭に出て夜空を見上げていると、好感度の高い攻略対象が現れてヒロインと共に過ごす。そして翌日、ふたりきりで会場から姿を消していたと、ヒロインと攻略対象は噂になってしまい相手と少しギクシャクするというイベントがある。


 これ、絶対回避したい。


 私にはカインという婚約者がいる。攻略対象とギクシャクするなど心底どうでもいいが、そんな噂がカインの耳に入ったら、優しいカインの事だ「ティアが彼の事を好きなら身を引くよ」とか言って婚約解消されるかもしれない。絶対に嫌だ。

 このイベント回避の為にはまず、ヒールの靴を履きこなせるようにしなくてはならない。


 正直に言おう。私は前世からヒールが苦手である。ヒールの高さも数センチから高いものは10センチ以上と種類があるが、全てにおいて苦手である。

 数センチぐらいならと侮ること無かれ。その位が1番カクンッと足を捻り易いのだ。私は前世で何度も経験している。かといって10センチ以上もある物も履けないのだが。

 ティアになってからは、平民は動きやすさ第一なのでヒールのある靴など履いたことがない。と言うか、ヒールのある靴は貴族用の高級品ばかりだ。持っていない。


 さて、どうするか。


 うーん、と悩んでいるとコンコン、と部屋をノックされる。

 祖母が来たのだ。ヒール問題は取り敢えず置いておいて、礼儀作法指導の時間だ。


「ようこそ、お祖母様」

「ああ、ティア。今日はまだ言葉を崩してくれていいわ。その代わり、今日はこの部屋を出たらキチンとして頂戴」

「わかったよ・・・?」


 今日はお茶をするのではないのだろうか?部屋を出たらって事は美しく歩く練習でもするのかな。


 疑問に思いながらも祖母を部屋に招き入れる。


「って、何持ってるの?おばあちゃん」

「すぐにわかるわよ」


 祖母は大きな箱を抱えていた。その箱をそっと机の上に降ろす。


「ティア、これを誕生日プレゼントにあげるわ」


 そう言って箱を開けると・・・


 箱の中には美しい水色のドレスが入っていた。スカートがふんわり開いたデザインで、胸元とスカート部分にはちょこちょことリボンが散らしてある。物の価値に詳しくない私でも分かる。これは高価なドレスだ。


「これって・・・」

「知り合いに型落ちしたドレスを安く譲って貰ったのよ。デザインは少し古いけれど、生地は一級品だからね」


 確かに、私達平民が着るような薄い生地ではなく、しっかりと分厚い、光の加減で輝いているようにも見える生地だ。知り合いというのはリオレナール王国の、だろうか。

 そう言えば、リオレナール王国には私より5歳歳上の王女様が居るらしいけど、まさか王女様が使っていた物とか言わないよね?恐れ多すぎるのだが。

 私は祖母の出自をゲームで知っていただけで、家族としては知らない事になっているので聞けないけれど。


「さぁ、ティア、折角だから今日の礼儀作法はこのドレスを着て行うわよ!早速着て頂戴!」

「はい」



 ふーっ。

 30分後、私はようやくドレスを着て一息ついた。

 ドレスなんて前世含めて初めて着たけれど、着るのがこんなに大変だなんて知らなかったよ・・・。

 手伝ってくれている祖母も「ん?ここがこうで?こうなって?んん?」とか言って、最終的に「人に着せるのって難しい・・・」とかボヤいていたよ!自分は今まで着る側だったってバレるよ!


 着てる最中も大変だったけど、胸とウエストがキュッと締められているので、背筋が自然と伸びる感じだ。ご飯お腹いっぱい食べられなさそうだし、いい生地を使っているからだろうか、重たい。

 こんなのを毎日着て活動してるお貴族様ってすごいなって思ったよ!改めて、私に貴族の生活は無理だと実感した。


「うん。まぁまぁサイズもいい感じね。よかったわ」


 ドレスはお下がりだけど、サイズは私にピッタリだった。

 そういえば、以前祖母にメジャーで身体の採寸をされた事があったな。この為だったのか。


「さて、思った以上に体力を使ってしまったけれど、これからが本番よ」

「はぁい」


 祖母はドレスの入っていた大きな箱からもうひとつ箱を取り出して開ける。


「ドレスにはドレス用の靴をって事でね、今日はこれを履いて頂戴ね」

「・・・ヒールの靴だ」


 そこには、ドレスと同じ色味の可愛らしい靴(3cm位のヒール)が入っていた。

 ヒール、手に入っちゃったよ。やったあ!


「ティア、ドレスもヒールも慣れよ。慣れて令嬢らしく歩けるようにしておきなさい」

「ありがとう。おばあちゃん!」


 私、頑張ってヒールを履きこなすよ!目指せイベント回避!!



 靴を履き、ドレスの裾を整えると、コンコンと部屋のドアをノックする音が聞こえた。


「あら、丁度いいわね」


 祖母が嬉しそうにドアを開けると・・・


「カイン?!」

「こんにちは」


 照れくさそうな顔をしたカインがそこに立っていた。

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