おうちデート2
甘々注意。カイン視点→ティア視点になります。
リオレナール王国から留学してきたツバキ王子はティアの前世の物語の攻略対象の一人で、更にティアの身内でもあるらしい。
攻略対象というだけでも不愉快なのに、幼い頃に交流があったというティアとツバキ王子が僕の予想していたよりも仲が良さそうで、ティアが、他の攻略対象達よりも警戒していなさそうで、嫉妬の感情が渦巻いた。
ティアの首と鎖骨の下に僕の所有印を刻み付ければ、先程まで胸の中に渦巻いていた黒い気持ちが霧散していく。
「・・・ティア、好きだよ」
僕に翻弄され、頬を上気させ、目に涙を溜めているティアが可愛くて、愛おしくて、今度は唇に口付ける。
「んっ、・・・ふ、」
段々と口付けを深くしていけば、ティアの吐息が漏れ出る。
・・・可愛い。
こんな可愛いティアを堪能出来るのは僕だけなんだと世の中の人全員に知らしめてやりたい。
ティアを僕の腕の中だけに閉じ込めて、誰にも見つからないように僕らを引き離そうとする奴らから守りたい。
二律背反のようだが僕の中では両方が成立している。
自分で言うのも複雑だけど『冷血の狼』の名の通り、僕はいつも冷静で冷酷だと思う。常に冷静に物事を考え、必要だと判断すれば人を貶めるような冷酷な決断も容赦無く下す。
だけど、ティアに対しては冷静や冷酷なんて何処かへ吹っ飛んでしまう。
「ふぁ・・・カイ、んっ」
ティアが苦しそう、そろそろ抑えないと。
そう思うけれど、服も乱れて、白い肌に赤いしるしを付けたティアは扇情的で、どろどろに溶けた理性は仕事を放棄して、本能のままティアを求める。
・・・本当に、ティアの前だと冷静でなんていられない。
だからかな、僕らのいるティアの部屋の前まで近づいてきた音に全く気が付かなかった。
コンコン
「ティア、カイン、俺ちょっと買い出しに行ってくるから、留守番頼んでいいか?」
ノックの音と共に響いてきたニックの声にビクッと反応してティアから離れる。理性がようやく仕事を開始したようだ。
「・・・わかったよ、気をつけてね」
「行ってくるなー」
少し遅れて返答する僕の声に間延びした返事が聞こえて、部屋から遠ざかる足音がした。
「ふぅ・・・ティア、大丈、夫・・・?」
ニックが来ても一言も発しないティアに声をかけると・・・
「うぅ・・・」
顔を真っ赤に染め上げて、手で口を押さえてプルプルとしていた。
・・・何コレ可愛い。
「・・・ティア?」
ティアの目の前まで顔を近づければ、一瞬目を見開いたティアにプイっと顔を逸らされた。
「・・・激しすぎるよ」
ポツリと苦情を漏らして来るが、真っ赤な顔と潤んだ目で、むしろ煽られているように感じる。
・・・何コレ超可愛い。
顔を逸らしたままのティアの横に体を倒して、ぎゅうっと抱きしめる。
「ごめんね?ティアがツバキ王子とあまりにも仲良さそうで、ヤキモチ妬いちゃった」
僕が理性を飛ばした原因の半分以上がティアが可愛すぎるせいなのだが、とりあえずツバキ王子のせいにしておく。
ピクリと反応したティアがモゾモゾと動いてこちらを向いて、ぎゅうっと抱きしめ返してくれる。
「・・・私が好きなのはカインだけだからね」
「うん、ありがとう。許してくれる?」
腕の中でティアが小さく頷く。
ほら、許してくれた上に好きだと言ってくれた。
ティアの頭に頬を擦り寄せる。
可愛くて優しい僕だけのティア。大好きなティアを誰にも取られないように、ツバキ王子とリオレナール王国には対策が必要だな。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
コンコン、と玄関のノッカーを叩く音が聞こえた。
ベッドにカインと横になっていた私はパッと起き上がる。兄は買い出しに行ったので私が出なくてはならない。
「誰か来たのかな?ちょっと行ってくるね」
「うん、わかったよ」
「行ってらっしゃい」と手を振るカインに見送られ、部屋のドアを閉めると、その場にへたり込みそうになるのをグッと堪える。
・・・うぅ、カインが意地悪だ。
首は目立つから痕付けないで欲しかったのに、付けられたし、鎖骨の下にも付けられた。呼吸の仕方が分からなくなるくらいの激しいキスに意識を持っていかれそうだった。
嫉妬するカインは危険だ。私の心臓が持たないよ・・・
かあぁぁと再び顔に熱が集まるのを必死に冷ます。
コンコン、と再びノッカーの音が聞こえたので、乱れた服と髪を整えて「はーい」と玄関のドアを開ける。
「お!ティア、来たぞ!」
パタン
見えた人物が信じられなくて、とりあえずドアを閉める。
え?なんかツバキみたいな人がいたんだけど。
いや、ないない。一応王子としてこの国に来てるのに平民の家に普通に一人でやって来るとか、ないな。うん。きっと、ツバキの話とかしてたから見間違えたのだ。
コンコン、三度鳴るノックの音に、そっとドアを開けてみる。
「おい、ティア!何で閉めるんだよ!」
少し開いた隙間から手が入り込んできてドアをこじ開けようとされるので、逆にドアを閉めようと力を込める。
「うわぁ、やっぱりツバキだったよ!」
「『うわぁ』って何だよ!てか、開けろ!」
私が懸命にツバキを入れまいとドアを閉めようとするけれど、逆にツバキは開けようとするのでドアがギシギシいっている。
「ちょっと待って!今はまずいの!」
今はカインが家にいるのだ。私とツバキの関係は話したけれど、ついさっき嫉妬したカインに翻弄されたばかりだし、学園内の二人のギスギスした雰囲気からして会わせると良くない気がする。
「何でだよ!」
「何でもなの!今はダメ!」
私とツバキがドアを挟んで押し問答していると、廊下の奥から「ティア・・・?」と声をかけられた。
「カ、カイン・・・」
「どうしたの?不審者?僕、追い返そうか?」
心配そうに駆けてきてくれる優しさは嬉しいんだけど、今は困るっ!
「ちょっ、待って」
私がカインに意識がいったからだろう、ドアを閉める力が緩んでツバキにこじ開けられた。
バンッ!
「よっしゃ、勝った!俺に力で勝てると思うなよ、ティア!・・・ってカイン?」
「・・・ツバキ王子?」
開け放たれたドアから入ってくる冷気とはまた違う冷気が家の中に渦巻いた気がした。