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“ 災難”来襲1

『一難去ってまた一難』なんて言葉があるが、災いは続く時は続くもので、私にとってはこの魔術学園に通う3年間は災いだらけの3年間なのだと実感する。


 始まりは、冬に近づいてきて寒くなってきた今朝の登校中、シヴァンが始めたこんな会話だった。




「そういえば、カイン達の学年に、留学生が来るそうだよ」

「留学生、ですか?」


 この国の魔術学園にもそんな制度あるのだなと思いシヴァンを見ると、胡散臭い笑顔で続ける。


「この前、ニコラス殿下が王太子となられただろう?しかし殿下はこれまであまり外交には関わって来なかった。国王陛下が外交に関わらせようと考えていると、あちらから留学の提案があったのだそうだよ」


 最近、ニコラスの王太子就任の式典が執り行われた。平民の私は直接見に行けるはずもないが、ニコラスの王太子就任に国中が沸き、サクレスタ王国全体でお祝いのお祭り騒ぎとなったのだ。国王陛下はニコラスに本格的に王太子としての教育を行う気らしい。


「では留学して来られるのは他国の王族なのですか?」

「そうだろうね。魔術を大々的に学べる学園はサクレスタ王国にしか無いからね。魔術を学びたいと言うのがあちら側の建前らしいよ」


 サクレスタ王国は魔力の多い貴族が多く、魔術に関しては他国よりも進んでいる国だ。他国は王族であっても魔力が少ない者も多く、魔術についてはサクレスタ王国で学ぶのが1番だとされているらしい。


「え?それだったら、来年度に1年生として入って来るか、ニコラス殿下と同じ学年で学んだ方が良いんじゃないか?」


 シヴァンの話を聞いていたアーサーが疑問符を浮かべる。

 確かに、魔術を学びたいのならそれが1番いいと思う。2年生の途中に入るとなると授業についてくるのも大変なんじゃないかな?

 そう思うが、シヴァンは首を横に振る。


「いや、あちらの希望でね。ある程度は自国で学んでいるから、同じ歳の人と学びたいそうだよ」

「そうなのか」


 ある程度大人になれば年齢の1、2歳差など気にしなくなるが、学生のうちはちょっとの年齢差も気になるものだからな、と納得する。


「兄様、その留学生は魔力は多いの?」


 顎に手を当てて考え込んでいたカインが聞くと、シヴァンは一瞬、私に視線を向けた。


「・・・聞いた話だと、魔力量測定の魔術具を真紅に色付かせてひび割れさせたようだよ」


 ティアのように完全破壊はしなかったけどね、と肩をすくめる。


「――――っ!」

「真紅っ?!」

「へえ。では、同じクラスなのですね」


 カインとアーサーが驚くのに対して、呑気な声をあげた私はカインに肩をガクガクと揺さぶられた。


「ティア、何でそんなに呑気なの?!他国の王族だよ?!」

「いや、他国の王族だからこそ、平民なんて視界にも入れないかと・・・」


 実際、ニコラスと交流させたいが為の留学みたいだし、私のような平民が関わる事はないんじゃないかな?と思うけれど。


「僕は嫌な予感しかしないよ・・・」


 はーっとカインはため息をつき、アーサーとシヴァンには苦笑されてしまった。・・・心配し過ぎだと思うけどなぁ。





 学園に着き、始業の時間になると先生が教壇に立った。留学生が来るという噂はそれなりに広まっているようで、クラスメイト達は皆興味深く先生を見つめている。


「知っている人もいるかと思いますが、今日から留学生が一人このクラスに入ります。皆様、失礼の無いようにしてください。・・・どうぞ」


 先生の声に扉を開けて入ってきたのは一人の美青年。


 長身でスラッとした体格だがそれなりに鍛えていそうな体付き、目鼻立ちのキリッとした端正な顔立ちに、切れ長な形の目には吸い込まれそうなくらい真っ黒な瞳、艶のある黒色の髪をした青年。


 クラス内がざわめく。


「初めまして。リオレナール王国第三王子、ツバキ・リオレナールだ。留学期間は1年と短いが仲良くして欲しい。よろしくな」


 そう自己紹介してニッと笑ったツバキと一瞬、目が合った気がした。





 ・・・か、隠しキャラ来たーーーーー!!!






 ツバキ・リオレナール

 例のゲームの隠しキャラクターで攻略対象の一人だ。

 しかし、彼は他のメイン攻略対象のハッピーエンド、ノーマルエンド、バッドエンドの全てをクリアして、更に各攻略対象の好感度を絶妙なバランスで調節して初めて出てくるキャラクターだ。

 私は攻略サイトでチラッと見て知っているのみで、彼のルートをクリアする前に死んでいる。つまり、ツバキに対しては対策が出来ないので、私は今までツバキを対策から完全に除外して来た。まさか、ここでツバキが出てくるなんて・・・



 というか、姿を見て思い出したが、前々から私はツバキを知っていた。


 前世の私じゃなく、ティアとして。


 幼い頃、親戚だと言われて交流を持っていた、私と同じ黒髪黒目の一家。私が前世の記憶を思い出した8歳頃には交流しなくなっていたので私の中で繋がっていなかったのだろう。

 そう、私とツバキは身内として交流がある。


 カインの嫌な予感は的中した。

 何が「関わらない」だ。既に関わりがあるのにどう避ければ良いのか。ツバキのあの視線、彼も私の事を覚えているのだろう。ゲームの内容も知らないので、ツバキがどう動くのか全く予想出来ない。



 どうしようかと唸っていると、隣のアーサーがコソッと話しかけてきた。


「なぁ、ティアって、あの留学生と知り合いだったりするのか?」

「へぁ?!ち、違うよ!何でっ?!」


 アーサーの言葉にドキッと心臓が跳ねる。


「いや、珍しい色味が同じだからかも知れないけれど、何となく顔立ちも似てる気がしてさ・・・そうだよな、平民のティアとリオレナール王国の王族と繋がりがある訳ないよな。変な事言ったな、悪い」


 アーサーが「ごめん」と謝るのでコクコクと頷く。

 でも、そう思っているのはアーサーだけではないようで、クラスのあちらこちらから私とツバキを見比べて、ヒソヒソと噂する声が聞こえてくる。


 ・・・ああ、困った。


 その日、私は入学式以来の注目度と気まずさを抱えて授業を乗り越えた。

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