学園祭(2年生)2
学園祭2日目の今日は全校生徒とその保護者も参加のガーデンパーティーだ。
今回も私の家族は欠席なので、カインのエスコートで参加している私だが、何故かパーティー開始直後から次々と他の貴族がカインに話しかけに来るので、私達はその場を動けずにいた。
「カイン様のご活躍はうちの領地まで届いております。さすがはファロム侯爵のご子息ですね」
「これはカイン様。お隣の方は噂のご婚約者様ですかな。今度一緒に我が家のパーティーに来ませんか?」
「カイン様のご婚約者殿は噂通りにお美しい方ですな。カイン様とよくお似合いでございます」
私は基本的に微笑むだけで、受け答えはカインがしてくれるのだけれど・・・
『噂のご婚約者』って何?嫌な予感しかしないんだけど。
皆表情はニコニコとしているし、褒めてくれているのに、目の奥は笑っていないと言うか・・・。値踏みするような、探られているような感じで不快だ。
「大丈夫?疲れた?」
話しかけてくる貴族が途切れた所で、カインが心配そうに聞いてくれる。
「ううん、私は大丈夫だよ。カインこそ、ずっと対応してくれてるから疲れてない?」
「僕も大丈夫だよ。むしろ今ちょっと気分が良いよ」
「どうして?」
カインの言う通り、カインはむしろ上機嫌に見える。
カインも貴族達の不快な視線には気づいていると思うのだが、何故だろう。
「ティアが僕の婚約者だって知れ渡っているからね。ティアは僕のなんだって広まれば、平民だって蔑む奴も、手を出そうとする奴も減ると思うよ」
カインが嬉しそうに私の腰を抱く。
「あ、そっか。確かに」
いつもは遠巻きにヒソヒソと何やら言われているが、今日はニコニコと話しかけてきている。
レオンハルトが起こした戦争の件で活躍したらしいカインは、最近貴族の間で一目置かれている。そのカインの婚約者だと広まれば、表立って攻撃してくる人は減るだろう。
「『カイン・ファロムは婚約者を溺愛している』なんて噂も広まりつつあるらしいよ」
「えぇ?!」
それか!『噂のご婚約者』!!
だから貴族達はカインの機嫌を取るために、やたらと私を褒めてくるのか。「いやぁ、照れちゃうね」なんて言っているカインは満更でもなさそうだが。
「でも、『溺愛』って・・・」
確かにカインは私を大切にしてくれているけれど、そんな噂が広まるのはとても恥ずかしい。
「事実なんだからしょうがないよね。なんなら、『カイン・ファロムは可愛い可愛い婚約者を溺愛しているので、その婚約者に近づく者は皆灰になる』なんて噂が広まれば僕がティアを独占出来るんだけど」
「そんな事しないよね?!」
近づくだけで灰になるって、もはや魔王とかそんなレベルではなかろうか。私はそんな歩く災厄のような存在にはなりたくないのだが。
「冗談だよ」
クスクスと楽しそうに笑うカインは本当に機嫌がいいようだ。
「カイン、ティアさん」
「レイビス様、ごきげんよう」
そんな話をしていると、レイビスが声をかけてきた。
去年の学園祭ではレイビスの隣にリリアーナがいたのだが、今年はレイビス一人なのが違和感があった。
「カインは人気者だな。先程からなかなか人波が途切れないから、やきもきしていた所だ」
「まぁ、羽虫に好かれた所で何にもならないけどね」
「辛辣だな」
カインの跳ね除けるような言葉にレイビスが苦笑する。
「そういえば、ティアさん。リリアーナから手紙が届いてな」
「えっ!リリアーナ様から?!何が書いてあったのですか?」
リリアーナと聞いてすぐさま飛びつく。
罪の犯した王族の使用人となった訳だが、一応手紙とかのやり取りはできるのか。リリアーナは元気でやっているのだろうか。
「元気ではあるようだが、リリアーナは今まで誰かの世話係などした事が無かったからな。失敗ばかりだそうだ。しかし、彼も協力してくれていて、とりあえず、仲良くやっているそうだ」
「そうなのですね。リリアーナ様が元気ならば、安心いたしました」
「ああ。ただ、別れる前にティアさん達に挨拶も出来なかった事を残念がっていたぞ」
「わたくしも、それは残念でしたが、仕方が無いと思います。また、何年後でも構わないので、いつか会える日を楽しみにしております」
「伝えておこう」
「ありがとう存じます」
とりあえず、リリアーナとレオンハルトは仲良くやっているようで、ホッとした。元公爵令嬢のリリアーナが使用人のように働いている姿など想像出来ないが、レオンハルトとの関係さえ上手くやっていれば何とかなるだろう。レオンハルトは今度こそリリアーナを大切にして欲しいと思う。
レイビスが去ると私達はまた貴族達に囲まれた。
そんなこんなで、ほとんどずっと他の貴族に囲まれていた私とカインは、今年はカインの両親と顔を合わせる間もなく、学園祭2日目のガーデンパーティーは終了した。
学園祭の翌日。
私はエリクにいつもの研究室に呼び出された。
「ごきげんよう、エリク先輩」
「ああ、ティアくん。突然呼び出してすまない。こちらに掛けてくれたまえ」
「失礼いたします」
・・・?
何だかいつもより研究室が片付いている気がする。学園祭前は片付ける時間も無くバタバタと物が散乱している状態だったと思うのだが。
「学園祭では手伝い感謝する。おかげで魔力電話は好評で、魔術研究者の方々からも高評価を頂けたぞ」
「本当ですか!それはよかったです」
エリクは国立魔術研究所の就職を希望しているので、魔術研究者に評価されるのは就職への近道となるだろう。学園祭でも注目されていたし、エリクの頑張りが認められて嬉しく思う。
「それで、僕は本格的に就職活動に入るからな、魔力電話の研究をティアさんに引き継いでもらえたらと思う。まだ手のひらサイズにはなってないし、ティアさんの頭の中にはもっと素晴らしいイメージがありそうだ。・・・引き受けてくれるか?」
「はい!もちろんです!」
願ってもない事だ。私も一からではなくエリクの魔力電話を引き継がせてもらえると、より早く携帯電話に近づきそうだ。
元気よく返事をすると、エリクも嬉しそうに笑う。
「そうか。では、この研究室もティアくんに引き継ごう。僕個人の物は早々に片付けるので、好きに使ってくれ」
「えっ、研究室もですか?」
「そう驚く事ではないだろう?誰の助手にもなっていない者は個人の研究室が与えられるだろう?」
魔術学部では先輩の助手になっている人は先輩と共同で研究室を使い、誰の助手にもなっていない人は個人的に研究室が与えられる。エリクは2年生の時からこの個人の研究室を使っていたらしい。
「ティアくんは研究熱心で、発想力もある。面白い魔術具を作ってくれる事を期待している。何か分からない事があったらいつでも僕を訪ねて来るといい。相談に乗ろう」
「ありがとうございます・・・この研究室からエリク先輩がいなくなるのは何だか寂しいですね」
「そうか?しかし就職活動中とはいえ僕も魔術具研究は続けたいからな。たまにはここに来てもいいだろうか?」
「はい!いつでも来てください」
私はエリクの魔力電話の術式を詳しく教えてもらい、研究室を引き継いだ。
本格的に自分の魔術具研究開始だ。