学園祭(2年生)1
2年目の学園祭が始まった。
魔術学部は新作魔術具発表会を行うので、準備期間は本当に大変だった。
当日は、メインのエリクは1日発表会会場にいるが、助手の私はどちらでも良いと言われたので、午前中はエリクを手伝って、午後は自由行動させてもらう事にした。
カインは今年はシヴァンの助手として発表の準備を手伝ったので当日は暇らしく、午前中は魔術学部の発表会を見学して、午後は私と一緒に学園祭をまわる事となった。ちなみにシヴァンは文官学部発表会会場に1日いるらしい。
アーサーは騎士学部なので武闘大会に出場する。昨年優勝したローラン先輩を倒すのだと意気込んでいた。
学術学部のミーナは特に先輩の助手になっていないので、今年は自分の発表があるそうだ。
エリクの魔力電話は大注目で、人だかりが出来る程だった。
私も声を掛けられたら魔力電話について説明したり、エリクとデモンストレーションをしたり、エリクが熱く語りすぎているのを止めたりして学園祭の午前中は終了した。
「魔力電話、大盛況だったね。お疲れさま」
カインと一緒に食堂で昼食を摂る。学園祭中は外部の人も学食を利用する人もいるので、食堂は普段よりも賑わっている。
「すごかったね!エリク先輩の努力が認められたみたいで嬉しいよ」
「もうそろそろ市場に出回るんじゃない?」
「そうだね。でも、私的にはもう少し改良したいんだよね・・・」
「これ以上?」
「うん。出来れば、手のひらサイズにして、文字も送れるようにして、他にもいろいろな機能を付けたいの!」
そう、携帯電話のように!携帯電話みたいな魔術具が出来たらそれ一つでいろいろな事が出来るから便利だと思うんだよね。
「かなり難しいし、魔力がたくさん必要になるだろうね・・・でもなんか、ティアなら出来る気がするよ。応援してる」
「ありがとう、カイン。頑張るね」
午後は文官学部、学術学部、騎士学部の順で見てまわる事にした。
騎士学部が最後なのは、私が「アーサーの試合を見たい」と言ったらカインが「アーサーなら決勝まで残るはずだから、決勝だけ見に行こうか」と言ったので、最後の決勝を見に行く為だ。
アーサーは攻略対象でハイスペックだし、騎士学部の中でもずば抜けて強いらしいし、きっと決勝まで残るだろう。
まずは文官学部に来た。
「カインは今年、シヴァンさんの発表の手伝いをしたんだよね?」
「うん。兄様はファロム領について研究、発表してるんだよ」
ファロム領はリオレナール王国との国境にある領だ。リオレナール王国との交易の主要都市となっており、とても栄えているのだとか。
「カイン、ティア。来てくれたんだね」
「シヴァンさん。研究発表お疲れさまです」
「兄様、他の人の反応はどう?」
「上々かな。温泉には結構興味を持ってもらえたよ」
「温泉?」
首を傾げる私に、シヴァンが「ああ」と説明を加えてくれる。
「ファロム領は昔から天然の温泉が湧くのだけど、交易を中心に栄えていたからね。そちらは地元民が密かに楽しむ程度だったんだよ。だけど、最近観光地とする際の主要施設にしてみようかとファロム家で話しているんだ」
「ファロム領では温泉が湧くのですかっ!」
天然温泉っ!何それ羨ましい!
私が目を輝かせてシヴァンを見つめると、シヴァンはパチパチと瞬きをした。
「ティアは温泉に興味があるのかい?」
「とても、あります!」
だって温泉だよ?広いお風呂にのんびりと浸かって、日頃の疲れを癒すのだ。特に冬の露天風呂って良いんだよね。外のひんやりした空気に熱いお湯が気持ちいい。あ、温泉玉子も食べたい。
「そうか。じゃあ、今はまだ整ってないから、来年にでもファロム領に温泉入りに来るかい?」
「良いんですか?」
「もちろん。カインや友人達と一緒に来ると良いよ。ついでにカインに領内を案内してもらったらどうかな?」
シヴァンがカインに目線をやる。
「・・・そうだね。良いかもしれない。ティア、来年一緒にファロム領に行こうか」
「うんっ!楽しみにしてるね」
カインも承諾してくれたので、来年はファロム領に温泉旅行に行く事になった。楽しみが一つ増えた。
次はミーナの学術学部だ。
「ミーナ、お疲れさま」
「ティア!カイン様も!」
私達が学術学部の発表会会場に行くと、ミーナは笑顔で出迎えてくれた。
「ミーナは何について発表しているの?」
「物語の世代ごとの移り変わりについてよ。今は比較的に自由に表現出来るけれど、昔はそうじゃなかったの」
今は恋物語も広く出回っているけれど、昔は低俗なものとして嫌厭されるものだったとか。表現もその時の政治に合わせてコレはダメとか規制が強いものがあったり、女性は物書きとして評価されないなんて時代もあったのだとか。
「その時によって物語の書き方にも流行があるのよ。・・・来年はもっと内容を詰めた物を発表したいわ」
「えっ?十分詳しく調べてあると思うよ?」
今年はそんなに時間がなかったので、深く入り込んだ内容では無いという。私には十分だと思ったが、ミーナが悔しそうなので、来年のミーナの発表は更にすごいものになりそうだ。
物語について語るミーナはとても楽しそうで、学術学部を選んで良かったのだと思えた。
そろそろ騎士学部の武闘大会決勝戦が始まる時間なので、ミーナと別れて武闘大会会場に足を運ぶ。
ちょうど三位決定戦が終わった所で、決勝戦開始に間に合ったようだ。
「すごい熱気だね」
「どこか座れる所あるかな?」
今から決勝戦という事で会場内は大きな熱気に包まれていた。空席を探して辺りを見回せば、銀色のサラサラとした髪が揺れているを見つけた。
「あ、ニコラス殿下」
「ティア、カイン。武闘大会の見物ですか?よかったら隣どうぞ」
ニコラスの隣が空いていたのでありがたく座らせてもらう。
「次は決勝戦ですよね?」
「はい。3年生のローランとアーサーが戦うようですよ」
おお、やはりアーサーは決勝まで残っていたようだ。
「ニコラス殿下はずっと武闘大会を見ていたのですか?」
「いいえ、僕は準決勝から見ていました。準決勝でもアーサーはすごかったですよ!」
ニコラスはキラキラと目を輝かせる。
ニコラスはカインの策略によりアーサーに懐いているようで、準決勝時のアーサーのかっこよさを興奮気味に語る。
「あ、そろそろ始まるみたいですね」
騎士学部の先生だろうか、筋肉質の先生がマイクっぽい声を増幅する魔術具を使って声を上げる。
「それでは!魔術学園学園祭、騎士学部による武闘大会決勝戦を開始いたします!」
わーっと会場から歓声が上がる。
「選手入場!昨年に引き続き優勝なるか?!疾風の子鼠!騎士学部3年ローラン・エスターラ!」
アナウンスに合わせて観客が沸き、昨年優勝した小柄な騎士が入場する。去年は少ししか見なかったから知らなかったけれど、先生のアナウンス、ノリノリだな。
「対するは、今年の注目度No.1!騎士学部2年生、策略の獅子!アーサー・ラドンセン!」
アーサーが入場すると、歓声にキャーっと、女子生徒のものが多く混じる。アーサー、イケメンだもんね。意外とファンが多いのかもしれない。
さすがだなーと思っていたら隣のカインから笑い声が聞こえた。
「ははっ、『策略の獅子』だって」
「アーサーにもとうとう二つ名がついたね」
「今度からかおう」
カインに二つ名がついた時にからかわれたのを根に持っているらしい。
『冷血の狼』が『策略の獅子』をからかうのか。面白そうな構図だ。是非少し離れた場所から見物したい。
「でも、何で『策略』なんだろう?アーサーにはそんなイメージ無いけどなぁ・・・」
アーサーは橙色の髪に黄色の目をしているし、それなりに鍛えられた体つきをしているから、『獅子』はなんとなく分かるのだが、あまり『策略』のイメージが無い。
「ああ、それはアーサーの戦い方だと思いますよ」
私の疑問にニコラスが解説してくれる。
「戦い方ですか?」
「はい、アーサーは戦略を立てて戦うタイプのようなのです」
「え、意外ですね」
へぇ、脳筋キャラなので、猪突猛進!みたいな力押しの戦い方だと思っていた。
「見ていればわかりますよ、ほら」
「始めっ!」という先生の合図で、ローランとアーサーの戦いが始まった。
カンッ、キンッと剣を合わせる音が響く。
体格では確実にアーサーの方が強そうなのに、ローランも小柄な割に力が強いのだろう。押し負ける事無く剣を打ち合う。
打ち合いの最中にローランの剣が眩い光と轟音を発する。
「・・・!」
アーサーは懐に潜り込んで来たローランの剣をギリギリ躱す。が、ローランはアーサーが体勢を立て直す前に次々と剣技を繰り出してくる。
「アーサー、押されてるね」
小柄なローランがちょこまかと動くので、アーサーはここぞという一撃が入れられずにいる。大丈夫かな、と少し不安になっていると、カインが言った。
「いや、たぶん、アーサーの勝ちだよ」
「え?どういう事?」
思わずカインの方を見れば、わぁっと歓声が上がる。
慌てて競技場に視線を落とせば、ローランの足に蔦のような物が絡まって動きが鈍っていた。アーサーはその隙を見逃さず、すかさずローランに剣を突きつけた。
「勝負ありっ!勝者、アーサー・ラドンセン!」
わあっ!と今日1番の歓声が上がった。
「うわぁ!すごい!アーサー勝ったよ!」
「さすがはアーサーだね」
「アーサー、かっこいいです!」
アーサーに拍手を贈る。
競技場のアーサーが私達に気づいたのか、こっちを向いてニカッと笑った。
「そういえば、あの蔦みたいなのも魔術具なの?」
一瞬目を離してしまったが、いつの間にかローランの足に蔦が絡まっていた。きっとアーサーが何かしたのだろうと、カインに聞く。
「そうだよ。時限式の魔術具だね。相手が光を出した時に仕掛けて上手く相手に絡むように誘導していたんだよ」
「そうなの?!」
普通に打ち合っているだけかと思ったらそんな攻防が繰り広げられていたのか。
「アーサーは結構頭を使って戦うタイプだね。視野も広いし、軍師とかも向いていそうだね」
「だから『策略の獅子』かぁ。あの戦いを見た後だと、なるほど、って思うね」
「そうだね。でも実戦で使うにはあの魔術具じゃちょっと弱いかな・・・もう少し範囲と拘束力を強めたい所だね」
カインが顎に手を当てて考える。
ん?その言い方だと・・・
「もしかしてカインが魔術具作ったの?」
「そうだよ。ティアの御守りの魔術具作る時に僕じゃ魔力が足りなかったからね。アーサーに協力してもらったんだ。そのお礼に幾つか魔石と術式をあげたんだよ」
カイン提供の魔術具か、それはすごいはずだ。カインとアーサーは持ちつ持たれつの良い関係を築いているのだな。
「あれ?確かカインは文官学部でしたよね?魔術学部ではありませんよね?」
私とカインの会話を聞いていたニコラスが首を傾げる。
「はい。僕は文官学部です。魔術具作成は独学で学びましたので、正規のやり方ではないかも知れませんが、攻撃の魔術具も作れます」
カインの魔術具作りは独学だったのか。そういえば、8歳の時点で婚約記念に魔術具のペンダントをもらったけれど、あの時から既に魔術具作ってたのか・・・
カインすごすぎじゃない??
「独学ですか。カインはすごいのですね・・・」
ニコラスも驚いて目を丸くしている。
「・・・ティアの為ならば、僕は何だってしますよ」
カインが小さな声で呟いた所で、競技場から大きなアナウンスが響く。
「では、これより表彰式を開始いたします!」
表彰式でアーサーとローランが健闘を称え合い、再び大きな歓声が上がり、私達も拍手を贈った。
学園祭1日目は終了した。