ベルガモットの風が吹く時に
檸檬 絵郎様主催企画
プロセニアム企画参加作品
ベースキャンプイラスト使用
ズ!ズズズん、ドガラグシャ、バキバキ、ず、ズズズズ、ズズズン、クワハァァァおおおぉ……
地響きと共に破壊音、香り高い風が吹き降りる時、侵攻が始まり唐突に終わる。
たーげっと!ロックおん!
岩山へとつづく洞窟の入り口の前に、冒険者達一行のテントが三つ並んでいる。メンバーは各ジャンルからのエキスパート1名づつの総勢5名と犬が一頭。彼等は各国から集められたよりすぐりの男達。
「まさか軍人、警察、科学者、魔法使様に加わり冒険者家業が、共にチームてのになるとは、マークスさん、お茶が入ったけど?いるかい」
テントの側で焚き火をしていた男が、ボコボコと凹んだマグカップを生真面目な小柄の男に差し出した。立ち上る檸檬の香り、それに気がついた犬が男に飛びかかる。
「おっとお!コラコラ!シトラス!溢れるって、お前にゃレモンティーはダメダメ、おすわりしな!おやつ、ほらやるぞ!」
ハツハッハッとしながら座る犬は、ある香りを探知する様に彼から調教されている。嬉しそうに干し肉の欠片を喰む犬を眺めつつお茶を受け取った科学者マークスは、岩山の腹にぽっかりと空いた口に視線を移した。
「マークでいいよ、ジョン。この洞窟が奴らの『巣』だった場所なのだね、中に手がかりがあるの?シナモンの反応は無い、ならば何も落ちて無いと思うけど。シトラスが、お茶の中のコレを察知するんだから、よしよしいい子だ」
「ああ、連邦政府の奴らとんだガセ掴ませやがって!うーん、何処かに移ったのか消えたのか、そもそもアレは何だ?妖怪?それとも魔法生物、宇宙生物、未確認生物、珍しい物が好きな冒険者家業モンでも今まで見たことねぇ」
――、突如として世界各国の主要な都市部に現れた、巨大な生物は、ホワワンとした顔をしていた。姿形は、誰もが指差し笑った。何故なら……
お風呂に浮かべる『アヒル』さんによく似ていたからだ。それが3体、デデーンと姿をみせた時には平和ボケをしていた人間達は、誰しも持っている携帯機器でパシャパシャとフラッシュを浴びせた。それが気に触ったのか……
ズ!ズズズん、ドガラグシャ、バキバキ、ず、ズズズズ、ズズズン、クワハァァァおおおぉ……
地響きと共に破壊音、アスファルトの地面めがけて、香り高い風が吹き降りた。アヒルの侵攻が始まった。街は壊滅、香り高き風を浴びた人間はバタバタと倒れ、恍惚の表情で眠りについてしまう。そしてそんな彼らを起こすのには……『真実の愛の平手打ち』しか方法が無かった。
……「そもそも真実の愛の平手打ちって、何なのでしょうかね、私にも一杯ください」
魔法使いアーリーがジョンに声をかけた、警察官シンタロウ、軍人チェンも二人とも、武器弾薬が入ったダッフルバッグを背負っているが、穏やかな顔で炊き火にあたっている。
「マークは見たことあるのか?チェンと私は一度だけ対した事があるが、アヒル風情なのに、やたら丈夫なんだよ、物理的攻撃は通じない。アーリーは、やりあったことあるか?」
「はい。一度だけ、奴らには魔法は効きません、何ですか?チェン、質問なら聞きましょう、やり合うのなら凍結魔法と炎上魔法とどちらが好みか言え」
「おっとぉ!じゃあなんだって選ばれたのか?聞かせてくれ」
「治癒ですよ、治癒、私はそれが優れていて選ばれたのです、貴方とシンタロウは何故に……、ん?何か香りが……」
ヴーヴーウォンウォン!ワンワンワンワン!突然シトラスが岩山の方角を向き、狂った様に吠えだした!気配を察知したチェン、シンタロウ、アーリー、ジョンが立ち上がり身構えた!
ズ!ズズズん、ドガラグシャ、バキバキ、ず、ズズズズ、ズズズン、クワハァァァおおおぉ……
山の頂きからベルガモットの風が吹き降りる!即座に動いた冒険者。
「口と鼻を塞げ!あれを吸うと倒れちまうぞ!俺に惚れてるのなら告白してくれ!平手打ちくらわしてやる!」
慌てる気配が皆を捕まえる、その中で冷静を保っている、科学者マークスは息を止めると、携帯機器を取出しそれの動画を撮影し始めた。
ズ!ズズズん、ドガラグシャ、バキバキ、ず、ズズズズ、ズズズン、クワハァァァおおおぉ……
地響きと共に破壊音が近づいてくる。そして彼等の見上げた空には……『ヤツ』の頭がヌゥ!と現れた。グラグラと地が揺れる、岩山の肌からガラガラと石が落ち始めた!
「……!危険だ!皆!この場を離れるんだ!それか今!パートナーを決めろ!愛の告白をしておくんだ」
シンタロウが声を上げ指示を出す!愛の告白!野郎しかいねえぞ!変だろ!とチェンがネックウォーマーを引き上げたなりで、モゴモゴと否を唱える。
「大丈夫ですよ!この人数の空間位なら……『清浄なる風よ!吹け』」
アーリーが呪文を唱えて空気を清浄導いた。ホッとするメンバー、その中でジョンが聖剣をスラリと抜くと構える。
「ありがてえ!だが俺は自分の周りなら疾しいモノは斬れるんでい!シトラス!逃げるぞ!てか!マークスどこ行くんでい!荷物なんか棄てておけ!」
「先に行ってて!あの距離ならばここにはまだ来ない、奴等は岩場を壊しながら進んでいるから……本部に報告しておきたいんだ!データーを!シンタロウ、チェンに送信をした!もしものときは頼むから先に行って!」
テントに入るマークス。了解!ラジャーと、シンタロウ、チェンの声。
ズ!ズズズん、ドガラグシャ、バキバキ、ず、ズズズズ、ズズズン、クワハァァァおおおぉ……
「アーリー!シトラスを頼む!シトラス!皆と先に行ってろ!俺はマークスに付き合うぜ!テントの中は清浄が保たれてるっしょ。外の疾しいモノは二人分くらいなら斬れっからよぉ!」
わかった!あとで会おう!と分かれるチーム。冒険者ジャックはテントに向かった。
ズ!ズズズん、ドガラグシャ、バキバキ、ず、ズズズズ、ズズズン、クワハァァァおおおぉ……
音が幾分籠もって中に流れ込んでくる。通信機器を扱い、撮影した動画を送信しているマークス、
「……、こちらチームSTR-N、本部、応答願います!応答願います!」
ピー!ガガガ!ジャー。ド!ドン!地震が続いている。揺れる足元、空気、テントの布地がたわたわと動いている。
ズ!ズズズん、ドガラグシャ、バキバキ、ず、ズズズズ、ズズズン、クワハァァァおおおぉ……
ゴガン!ゴロゴロ!ゴロゴロ!トドン!岩山が崩れる音が酷い。
「……、こちらチームSTR-N、本部、応答願います!応答願います!」
「ガー!ピピー!ガガガ、こちら、本部、ど……したの……だ!」
「奴らが!この地区に出現したのです!映像を送ったのですが!」
「ガー!今解……、析をしている、大丈夫、な、のか!」
ズ!ズズズん、ドガラグシャ、バキバキ、ず、ズズズズ、ズズズン、クワハァァァおおおぉ!ガラゴロガラゴロ!ゴゴゴ!ゴゴゴ!
「ヤバい!マークス洞窟が崩れ始めた!出るぞ!」
「洞窟が?まさか⁉あの洞窟はオリハルコンが混じっている岩石の地層があったぞ!硬度が最強と言われる……奴等はそれをも踏みしだくというのか!」
「チームSTR-N、本部より……ガー!、ジャー!ピピ、ピピ!退……、ガー!避せよ」
ズ!ズズズん、ドガラグシャ、バキバキ、ず、ズズズズ、ズズズン、クワハァァァおおおぉ!ドドドドドーン!ガラガラゴロゴロドドドドド!
「うわぁぁぁ!ああ!テ、テントがぁぁぁ!」
「マークス!こっちだ!マークス!」
「ピピー!ガーガガガ」
ズ!ズズズん、ドガラグシャ、バキバキ、ず、ズズズズ、ズズズン、クワハァァァおおおぉ!ガラガラガラガラァァ!ドドーン!
辺りにベルガモットの風が吹き荒れた。高貴なる香りがその場を満たした。そして
チームSTR-Nの消息は……不明である。
ズ!ズズズん、ドガラグシャ、バキバキ、ず、ズズズズ、ズズズン、クワハァァァおおおぉ……
終。
お読み頂きありがとうございます。ツッコミどころ満載ですが、こういうお話でした。