運命の法則
「……っ」東雲は目を覚ます。
頭の中は靄がかかったようであり、あまり頭が働かない。右、左と周囲を確認する。見知った建物、東雲の自宅のようであった。
「…神崎!」思い出したように東雲は神崎の名を呼ぶ。しかし、返事はない。そして気付く。窓から見える空は暗く、夜であることに。それなのに周囲が見えることに。ドンッ、そう家の外からで音が聞こえる。
「!!」慌てて走り出し、玄関のドアを開く。
「な!!!」目の前に広がっていたのは、見知った街魔術都市であるが、その燃える姿であった。
ガシャッ、ガシャ、と音がする。何度も聞いた音、そう機械人形が歩く音である。または、戦闘音や人の悲鳴が周囲のいたるところから響き渡る。ここで東雲は悟る。今までのピースがはまるように。次々とこれまでの会話、そこに散りばめられたヒントに。
(そうか、そういうことだったのか…!華さんは言っていた。タイムパラドックスは起こさないと。その1つの自分の殺害が不可能とさえ言っていた。あの時は何も気に留めなかったが、どうして不可能なのか、今わかった。自分を殺すことができないようにするには、簡単だ。自分が生きている時代に戻らなければいい。だから俺は戻れなかった。その代わりに辿り着いたのがここ、神崎が来た、人類が滅ぼされる未来か。神崎はこの時代のこの時にはすでに死んでいると言っていたし辻褄が合う。じゃあ神崎は⁉︎この時代は神崎がまだ生きているはずだし、華さんと出会う時も生きていた。まさか!黒いローブ…、魔術師の始祖なのか!確かに矛盾はない。あの始祖によって魔術はそれまで歴史を覆すほどの発展を遂げたのは確かだ。憶測でしかわからないが、とりあえず俺がやらなければならないのは、この時代の神崎をあの俺が死にかけたあの時に転送することだ。)
全てが繋がった東雲はやらなければならい目標を認識し動き出した。そう、確かに神崎は遥か昔に戻り、人類のために魔術を人に伝えるのである。
はぁ、はぁ、息を切らしながら東雲は街中を走り回る。途中市民が襲われているのを横目で見ながら、助けたい思いを噛み殺し、必死に神崎を探す。
「神崎!」とうとう東雲は神崎を発見する。神崎が黒ローブを着た機械人形らしきものに襲われてそうにのを目にする。駆け寄り、東雲は説明しようとする。
「誰だ!」神崎は、フードで顔が見えない東雲にそう問いかける。
「いいか神崎、お前は過去に戻って、人類を救え。お前なら、必ず人類を勝利に導ける」そう東雲は神崎の言葉を無視して告げて、タイムマシンを起動させる。
そして、神崎は華が連れ去られる場所に送られた。
ドスッ、と鈍い音がしてその直後東雲は左胸に激痛が走る。黒いローブの機械人形が手を剣化させて東雲を後ろから突き刺した。
「がぁっ」痛みに耐えきれず、東雲は声を出す。
「なぜお前がタイムマシンを持っている」機械人形が東雲に問いかける。
その聞き慣れた声に驚き、必死に東雲は必死に振り返ろうとする。意識の途切れる直前に目の端で捉えたのは、紛れもない華本人であった。
意識が遠のく中で東雲は考える。
(そうか、華さんはずっとあの二日間を繰り返していると言っていたがそもそも一番最初はどうやって始まったのか疑問に思っていた。なぜ華さんはあの連れ去られかける場所に送れと言ったのかわかった。そこに行かないとパラドックスが起こるのか。そもそも華さんはこっちの人類が敗北するはずの未来から俺が送った神崎を追って来たのだろう。その結果、俺が死に、神崎が生き残る未来から俺が死なず、神崎が死ぬ未来に変わった。結果人類敗北の未来から来た神崎が、あの華さんが連れ去られる場所に行くことが出来るようになった。そして、華さんは神崎のことを好きになり、人類を勝利に導く。華さんは過去の連れ去られる場所に戻ることで、また俺が死なず神崎が死ぬ未来にする。そうやってこの人類の勝利というのは作られていたのか。)
東雲は運命という変えられないものをまざまざと感じ、華さんを救うことができなかったことに悔しさを感じながら意識を手放していった。
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