うそとまこと
「高等部に進学したくらいの時期かな? 父の会社が傾き始めたの……」
金田から教えてもらった情報と一致する。
「でも、誰にも相談できなくてね。クラスメイトのみんなは裕福なひとが多いし……。うまく話ができなかったの」
たしかに、周囲の環境は、彼女にとっては良くなかった。おれみたいに、最初からなにもなかった人間じゃないんだから。最初は持っていたのに、失った彼女の苦しみを共感できる友だちは少なかったはずだ。
「結局、わたしはプライドを捨てられなかっただけなんだよね。自分が貧乏だって、ばれるのが怖くなちゃった。今まで普通に接してくれていたひとたちが、これ以上離れていくのが怖かった」
「……」
おれたちは、無言で彼女の話を聞いている。
「そんななかで、金田くんと山田くんのふたりは、わたしにとっての救いだった」
「えっ」
おれは驚いて声を出してしまった。
「金田くんは、誰とでも仲良くなって、みんなを笑顔にできる。山田くんは、わたしにはない力があった。飾らないで、ありのままの自分を隠していなかった。わたしは、そんなふたりに救われた」
彼女はそう言って笑った。同じクラスだった一年の時のことだろう。
「少しずつ、わたしたち家族の生活は苦しくなった。今まで住んでいた家は手放して、みんなが離れていった。一応、学校は奨学金がもらえる成績は取れていたから、通うことはできたんだ」
だから、彼女は必死に勉強していたのか。
「でも、学費だけは払えても、ほかの生活を維持するのが難しくなった。会社の経営は、ドンドン悪化していったの。生活費を払うのも難しくなっていった。わたしも自炊したりして、がんばったんだけどね。ついに、限界が来たのが、今年の春」
「このままだと、家族にも迷惑がかかると父は確信した。だから、両親は離婚したの……」
本来は、話したくなかった内容だろう。
おれたちが、押しかけてきたからこそ話さなくてはいけなくなった。罪悪感を感じる。
「転校するのも、結構前から決まっていたんだ。ちょうど、クラス替えの時期だったし……。お別れするのも辛いから、あんまり深い関係を作らないようにしようと思っていたの。でも……」
たぶん、おれのせいだ。
「そのタイミングで、山田くんに告白されたんだ」
「あの時、本当に嬉しかった。ずっと、自分がここにいていいのか不安だったから。みんなを騙しているようなわたしを好きと言ってくれるひとがいた。本当に嬉しかったよ。幸せだった。だから、わたしも自分にちゃんと向き合おうと思ったの」
「それって、つまり」
おれは聞いた。
「うん。金田くんに自分の気持ちを伝えたかったの」
「でも、わたしはやっぱりわたしだった。イズミちゃんにまで、迷惑をかけてしまった。みんなにちゃんとお別れを言えずに消えてしまった。本当にずる賢くて、自分勝手で、最低で……」
彼女の目から、涙がつたわった。
「だから、本当にごめんなさい。わたし、ふたりに追いかけてもらう価値なんてないと思うんだ。だから、わたしのことは……」
≪忘れてください≫。そう繋がるはずだった。でも、そんなことは言わせない。
「ふざけるな」
おれは立ち上がり声を荒げた。
「えっ」
「山田?」
ふたりともキョトンとしている。
「なんで、佐藤さんはおれたちを信じてくれないんだよ」
「いや、だって」
「忘れられるわけないだろう。どうして、ここにおれたちが来たか、考えてくれよ」
おれは止めることができなかった。
「おれも、金田も、蒼井さんも、学校のみんなも……。悲しかったんだよ。悔しかったんだよ。ここで終わりたくないんだよ。転校することはしょうがないよ。でも、転校で終わるわけないだろう。終われるわけないだろう。そんな軽いものじゃないんだよ。おれたちにとって、佐藤愛という存在は……」
言い終わって、おれは気がつく。ここは、お店だったということに……。
「失礼しました」
おれは、謝罪して座る。
佐藤さんは、声を押し殺して泣いていた。




