東へ
ついに約束の時が来た、それだけだ。
ゴールデンウィークの時のように、朝早くに駅前集合。
あの時とは違って、おれは緊張していた。
もし、行っても彼女と会えなかったら……。
もし、金田の情報が間違っていたら……。
もし、彼女に拒絶されたら……。
そんなネガティブな気持ちに包まれてしまう。まだ、日も完全に昇りきっていない。
「おう、山田。待たせたな」
金田は、いつもの車で到着した。
「ああ、おはよう」
そう言って、おれは車に乗り込む。
「じゃあ、行こうか」
「ああ」
おれたちは、東へと向かった。
※
「……」
「……」
車内では、ほとんど会話がなかった。今日の金田はいつもの金田ではなかった。
そして、おれも、いつものおれじゃなかった。
「こんな真剣な顔して会うのはじめてだな」
「スポーツ大会の決勝でもおまえはふざけていたもんな」
金田は冗談を言おうとしていたのかもしれない。やはり、歯切れが悪くて冗談になっていなかった。
※
車に乗って、一時間が経過した。あいかわらず、車内の空気は重かった。
「あのさ、山田」
「なんだ?」
また、下手な冗談でも言うつもりなのだろうか? それにしては、神妙な表情だった。
「昨日、イズミにも告白された」
「ごほっ」
「おい、山田大丈夫か?」
いきなりすぎて、変なところに空気が入ってしまう。苦しかった。
「ああ、大丈夫だよ、ゲス田くん」
「どこのネコ型ロボットだよ。というか、ゲス田だと、おれかおまえかわからないだろう」
「それで、返事は……」
「それが」
「まさか……。またか?」
「いや、違うんだ。答えようとしたら、イズミから今日が終わってからにしてくれって……」
「ふうううん」
「絶対に信じてないだろう」
まあ、蒼井さんらしいなとは思う。彼女の性格をよく知らなかったら、絶対に疑っていたが……。
「いや、信じているよ」
「本当にか?」
女々しいやつだった。いつもは、あんなにサバサバしているのに。
「本当だ」
「ありがとう」
なぞの感謝だった。
「それで、答えはさ……」
金田がすべてぶっちゃけようとしていた。こいつは、本当に恋愛ごとになるとダメだな。
「金田。それ以上は言うな」
「なんで?」
「なんでって……」
しょうがないな、ダメ田くんは……。
「おれが、蒼井さんより先に聞いちゃダメだろう。そんな権利はおれにない」
金田はビックリした顔になって、その後に納得した。
「本当におれはダメだな」
「美少女ゲームの選択肢はわかるのにな」
おれは冷たく切り捨てた。
※
ついに目的地に着いた。
海辺の街という感じの街並みだった。潮のにおいがたちこめている。
金田の別荘がある街は、リゾート地だったが、ここは海の街だ。みんなが生き生きと生活している。
「このアパートに彼女は住んでいるようだぞ」
寂れたアパートだった。
おれたちは、彼女が出てくるのを待った。




