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金持ち彼氏と貧乏彼氏  作者: D@2年連続カクヨムコン受賞
最終話 つたわる思い
89/96

明日(金田視点)

 佐藤さんが転校してから、一週間。

 おれは、コネを使いまくって、彼女の行方を追っていた。家の者たちにも、全力で協力してもらった。深夜アニメを封印してまで、おれは血眼になって彼女を探したのだった。


 同級生たち、親のコネクション、SNS……。完全に探偵事務所と化したおれの家は、ついにたどり着いたのだった。彼女の居場所に……。


 その居場所は、おれたちの住んでいる街の隣の県だった。隣の県とはいっても、県の東端だった。港が有名な場所で車でいくにしても、三時間はかかる場所だった。どうやら、彼女の母親の実家が以前住んでいた場所だということもわかった。


「本当に、おれはなにしているんだろうな?」

 そう言ってため息をつく。佐藤さんがせっかく勇気を出して告白してくれたのに……。ヘタレて、先延ばしした結果がこれだ。そして、こんなストーカーまがいの行為に及んでしまっている。最低な男だった。


「おまえも共犯だからな」

 おれは調査の結果を、山田にもメールで伝えた。親友。悪友。馬鹿友。共犯。あいつとは、いろんな関係になってしまった。これは、死んでも切れない関係になってしまったようだ。


 おれと山田は、明後日の土曜日にその街にいく約束をした。あいつは完全に覚悟を決めたようだ。


「イズミにもちゃんと伝えないとな」

 電話でもよかったけれど、あいつとは直接、話したかった。

 情けない自分を叱って欲しかったのかもしれない。


――――

明日、話したいことがあるから、放課後に公園に来れる?


うん、わかった。わたしも、話したいことがあるの……

――――


 イズミの返事は短かった。たぶん、用件は伝わっているんだと思う。

 おれは、いつの間にか眠ってしまった。


   ※


 学校が終わり、おれはイズミと約束した公園に来ている。

 ベンチに座り、彼女の到着を待つ。小さいころから、ふたりでよくここに遊びに来ていた。だから、おれたちにとって公園といえば、この公園しかない。ふたりで遊んだ遊具は、あの頃と変わってしまっている。ペンキを塗りなおしていたり、新しいものに交換されたりしている。冷たい風が吹き込んできた。


「お待たせ」

 イズミはやってきた。いつもと同じ笑顔で……。


   ※


「ついに見つかったんだ、佐藤さん」

「ああ」

 やはり、なにも言わなくても伝わっていた。

「それで、いつ行くの?」

「明日の土曜日」

「そっか。山田くんも一緒でしょ?」

「ああ。イズミも、よかったら一緒に……」

 彼女は寂しそうな顔になった。

「ううん、わたしは行かないよ」

「だよな」

「うん」

 いつもなら、簡単に繋がるイズミとの会話が切れてしまう。


「あのさ、イズミ。おれ、佐藤さんにさ……」

「告白されたんでしょ?」

 これも見抜かれていた。

「ばれてたか」

「ううん、佐藤さんに教えてもらったの。旅行の夜……」

 また、ふたりの間に沈黙が生まれた。


「ここの公園さ。昔と変わったよね」

 おれは苦し紛れにそうつぶやいた。本当におれってバカだな。

「そうだね」

「あのブランコも新しくなったり……。思い出がなくなっていくようで、少しさびしいな」

「でも、なんでも変わっていくものだよ。物もひとも心も……」

「それが怖いのかもしれない」

「わたしも怖いよ。でも、怖いだけど前に進まない。そうしないと、思い出とも一緒にいられなくなっちゃう」

「どういうことだ?」

「それはね……」

 彼女の目が潤んでいた。まるでもうすぐ泣きそうな顔だった。

 イズミは、一息つくと、おれの目をまっすぐに見た。


「ねぇ、秀一君?」

 イズミはおれの名前を久しぶりに呼んだ。中学の時、恥ずかしいからと封印した呼び方だった。

「わたしも、あなたのことが、秀一君のことが好きです。大好きです。お付き合いしてください」

 彼女の声は震えていた。


「イズミ、おれ……」

 おれは彼女の告白に答えようとする。今度こそは間違わない。

「ダメだよ。まだ、わたしの順番じゃないから……」

「えっ」

「佐藤さんにちゃんと答えてから、返事をください。そうしないと、フェアじゃないから……」

「うん、わかった」

「じゃあ、またね」

 おれは、彼女の後姿を見送った……。

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