明日(金田視点)
佐藤さんが転校してから、一週間。
おれは、コネを使いまくって、彼女の行方を追っていた。家の者たちにも、全力で協力してもらった。深夜アニメを封印してまで、おれは血眼になって彼女を探したのだった。
同級生たち、親のコネクション、SNS……。完全に探偵事務所と化したおれの家は、ついにたどり着いたのだった。彼女の居場所に……。
その居場所は、おれたちの住んでいる街の隣の県だった。隣の県とはいっても、県の東端だった。港が有名な場所で車でいくにしても、三時間はかかる場所だった。どうやら、彼女の母親の実家が以前住んでいた場所だということもわかった。
「本当に、おれはなにしているんだろうな?」
そう言ってため息をつく。佐藤さんがせっかく勇気を出して告白してくれたのに……。ヘタレて、先延ばしした結果がこれだ。そして、こんなストーカーまがいの行為に及んでしまっている。最低な男だった。
「おまえも共犯だからな」
おれは調査の結果を、山田にもメールで伝えた。親友。悪友。馬鹿友。共犯。あいつとは、いろんな関係になってしまった。これは、死んでも切れない関係になってしまったようだ。
おれと山田は、明後日の土曜日にその街にいく約束をした。あいつは完全に覚悟を決めたようだ。
「イズミにもちゃんと伝えないとな」
電話でもよかったけれど、あいつとは直接、話したかった。
情けない自分を叱って欲しかったのかもしれない。
――――
明日、話したいことがあるから、放課後に公園に来れる?
うん、わかった。わたしも、話したいことがあるの……
――――
イズミの返事は短かった。たぶん、用件は伝わっているんだと思う。
おれは、いつの間にか眠ってしまった。
※
学校が終わり、おれはイズミと約束した公園に来ている。
ベンチに座り、彼女の到着を待つ。小さいころから、ふたりでよくここに遊びに来ていた。だから、おれたちにとって公園といえば、この公園しかない。ふたりで遊んだ遊具は、あの頃と変わってしまっている。ペンキを塗りなおしていたり、新しいものに交換されたりしている。冷たい風が吹き込んできた。
「お待たせ」
イズミはやってきた。いつもと同じ笑顔で……。
※
「ついに見つかったんだ、佐藤さん」
「ああ」
やはり、なにも言わなくても伝わっていた。
「それで、いつ行くの?」
「明日の土曜日」
「そっか。山田くんも一緒でしょ?」
「ああ。イズミも、よかったら一緒に……」
彼女は寂しそうな顔になった。
「ううん、わたしは行かないよ」
「だよな」
「うん」
いつもなら、簡単に繋がるイズミとの会話が切れてしまう。
「あのさ、イズミ。おれ、佐藤さんにさ……」
「告白されたんでしょ?」
これも見抜かれていた。
「ばれてたか」
「ううん、佐藤さんに教えてもらったの。旅行の夜……」
また、ふたりの間に沈黙が生まれた。
「ここの公園さ。昔と変わったよね」
おれは苦し紛れにそうつぶやいた。本当におれってバカだな。
「そうだね」
「あのブランコも新しくなったり……。思い出がなくなっていくようで、少しさびしいな」
「でも、なんでも変わっていくものだよ。物もひとも心も……」
「それが怖いのかもしれない」
「わたしも怖いよ。でも、怖いだけど前に進まない。そうしないと、思い出とも一緒にいられなくなっちゃう」
「どういうことだ?」
「それはね……」
彼女の目が潤んでいた。まるでもうすぐ泣きそうな顔だった。
イズミは、一息つくと、おれの目をまっすぐに見た。
「ねぇ、秀一君?」
イズミはおれの名前を久しぶりに呼んだ。中学の時、恥ずかしいからと封印した呼び方だった。
「わたしも、あなたのことが、秀一君のことが好きです。大好きです。お付き合いしてください」
彼女の声は震えていた。
「イズミ、おれ……」
おれは彼女の告白に答えようとする。今度こそは間違わない。
「ダメだよ。まだ、わたしの順番じゃないから……」
「えっ」
「佐藤さんにちゃんと答えてから、返事をください。そうしないと、フェアじゃないから……」
「うん、わかった」
「じゃあ、またね」
おれは、彼女の後姿を見送った……。




