理由
一〇分後、金田は帰ってきた。もう、金田のハンバーガーセットは冷え切っていた。
「どうした。遅かったな」
おれは、そう聞いた。
「ああ、実は家の人に、佐藤さんについて調べてもらっていてな」
「えっ」
蒼井さんが驚いていた。やっぱりそうだったか。
「趣味が悪いとは、わかっているんだけど、このままじゃ納得できないだろう」
「そりゃあ、そうだけどさ」
蒼井さんは納得いかない様子で、声が濁っていた。
「それで、なにかわかったのか?」
おれは聞いてしまった。これで、おれも金田の共犯だ。本当に趣味が悪い。でも、諦めきれなかった。自分が複雑な表情になっているとわかる。
「どこに転校したとかはまだわからないんだが……」
「だが?」
「転校した理由は、なんとなく見えてきた」
「かなりプライベートなことなんでしょう?」
蒼井さんも複雑な顔だった。こんなに急に転校しなくてはいけないというのは、そういう理由だろう。たぶん、本人が友だちに教えたくない理由だ。それでも、わがままだと思うが、おれたちに頼って欲しかった。
「どうやら、親たちが離婚したらしい」
「……」
「……」
聞いてはいけない話だ。それを聞いてしまった。少しだけ後悔が、こころに浮かぶ。
「それと、佐藤さんのお父さんの会社が、いま経営的に傾いているようなんだ」
「そう、なんだ」
いつも笑顔で笑っていた佐藤さんの顔を思いだす。辛かっただろうに、無理していたんだろうな……。そう思うと、胸が苦しくなる。
「たぶん、そこらへんが原因だと思う」
「うん」
重苦しい雰囲気がおれたちを包んだ。
「わかったのはこれくらい」
「そう」
「どうしようか。調べれば、転校先だってわかるとは思うんだけど……」
金田はいつになく真剣な顔だった。
「佐藤さんは、そんなこと望んでないと思うんだ。彼女の考えも、尊重してあげたいな」
蒼井さんはそう言った。
「そうだよな」
金田も同調した。
たしかにそうだ。おれたちが土足で踏み込んでいい内容ではない。
でも、
「おれは、ここで終わりたくない。わがままかもしれないけど。迷惑かもしれないけど。ここで終わったら、絶対に後悔すると思う」
「……」
ふたりは、沈痛な表情だった。
「金田だってそうだろう。まだ、おまえは、彼女の思いにこたえてないじゃん。それで、終わらせるのかよ。それで、おまえはいいのかよ」
「……」
「こんなところで、終わりたくないんだよ」
おれは、天井を向いた。そうしなければ、何かが流れてしまいそうだったから……。




