転校
おれたちは、A組に行った。しかし、そこにいるはずの彼女は、いなかった。クラスの真ん中に不自然に置かれた空席の机がすべてを物語っていた。世界がすべてセピア色になってしまったように感じる。
そこから、学校が終わるまでどんなふうに過ごしていたのか、記憶になかった。ショックだった。それは、金田も蒼井さんも同じだろう。彼女には振られはしたものの、友だちとして深い関係になれたと自負していた。それなのに、彼女は、おれたちになにも言わずにどこかに行ってしまった。何も言わずに。何も言ってくれずに。
春休み明けに彼女に振られた時よりも、数倍大きいショックにおれは包まれた。まるで、世紀末のような気分だ。なんで、どうして、どうして……。なんども宙に向かって問いかけても、返事は帰ってこなかった。
「おい。おい、山田。大丈夫か」
金田に肩をゆすられた。おれは、意識をやっと取り戻す。
「ここは……?」
「おい、本当に大丈夫か。 ハンバーガー屋だよ」
おれは、いつの間にかハンバーガーショップにいた。前の席には、金田と蒼井さんが座っていた。
「あれ、学校は?」
そんなとぼけた声がでていた。
「学校は一時間前に終わったわよ」
佐藤さんも心配そうな顔だった。
「そう、だっけ?」
「そうだよ」
金田たちは、悲しそうな顔でうなづいた。
金田が今までのことを話してくれた。
「おまえは、A組から帰って来た時から、ずっと上の空でな。学校が終わっても、イスに突っ伏しているから、イズミと一緒にここまで連れて来たんだ。なにを質問されても、『ああ』とか『そうだな』しか言わないし」
「ごめん、ショックで硬直してた」
「だよね」
「おれも、正直、なにをしても頭に入らなかった」
三人で、深いため息をついた。みんなショックだったのだ。当たり前だ。つい数週間前に、一緒に旅行した友だちがいきなりいなくなってしまったのだから……。
「佐藤さんの携帯に電話してみても、通じなかったよ。『この電話番号は現在つかわれておりません』ってさ」
蒼井さんが、そう悔しそうに言った。
「とりあえず、食べようぜ。今日はおれの奢りだ」
金田はそう言う。おれは、ポテトを口に含んだ。少し冷めたポテトの塩味を感じることはできなかった。砂を噛んでいる気分だった。
金田のスマホが鳴った。
「悪い、電話だ。食べててくれ」
そう言って退席した。おれたちは無言でうなづいた。おれたちは、何も言わずに食事を続けた。




