新学期……
昨日の金田のための、勉強・ブート・キャンプも無事に終わり、ついに新学期がはじまった。
まだ暑い九月の朝。おれはだるい体を引きずって、通学路を歩いた。
ミーンミーンというセミの声まで聞こえてくる。完全にまだ、夏じゃん。制服が汗だくになる。
「おう、山田。おはよう」
通学路で友達とすれ違う。みんな一様にだるそうな表情だった。
なにかの拍子に、夏休み延長のお知らせでもでないものだろうか?
今の温暖化の時代、九月は秋ではない。夏だ。旧時代の悪しき伝統を、日本人は引きずりすぎている。もっと、世界規模でグローバルな視点を持たないといけないんじゃないのか。そんな、意識高い系の発送まで出てくる。というか、世界規模もグローバルも同じ意味じゃね? こころの中でおれはツッコむ。非常にむなしい二学期の幕開けとなった。
「おう、山田。昨日はありがとうな」
金田が教室に入ってきた。今はケロッとしている。昨日の惨劇はもう忘れてしまったらしい。こいつは、来年も繰り返すぞ。
「どうした。浮かない顔して」
「いや、来年のいまごろを妄想していただけ」
「ああ、受験生だからな」
「いや、そうじゃなくて」
「???」
こいつは……。もういいや。
「夏はおまえたちどこかいったのか? ゴールデンウィークみたいに」
同級生たちがそうはやしたてる。まだ、あのネタが続いているのか……。
「ああ、金田の別荘に行ってきた」
「「「おおお」」」
クラスからどよめきが起きる。これは、また変な噂が作られるんだろうな。
≪全盛期の金田・山田伝説≫
・オタクグッズ目当てで、ハンバーガー屋でエキサイトセットをドヤ顔で注文する。
・ついでにスマイルゼロ円も注文。
・それを毎週おこない、店員に顔をおぼえられる。
・店員間でついたあだ名は、“スマイルのひと”
・ゴールデンウィークには、恋人たちの聖地におとこふたりで突入。
・そこで、鳴らすと幸せになる恋人の鐘を衆人環視のもとドヤ顔で鳴らす。
・帰りの電車で痴話げんか。
・旅行帰り後、金田の幼馴染と三角関係。
・夏休みは別荘の同室で、暑い夏を過ごす(←NEW)
こんなのが今頃、クラスの裏メッセージで回っているんだろうな。おれの青春はハードモードすぎる。モノローグまで意味深になってしまったことに気がつき頭を抱えた。でも、これがいつもの日常だ。そこに、安心している自分がいた。これは重症だな。
しかし、これはおれの日常ではなかったのだ。もうすでに、日常ではなかった。それをおれは知らずにいたのだった。




