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金持ち彼氏と貧乏彼氏  作者: D@2年連続カクヨムコン受賞
最終話 つたわる思い
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夏休み最終日

 そんなこんなで、おれの夏休みは最終日となってしまった。

 お盆は、お墓参りに行って、あとはグータラして過ごしてしまった。

 宿題は終わっているので、結構ゆっくり過ごしてしまった。夏休み、万歳だ。


「明日で、休みも終わりか……」

 おれは少し感傷的な気分となる。サザエさんシンドロームの巨大版だな。

 もうすぐ、朝の八時か。そろそろ、おれのスマホが鳴る予感がする。


 ブー、ブー。

 やはりか……。


「おー山田か! おれだよ、おれ」

 ガチャ。とりあえず、一回切る。


 ブー、ブー。

「おい、どうして切るんだ、山田」

「オレオレ詐欺かと思って」

「ちーがーうだーろー」

「で、金田。何の用事だ?」

「絶対、おまえ最初から気がついていただろう。そうなんだろう」


「じゃあ、簡単に言うぞ」

「おう」

「今日の朝九時に、駅で集合な。オーバー」

「お、おい」

「ツーツー」

 問答無用で切られてしまった。

 これはどこかで既視感がある。それは、夏休みのエンドレスとかではなく、去年の今日の思い出だ。

 

 そう、それは暑い日だった。

 あの日も、突然呼びだしを受けて、わけもわからず駅で車に乗せられて、金田邸へ……。

 そして、悪魔の十二時間拘束。金田の宿題が終わるまで、帰れまテンとなった。だから、今年もきっと……。


「秋だな~」

 おれは恒例となった行事で、秋の訪れを感じた。

 金田の宿題。これは秋の季語になりそうだ。


 さて、行くか。おれは暇つぶし道具などをもって、駅に向かう。




 駅に着いた。すでに、金田の車は来ていた。

「じゃあ、いこうか」

 どこかの電波ボーイみたいな展開だ。いきなり、海外をヒッチハイク横断させられないだけまだ、ましだが……。

「それで、金田。最初にいわなくちゃいけないことがあるんだろう?」

「ああ。すでに世界は動いている。もう余裕はないんだ」

 意訳:時間的な余裕がない。宿題死ぬ。

「それで進捗は」

「もう何も怖くない」

 意訳:まだ、全然。

「これが世界の選択か」


「ククク」

「フハハハハハ」

 車内におれたちの乾いた笑いがとどろいた。

 おれたちの一番長い日がはじまった……。



「なんだよ、この展開。おれはこんなことを望んでいなかった。ちょっと、好奇心が強かっただけなのに。どうして、こうなるんだよ。やまだああああああ」

 宿題がはじまって、まだ一時間である。もう、金田はアニメの禁断症状が出ていた。

「そんなの、宿題を計画的にやっていなかったおまえが悪いんだろう。さっさと読書感想文書いちゃえよ」

「書けないんだよ。宿題じゃ萌えないんだよ。こんなのってないよ。あんまりだよ」

「ブログの紹介記事では、あんなに書けるのにな」

「それな」

 おれたちは去年と同じ展開になっている。さすがに読書感想文は、教えることができないので、おれは金田の本だなからマンガを取りだして読んでいた。これ、いつ終わるのかな?



「やまだ。ぼくと契約して、代わりに宿題やってよ」

 開始から三時間が経過した。もうすぐ、昼ご飯だ。金田のこころは完全に折れていた。今は数学の問題集を解いている。読書感想文に二時間もかかったので、できればここは巻きでいきたい。

「あと二十問終わるまで、昼食抜きだからな」

「やめてええええええええええ」

 下の階からは、美味しそうなカレーのにおいが立ちこめてきた。



「さて、続きをはじめるぞ」

「やめて、もっと休ませて。壊れる。こころが壊れる」

 昼食を食べ終わって、十五分休憩後に新しい問題集をはじめる。

「おまえは厳しいおれを嫌う!だが憎めば、それだけ学ぶ。サー、イエス、サーだ。この金持ち野郎」

「マウンテン軍曹。サーイエスサー」

「よろしい。あと二時間で、英語の和訳をすべて終わらせろ。わかったな」

「サーイエスサー」


「あうあうあうあう」

 英語の課題を終えて、金田は崩れ落ちていた。

 残るは古文と生物の問題集となった。今の時間を見る。三時半か。これはいいペースだ。去年よりも早く終わりそうだ。

「こんにちは。陣中見舞いに、家のケーキ持ってきたよ」

 蒼井さんが来訪した。いつものことなので、様子を見にきてくれたそうだ。

「イズミ!! よかった。これでマウンテン軍曹から救われる」

「マウンテン軍曹??」

「山田が鬼すぎるんだよ。無理だ」

「まったく、いつもちゃんと宿題やっていないからこうなるんだよ。まあ、少しケーキでも食べて、休憩しようよ」

「しょうがないな。休んでいいぞ。金田」

「やったー。アニメ流していい?」

「寝言は寝ていえ」

「うわああああ」

 フルーツたっぷりのケーキが体に沁みる。

 金田のお母さんが淹れてくれた紅茶もとても美味しかった。


「アニメ、イベント、マンガ、おれ、欲しい」

 ついに宿題のストレスで片言になっていた。

「ほら、早く問題を解け」

「オタク、うま」

 しかし、なんやかんやで問題を解けているので、よしとしよう。これは夕食前に終わるかもしれない。


  祗園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。

  おごれる人も久しからず、唯春の夜の夢のごとし。


 ちょうど、金田はこの問題を解いていた……。意味深。


「終わったあああああ」

 そうこうしているうちに、ついに金田は問題集をすべて解き終わったようだ。

「おつかれ」

「ありがとう。本当にありがとう」

 いつもこれくらい殊勝なやつだったらいいのに。

 夕食をご馳走してもらい、車で送ってもらう。これくらいはやってもらってもばちが当たらないだろう。


「じゃあ、山田。また、明日な」

「おう。ところで、あれはどうするんだ?」

「どれ?」

「佐藤さんのことだよ」

「明日答えるつもりだよ。長く待たせて悪いし」

「そっか」

「じゃあ、こんどこそまた明日」

「ああ」

 金田もまたすっきりとした顔になっていた。おれはそれをうらやましそうに見ていた。

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