帰宅途中(佐藤視点)
山田くんと、別れてわたしは家に帰る。
まさか、今日も彼と出会うなんて思わなかった。忙しいから、本当は図書館にいくつもりではなかったのに。貸出期限が、お盆休みのせいでズレていることに気がついたのが一時間前のことだった。慌てて、図書館に駆け込むと、彼はすぐ前に立っていた。
「もしかして、本当に運命かもしれないね」
他のひとに聞かれたら痛々しいメルヘン妄想といわれてしまうだろう。
彼に告白された時、本当にビックリした。たしかに、去年は同じクラスで、よく話す友達だった。成績も同じくらいだったので、意識しなかったといえばウソになる。でも、わたしにとっては、あくまで金田くんの親友でしかなかったはずだ。
でも、彼の気持ちを聞いた時、わたしの中に温かいものが生まれた。
とても嬉しかったのだ。だれかに必要とされた。だれかに好きと言ってもらえた。他のひとの真摯な告白がこんなに嬉しいものだとは思わなかった。
だから、わたしは彼の告白を断ってしまった。
あきらめていた自分の本心を、彼に、金田くんに伝えたくなったのだ。たとえ、その思いが届かなくても……。正直、罪悪感はあった。イズミちゃんの気持ちがわかっているのに、わたしが行動するのはずるい行為だとわかっていた。それでも、わたしはそうしたかったのだ。
山田くんは、わたしの恩人だ。大事なことに気づかせてくれた大恩人。
彼がいなかったら、わたしは後悔していただろう。
もし、金田くんよりも、先に彼と出会っていたら、わたしは彼を好きになっていたかもしれない。ちょっと、タイミングが合わなかっただけなのだ。
「神さまって本当に意地悪だよね」
たぶん、わたしの気持ちは、金田くんに届かない。答えをもらえることも絶望的な気がする。
「イズミちゃんより、わたしが彼と先に出会っていればな~」
無理だとわかっていても、そう思わなくてはやってられないのだ。わたしも、山田くんも、ある意味では同じなんだね。今、それに気がつく。
わたしは、昔住んでいた家の前にいた。ここに来たせいで、感傷的な気分になっていたのかもしれない。
「早く帰らないとね」
わたしは、帰宅を急いだ。
次話より、最終章突入です。




