片思い②
「蒼井さん、珍しいね。駅で会うなんて……」
「うん。ちょっと、そこのデパートで買い物をしてきた帰りなんだ。山田くんは?」
「図書館でばったり佐藤さんに会って、そこまで送ってきたところ……」
蒼井さんは、ちょっと驚いたような顔だった。そして、変に納得した顔になった。
「ふううううううん」
「なんだよ。その含みのあるセリフは」
「だって、山田くん。絶対に“ばったり”じゃないでしょ。図書館に下心あって、通ってない?」
うっ、痛いところをつかれた。おれって、本当に顔に出やすいようだ。
「ぐぬぬ」
「図星か」
ふふふっと彼女は笑う。
「えっ!?」
「ちょっとかまをかけてみたんだ~」
この手口どこかで……。ついさっきも似たような手法に引っかかていたような気がする。
「しっかし、一途だね。山田くんも……」
こうして、本日二回目のからかわれタイムに突入した。
もう、フィーバーだ。一生分のからかわれポイントを浪費した気がする。金田ならこう言うだろう。
「わたしの世界では、ご褒美です」と……。
「まあ、気持ち悪いのは認めるよ」
おれは、無条件降伏する。ここで争っても勝てない。勝てない勝負はしないのだ。さっき、痛い目にあっているしな……。また、彼女はクスッと笑いだした。
「気持ち悪いなんて、思ってないよ」
「ほんとうかよ」
「うん、ほんとうだよ」
少しベンチに座って、お話しないという彼女の誘いを受けて、駅のベンチに座るおれたち。
「旅行中、聞けなかったけど、佐藤さんと一緒の部屋で気まずくなかった?」
「山田くん、佐藤さんが彼のこと好きだって知ってたでしょ」
「ええ、そんなことないですよ」
おれは、がんばってとぼける。
「絶対に嘘だ」
簡単にばれてしまった。
「はい、ごめんなさい」
「すなおでよろしい」
「気まずかったといえば、気まずかったよ。特に、一日目の夜ね」
「ああ、あの海岸で泣いていた……っ」
蒼井さんが、とても冷たい笑顔でこちらをにらんでいたので、おれは言葉を止める。
あの出来事は触れてはいけない一件なのだ。触れてはいけない例の一件ということだ。
「彼女が彼に告白するって聞いただけで、ソワソワしちゃった」
恥ずかしそうに彼女は笑う。
「彼女が彼と一緒にいるって思っただけで、どんどん不安になっちゃった」
「……」
「自分がこんなに嫌な奴だと思わなかったよ」
「自己嫌悪?」
「うん、自己嫌悪。理由をこじつけて、一歩踏み出せない臆病者の自分にね」
「でも、佐藤さんに言われちゃったんだ」
「なんて」
彼女は、とても穏やかな表情になっていた。
「今度は、わたしの番だよって」
さっき、佐藤さんは、おれのことを“お人よし”過ぎると言っていたが、自分だってそうじゃないか。おれはそう思った。
「それを聞いた時に、今まで考えていた悩みがどっか行っちゃったよ。ああ、馬鹿だな自分ってさ」
「うん」
「ひどいな、もう」
「彼女も変に優しすぎるよね。わたしのことなんて気にせず、突っ走しちゃえばいいのにさ」
「だよね」
「もう、ほとんど覚悟は決まった?」
「うん、決まってきたよ」
「そっか」
「うん、そう」
「じゃあ、そろそろ帰るね」
「おう、気をつけてね」
「ありがとう、山田くんもね」
そう言って、彼女は帰っていった。最後の笑顔がとても清々しく光り輝いていた。




