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金持ち彼氏と貧乏彼氏  作者: D@2年連続カクヨムコン受賞
第九話 なつやすみ後半
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片思い②

「蒼井さん、珍しいね。駅で会うなんて……」

「うん。ちょっと、そこのデパートで買い物をしてきた帰りなんだ。山田くんは?」

「図書館でばったり佐藤さんに会って、そこまで送ってきたところ……」

 蒼井さんは、ちょっと驚いたような顔だった。そして、変に納得した顔になった。


「ふううううううん」

「なんだよ。その含みのあるセリフは」

「だって、山田くん。絶対に“ばったり”じゃないでしょ。図書館に下心あって、通ってない?」

 うっ、痛いところをつかれた。おれって、本当に顔に出やすいようだ。

「ぐぬぬ」

「図星か」

 ふふふっと彼女は笑う。

「えっ!?」

「ちょっとかまをかけてみたんだ~」

 この手口どこかで……。ついさっきも似たような手法に引っかかていたような気がする。


「しっかし、一途だね。山田くんも……」

 こうして、本日二回目のからかわれタイムに突入した。

 もう、フィーバーだ。一生分のからかわれポイントを浪費した気がする。金田ならこう言うだろう。

「わたしの世界では、ご褒美です」と……。


「まあ、気持ち悪いのは認めるよ」

 おれは、無条件降伏する。ここで争っても勝てない。勝てない勝負はしないのだ。さっき、痛い目にあっているしな……。また、彼女はクスッと笑いだした。

「気持ち悪いなんて、思ってないよ」

「ほんとうかよ」

「うん、ほんとうだよ」


 少しベンチに座って、お話しないという彼女の誘いを受けて、駅のベンチに座るおれたち。

「旅行中、聞けなかったけど、佐藤さんと一緒の部屋で気まずくなかった?」

「山田くん、佐藤さんが彼のこと好きだって知ってたでしょ」

「ええ、そんなことないですよ」

 おれは、がんばってとぼける。

「絶対に嘘だ」

 簡単にばれてしまった。

「はい、ごめんなさい」

「すなおでよろしい」


「気まずかったといえば、気まずかったよ。特に、一日目の夜ね」

「ああ、あの海岸で泣いていた……っ」

 蒼井さんが、とても冷たい笑顔でこちらをにらんでいたので、おれは言葉を止める。

 あの出来事は触れてはいけない一件なのだ。触れてはいけない例の一件ということだ。


「彼女が彼に告白するって聞いただけで、ソワソワしちゃった」

 恥ずかしそうに彼女は笑う。

「彼女が彼と一緒にいるって思っただけで、どんどん不安になっちゃった」

「……」

「自分がこんなに嫌な奴だと思わなかったよ」

「自己嫌悪?」

「うん、自己嫌悪。理由をこじつけて、一歩踏み出せない臆病者の自分にね」


「でも、佐藤さんに言われちゃったんだ」

「なんて」

 彼女は、とても穏やかな表情になっていた。

「今度は、わたしの番だよって」

 さっき、佐藤さんは、おれのことを“お人よし”過ぎると言っていたが、自分だってそうじゃないか。おれはそう思った。


「それを聞いた時に、今まで考えていた悩みがどっか行っちゃったよ。ああ、馬鹿だな自分ってさ」

「うん」

「ひどいな、もう」


「彼女も変に優しすぎるよね。わたしのことなんて気にせず、突っ走しちゃえばいいのにさ」

「だよね」


「もう、ほとんど覚悟は決まった?」

「うん、決まってきたよ」

「そっか」

「うん、そう」


「じゃあ、そろそろ帰るね」

「おう、気をつけてね」

「ありがとう、山田くんもね」

 そう言って、彼女は帰っていった。最後の笑顔がとても清々しく光り輝いていた。

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