片思い
さっきの言葉で硬直する。完全にばれた。というか、絶対に隠せていなかった。少しだけ気まずい思いになる。おれは、からかわれ続けているのか。
「山田くんって頭はいいのに、ひとが良すぎるね」
「ぐぬぬぬ」
やられたらやり返す。倍返しだ。
そう思って、おれは彼女をからかう。
「そういえば、佐藤さん。金田からの返事ってあったの?」
少しツッコみすぎたかもしれない。少し心配になる。
「あー、それ聞いちゃいますか」
「聞いちゃいますよ」
「それに関しては、ノーコメント」
「えー、ずるいよ」
「わたしじゃないよ。金田くんがノーコメントなんだよ」
彼女は少しだけ頬を膨らませた。
「そっちね」
「そう、そっち」
おれが神妙な顔をすると、彼女は笑いだす。
「どうして、山田くんがそんなに悲しい顔するのよ」
「え、そんな顔していた」
「うん、すごく悲しそうだったよ」
「今日は、わかりやすくて困っちゃうな」
「いいじゃない。そのほうが……。とても素敵なことだと思うよ」
「ありがとう」
「でも、お人よしすぎるよ。自分にとっては、最大のチャンスじゃない」
「うう」
少しずつ、駅に近づいてきた。もう少しで、この楽しい時間も終わってしまう。
「あまり、気をつかわなくていいからね。金田くんへの告白は、本当にダメもとみたいなものなんだから……」
「うん」
「本当はね。ずっと片思いしてようと思っていたんだ。中等部のころからね。ずっと続いた片思い」
「そうなんだ」
「うん、そうなの。金田くんにわたしは救われたんだ。だから好きになった」
「……」
「でも、彼にはイズミちゃんがいた。遠くからみただけでも、わかる。あのふたりの関係性に勝てるわけがない」
「うん」
「いまは、近すぎてお互いのことがよく見えていないだけなんだと思うんだ。少し冷静に見たら、おさまるところはひとつだと思う」
「じゃあ、どうして、告白を……」
「それは、山田くんのおかげかな?」
「おれのおかげ?」
「山田くんが、わたしに告白してくれたから。本当に嬉しかったんだよ。あの時、ちょっと嫌なことがあってね。自己嫌悪していたの。でも、あなたは、わたしのことを認めてくれた。好きなってくれた。こんなわたしのことを……。だから、わたしも素直になることができた」
「うん」
複雑な気持ちだった。
「本当にありがとう。そして、大変な役割を押し付けてしまって、ごめんなさい。わがまま言いすぎました」
彼女の謝罪の言葉をおれは無言で聞いていた。
そして、駅に到着した。
「今日はありがとうね。会えてうれしかったよ」
彼女は寂しそうにそう言う。
「うん。じゃあ、またね」
「うん、じゃあ」
彼女はそう言って街並みに消えていった。
空を見上げた。夜空はよく見えない。
「おれも帰るか」
そう言って、家へと帰ろうとすると……。
「あれ、山田くんじゃない」
女性の声に呼び止められた。
「蒼井さん……」
「こんばんは!」




