始まり⑦
ゲームの惨劇からやっと解放されたおれに、蒼井さんはこう問いかけた。
「そういえば、どうして山田くんは、佐藤さんのこと好きになったの?」
まさか、あのゲームの惨劇のあとに、さらに追い打ちをされるとは思っていなかった。軽くめまいが起きそうだ。
「そういえば、おれも聞いてないな。どうして?」
幼馴染コンビの純粋な目線が心を貫く。これは答えなくてはいけない流れだ。
しかし、失恋した次の日にこの仕打ちは酷い。まるで、死体撃ちだ。
「ねぇ、いまどんな気持ち?」と言われているような状態だ。こんなのネット世界だけだと思っていたのに……。
そして、おれは彼女をどうして好きになったのかを考えはじめた。
「……」
「……」
「……」
考えはじめた。
「……」
「……」
「……」
考えはじめた。
「……」
「……」
「……」
「なんとなくかな……」
ふたりがズッコケる。
「「なんじゃ、そりゃ」」
どうしてこうなったとふたりが踊りだしそうな勢いでそう突っ込んだ。
「もっと、いろいろあるだろう。佐藤は美人だし」
「そうよ。IT企業社長の娘さんで、お金持ちなのに“奨学金”がもらえるほど頭がいいし」
「上品だし」
「優しいし」
なぜか、ふたりが、佐藤の良いところをいくつも挙げていく。確かに、それはとても魅力的なところだった。
「そうなんだよな。最初は、試験のライバルみたいに思っていて」
「「でしょ」」
「去年から同じクラスで、少しずつ話すようになってからはかなり優しくしてくれたし」
「「そうそう」」
「なんとなく気になっていって」
「「ふむふむ」」
「いまに至る」
「「……」」
ふたりとも、何が起きたかわからないようだ。おれにも、よくわかってはいないんだけどな。
「そういえば、まだ夕食できないかな?」
金田はすっとボケた声でそう言った。
「今日はハンバーグだってね。わたし、おば様が作ってくれるハンバーグ大好き」
蒼井さんがそう続ける。
「おい、なんか突っ込んでよ」
結局は、傷口が広がっただけの時間だった。今日の布団は、おれの涙でぬれそうだ。あと、ゴロゴロともだえるであろう。どうして、わかったのかって? これがメンタリズムです。おれは錯乱していた。