いつものふたり
おれは図書館の外のベンチに座っていた。
帰り際のおれに佐藤さんはこう言ったのだ。
「山田くん。いま、帰り? よかったら一緒に帰らない??」と。
今日はむこうから誘ってくれた。おれはワクワクしながら片思いの相手を待つ。いい加減、おれも振られてから何カ月も経つのだからあきらめないといけないのは分かっているんだけど……。
「お待たせ!」
彼女はすぐにやってきた。まるで、デートみたいだ。そんなスィーツ脳状態になっている。
「もういいの? 早かったね」
「うん、旅行に行く前に借りた本を返したかっただけだからね」
「新しい本は借りないの?」
「うん、もういいんだ」
なんだか、含みのある笑顔だった。
「山田くんは何か借りたの?」
「うん、この前の作者の違う小説」
そう言っておれは借りた本を見せる。
「ああ、それね。おもしろいよね、それも」
「タイトルがかっこいいしね」
「わかる。すごくいいよね。題名」
そう、とてもかっこいいのだ。金田がいうところの、厨二病心がくすぐられてしまうのだ。最初、この作者の本を読もうと思ったのがタイトルのせいだったりする。
「じゃあ、帰りましょうか?」
「うん」
いつもの駅へと繋がる道をふたりで進む。ほんの十分くらいの道のりだ。
「わたしたちって不思議な関係だよね」
彼女はポツリとそう言った。おれは苦笑いする。
「佐藤さんがそれ言う」
「ごめん。意地悪だった?」
おれたちは笑いあった。その笑いにはなにも含まれていない純粋なものだ。
「逆にすごいよね。佐藤さん。おれとこんなに仲良くなっちゃうんだから」
「たしかにね。告白してもらった前よりも、今のほうが仲いいよね。わたしたちって」
「そんなにいじめないでよ」
「ああ、ごめんね」
振られてから四カ月でこんなに仲良くなれた。これは……
「もしかして、ワンチャンあるって思ってない?」
「えっ、顔に出ていた?」
おれは焦ってそう言う。
「ううん、出てないよ。からかっただけ」
「……」
ぎゃああああああああああああああああああああああああっとおれは声にならない悲鳴をあげた。
この同級生、からかい上手すぎる。
「おもしろいな、山田くんって」
「ソウ、ナラヨカッタネ」
「どうして、片言なのよ」
「サアナンデデショウネ」
ぷぷっと彼女は笑っていた。
「じゃあ、いじわるはこれくらいにしようかな?」
よかった。これで終わりか。
「あっでも、山田くん」
嫌な予感がした。
「まだ、わたしのこと、諦めていないんだね?」




