チャンス
図書館は天国だった。
外はあまりにも暑すぎて、蜃気楼が見えるんじゃないかと思えるほど、モアモアしていた。
休憩室で、持ってきた麦茶のペットボトルを飲み干した。もしかしたら、佐藤さんと会えるかもしれないと思って、あたりを見回す。どうやらいないようだ。彼女はいつも夕方に来ているので、会えたらいいなと思う。こんなことを考えている自分が少しやばいやつだと思った。
よし、水分補給も済ませたので、本を読もうと、おれは書棚に向かう。アメリカ文学の棚で、本を探した。
あの作者の本はいくつか読んでいるので、読んでいない本を探す。
正直、これはフィーリングだ。あらすじを読んで悩んでも結局のところはわからないんだ。読んでみて、決める。これしかない。『偶然の音楽』というタイトルに目が惹かれた。よし、これにしよう。おれは手に取ってイスに座る。
もうすぐ、お盆だからだろうか? 人が多い。図書館もお盆は休館になるので、おれはこの楽園まで失うことになる。ちなみに、金田たちはバカンスということで、海外旅行にいくそうだ。うらやましくなんてないんだからね。
来週は、どんなふうに時間を潰すかな。兄貴も休みだから、節約している冷房も使おう。あとは、料理を作って……。こんな世帯じみた男子高校生がいてもいいのだろうか。イスにすわって、そんなことを考えながらおれは苦笑する。
ここだけみればちょっとおかしなやつにみえてしまうだろう。考えるのはもうやめて、読書の時間となった。
この作者の本は、とても不思議な本が多い。謎は謎のまま終わってしまうし、なにが言いたいのかよくわからない。だからこそ、おれは大好きなのだ。表現がなにかの暗喩かと考えたり、その妄想をしていくなかで、小説以上の世界がドンドンと広がっていく。その妄想世界を漂うのが、とても心地よく、そして至高の時間だった。
そして、夕方となってしまった。一気に本を読んでしまったので、外の様子を気にしていなかった。いつもなら、佐藤さんに会う時間だ。おれは周囲を見渡す。このまえの『恋の空』号泣事件のときは、完全に不意打ちだったから、今日は念入りに見渡した。
「いないか。残念だな」
まあ、毎回会えるわけじゃないだろうし。会いたかったけど……。おれはしかたなく、貸りたい本を持って、受付で手続きをした。これで、お盆期間は乗り越えられる。
「さて、帰るか」
おれはそう言うと、出口へと向かった。
「あっ」
「あっ」
自動ドアのところで、またおれは彼女と会えた。会うことができた。
二人の口から同じ声がでていた。




