最後の日
おれたちの旅行はついに最終日となった。今日はお土産を買って、お昼ご飯を食べた後に帰宅することとなっていた。なっていたのだが……。
「おい、金田。生きているか」
「ああ、それが世界の選択ならな」
おれたちは、先ほどまでアニメ一挙放送マラソンをしていたのだ。
名作ファンタジーアニメ、全二十六話。
使った時間十二時間。失った睡眠時間プライスレス。お金では買えないものがある。
そして、おれたちは、その失ったものを欲していた。
「ふたりとも。朝ご飯だよ~。って、どうしたの??」
蒼井さんが、ビックリしていた。よっぽどおれたちの顔が酷かったに違いない。
「ああ、イズミか。おれはどうやら、邪神を呼び覚ましてしまったようだ。故郷の両親に伝えて欲しい。愛していると……。グフっ」
「まあ、なんとなくわかるけどね。どうせ、徹夜してアニメ見てたんでしょ。本当にふたりって、馬鹿だね~」
昨日の深夜、彼女は台所でひとしれず泣いていた。でも、いまはいつも通りだ。なにか吹っ切れたのだろうか。
「蒼井さんは大丈夫?」
おれは少し心配して、そう聞く。
「もちろん、大丈夫だよ。早く下りてきてね、ふたりとも。今日の朝ご飯はラピ〇タパンなんだから」
彼女は心の底から笑っていた。いつも以上に、眩しい笑顔に見えた。
「おはよう。って、ふたりとも大丈夫?」
佐藤さんからも心配されてしまった。
「ふたりとも、アニメを見るために徹夜したんだって」
「馬鹿だね~」
女子二人のコンビネーションが完璧だった。おれたちはグーの音もでない。
「というか二人とも、急に仲良くなってない?」
おれは、疑問をぶつける。
「気のせいだよ」
「うんうん、気のせい」
「そっかあ。気のせいか。なら、いいんだ」
絶対に嘘だ。でも、これ以上は聞いていけないオーラがビンビンとでていた。覇王色だった。覚悟がないものが踏み込むと、意識が持っていかれてしまいそうになる。
「さあ、みなさん。お食事にしましょう。今日が最終日ですね。わたしも寂しくなります」
スープとサラダ、トーストが運ばれてきた。徹夜明けのため軽い食事がとても嬉しかった。
「本当に三日間お世話になりました」
「ご飯とっても美味しかったです」
「また、遊びに来てもいいですか?」
おれたちは口々にお礼を言う。管理人さんとお別れしないといけないことが、少しだけ寂しくなる。
「はい、また来てくださいね」
管理人さんはそう笑顔で言った。
「ここの別荘、おれの家なんだけどな……」
金田はすねたようにそう言っていた。




