夕方(金田編)
山田はまだ、台所から上がってこない。
「ヘタレ」
という言葉が心に突き刺さっている。
「そりゃあ、そうだよな~」
それと同時に納得している自分もいた。そこが非常に情けない。
まさか、おれがこんなラノベ主人公みたいになってしまうとは……。いつからここは、“二次元”になってしまったのだろうか? あんなに二次元に行きたいと言っていた自分が、イザその環境になってしまったらこのザマだ。
そう、こんなことになってしまったのもすべて、夕方までさかのぼる。
―――――――
部屋に帰ってきた途端、山田はベットで昼寝をはじめてしまった。
結局、おれが目撃した浜辺でのイズミとの密会の件は聞けずじまいだった。
なんどもそのチャンスがあったのに、おれは怖くて踏み込めなかった。
山田が寝てしまったので、おれはスマホでもいじろうと取りだした。
そこにはメッセージが届いていた。佐藤さんからだった。
「疲れているのに、ごめんなさい。話したいことがあるので、三十分後にビーチに来ていただけないでしょうか?」
「いいよー」
そんなふうに軽く答えてしまった。
寝不足のはずなのに、考えすぎているせいで眠くない。モヤモヤした心になにか気晴らしが必要だった。
普通に考えたら、フラグが発生しているメッセージであることにも気がつかずに……。
「お待たせ」
おれがビーチに行ったとき、彼女はもう待っていてくれた。
彼女は微笑を浮かべていた。
夕焼けに染まったビーチとともにとても綺麗だった。神々しさすら感じられるたたずまいだった。
思わずドキッとしてしまう。
「わざわざ、ありがとうね」
「どういたしまして」
そう言うとフフっと彼女は笑った。
「そう言えば、ふたりで話すのって久しぶりだね」
「たしかに」
「中学時代からほとんど同じクラスなのにね」
そうだ。彼女とはずっと同じクラスだった。
「結構、隣の席だったことも多いんだよ? わたしたち……」
「そうだっけ?」
「ひどいなー。忘れてるんでしょ」
「ねえ、金田くん? 山田くんがわたしに告白したとき、キャスティングしたのきみでしょ?」
彼女はそう言って笑った。
「うん、まあ」
「わたし、ちょっと期待していたんだよ。金田くんから呼び出されたかもしれないってさ?」
「ごめん。でも、どうして期待なんかしたんだよ」
おれは聞いた。今、考えれば、なんと愚かな質問だったんだろうな。完全に鈍感ラノベ主人公だ。
「それはね」
彼女の顔が赤くなったような気がした。
「わたしの好きなひとが、あなただから」
「えっ」
最初はなにを言っているのかわからなかった。おれは完全にフリーズしていた。
「今日、呼びだしたのも、そのことなんだ」
「……」
「ねえ、金田くん?」
「はい」
「あなたのことが好きです。大好きです。お付き合いさせてください」
すべての時間が止まってしまったかのように思えた。




