幼馴染
台所にある夜食を取りに、おれは階段を下りた。時刻は二時半だ。もうひとっこひとりいない別荘。少し不気味な気がする。
台所に近づくと“グス”っと物音が聞こえた。だれかいるのだろうか。おれは、明かりをつける。
「きゃっ」
そこには、蒼井さんがいた。悲鳴の主は彼女だったようだ。
「どうしたの? こんな夜中に」
「ごめん、驚かせちゃったね。ちょっとね。山田くんこそ、どうしたの?」
「おれは金田に言われて、用意されている夜食を取りに来たんだ」
「そうなんだ」
おれは冷蔵庫を開けて、焼きおにぎりを取りだした。本当に焼きおにぎりだったんだな、夜食。
そして、そのまま電子レンジで温める。
「もしかして、泣いてた?」
自分で言っておいて、わかりきった質問だとは思う。
「うん」
「ですよね。やっぱり、告白の件?」
「そうだよ」
電子レンジでの温めは約二分。その二分が、おれたちふたりはかなり長く感じている。
「結論は保留らしいね」
「うん」
「本当に金田らしいよ」
「本当にね」
淡々とふたりの会話は進んでいく。おれは意を決した。
「蒼井さんはどうしたいの?」
これは彼女には残酷な質問だとわかっている。しかし、聞かなくてはいけないことだった。
「このまま、友達として一緒にいたいの? それとも、前に進みたいの?」
「わからない」
本当にこういうところはそっくりなんだからな。金田も蒼井さんも。
「ずっと、今のような特別な関係でいたいだけなんだよ」
彼女は蚊の鳴くような声でそう言った。
「そっか」
それでもう結論は出ているのだ。本人には見えていないだけで。幸せの青い鳥ではないけれど、もうほとんど幸せの芽はそこにでている。ただ、おれが口を出して気づかせてはいけないことだった。それは、本人が自分でみつけなくてはいけないことだから。
レンジのブザーが響いた。
「じゃあ、おれ行くから」
「うん」
「なにかあったら、いつでも連絡してね」
「ありがとう」
そう言っておれは温めたおにぎりを、彼女に手渡す。
彼女はこくんとうなづくとそれを受け取った。
おれは階段を上がっていく……。




