始まり⑥
「神を見せてやる」
金田は、そう高々に宣言しおれを猛追する。どこかの社長みたいな堂々とした宣言だった。
さすがは、生粋のオタク。赤カメひとつではビクともしないほど安定した走りとコーナーリング。まさに王者の風格だ。
「いくぞ、決闘。金田ファイヤー」
金田の操作キャラのおっさんが、火の玉を投げてきてクラッシュするおれの怪獣キャラ。普通なら逆でしょうに。
「くそ」
「ハハハハ、まだまだね」
どこかの王子様キャラが登場した。このオタクめ。
おれたちは壮絶なトップ争いを繰り広げる。
相手を転ばせては、転ばされる。不毛なチキンレースがおこなわれていた。人間って汚い。
「知っているか、山田」
「なにを」
手に汗を握るレースの中で、金田はおれに盤外戦術をしかけてくる。
もうすぐ、ゴールだ。やつは卑怯にも絶対に勝つつもりだ。そうはいくものか。
「F1選手のアイルトン・セナは時速三百キロの世界で、神の存在をみたと言った。おれにも見える気がする」
「……」
かっこいいことを言っている気がするが、面倒だから無視だ。おれにはそんな余裕はなかった。
「って将棋の名人の本に書いてあった」
「将棋かよ!!!」
コントローラーを投げつけるところだった。
なんと芸人根性をくすぐる巧妙な罠だ。
危うく奴の落とし穴にはまるところだっ……
しかし、その刹那、金田とおれのキャラが瞬時に爆散した。ただ、大きな音と煙がでていた。
「どーん」という大きな音とクラッシュするおれたちのキャラクター。なにが起きたかわからない。呆然とその光景を見ていたおれたちをよそに、蒼井さんの操作キャラがヒャッハーしている。まるで、「汚物は消毒だ」と言わんがばかりに……。
可憐なお姫様が大逆転で優勝した。
彼女はおれたちにむかって、笑顔でこう言うのだった。あのマンガの主人公のように、邪悪な笑顔で……
「計・画・通・り」
その光景をおれたちは真っ白な灰になりながら見ていた。
「プスプス」
金田も意味不明な発言を繰り返している。
「やったー優勝だ」と蒼井さんが喜んでいる。
表彰台のトップを拍手でみることしかできないおれたち。
おれたちはしばらく立ち直ることができなかった。おれたちの戦いはこれからだ……。