深夜の攻防
時刻は深夜二時。事件はおとこ部屋で起こった。
「おい、金田。いい加減に寝かせてくれよ」
「ふっ、もう疲れちゃったのか、相棒。おれは、まだまだいけるぜ。楽しい二人の朝はこれからだ、ヒャッハー」
「らめええええええ」
金田はルンルンで行為を続行した。
また、新しい世界が始まっていく……。おれはベットで足をバタバタさせた……。
「さあ、これで一期の半分が終わったぞ。やっぱりおもしろいな~このアニメ」
そうこれは、ワクワク、ドキドキのアニメ上映会。ポロリはないよ。終了時間は朝七時という過酷な過密日程だ。おれが必死に金田を止めようとしても、金田は次々にブルーレイディスクを再生機にインしていくのだった。
「たしかに、おもしろいよ。このアニメ。聖人っぽい奴の中に、魔王が封印されていたりした時は驚いた。テンポだっていいしな」
「だろだろ。もう二十年前の作品とは思えないよな」
「だけれどもな。もう、深夜二時だぞ。いい加減寝かせてくれよ」
「なにを泣き言言っているんだい。このアニメは、まだ変身を四回残しているんですよ」
口調が某宇宙の帝王様のように、おねえ言葉になっていた。
「ということは、あと……」
「八十話くらいあるんだな。黒井に夜食も用意してもらっているんだな。おれは焼きおにぎりが好きなんだな」
今度は裸の大将が出てきた。深夜テンションで、ふたりともおかしくなっている。
「ちなみに劇場版も……」
「らめええええ」
完全におかしくなっていた。おれの青春は間違っている。確信。
「冗談だよ。今日は一期だけにしてやる。ちなみに二期のラストは最高だからな、絶対に見ろよ」
そう言われると、見たくなってしまうおれがいた。
完全に毒されている。おれは金田に毒されている。もう変な沼に叩き落されている。もう帰れない。
自暴自棄になってしまった。
テレビの中の物語は、話の終わりに近づいていた。
ヒロインが必殺魔法の詠唱をしている。
「おまえに言わなくてはいけないことがあるんだ」
金田はきゅうに真面目な顔をした。口調も硬くなる。
「なんだ?」
そう言いつつもおれはこの後に続く言葉を知っていた。ついに来るべき時が来たのだ。おれは諦めとも悟りともとれる境地に達していた。これで終わりか。
少しの間、ふたりとも沈黙する。
テレビの中では、大きな爆発が起きていた。
「おれ、佐藤さんに告白されたよ」
爆発の後には、なにも残されていなかった。




