水族館
旅行二日目の主な目的は、観光だった。
リゾート地として有名なここは、近くに水族館や寺院などの観光名所も豊富だった。おれたちは、少し足をのばして、水族館と寺院巡りをすることになっていた。
最初に水族館に行くことなっている。幻想的な水族館が、日ごろの悩みを吹っ飛ばしてくれるだろう。悩みの原因は、おれではなくて金田なんだけどなっ。
吹っ切れたおれは、心が軽くなっていた。
「もう、何も怖くない――!」
これが、某魔法少女アニメで言うところの死亡フラグとおれは知らずに……。
水族館は、混雑していた。夏休みで家族連れが多い。
水槽の中で、大きなサメが泳いでいた。すごい迫力だ。
「これが、シャハハハとか笑うんだな~」
金田は相も変わらず、オタク全開だ。ギアいくつなのだろうか?
蒼井さんは「キャーキャー」言っていた。
おれは、そこで思う。この幼馴染コンビはいつもはもっと距離感が近いのに、今日はちょっと遠慮しているような気がした。蒼井さんのほうはわかるのだけれど、どうして金田は自分から近寄ろうとしないのだろうか。金田の様子がおかしいんじゃないか。おれは、どことなくそれを聞いてみようと思った。
しかし、金田はおれが近づくと
「おい、あっちにはイカがいるぞ。侵略するでゲソ」
などと供述して、どこかに行ってしまう。
完全に怪しかった。
しかたなく、おれはおれで水槽を眺めていると、佐藤さんがひとりでクラゲを見ていた。
「クラゲ好きなの?」
おれはそう聞く。
「えっどうして?」
「ずっと、この水槽を見ていた気がするから」
「なんとなくね。なにも考えなくていい気分になるからかもしれないね」
たしかに、水槽のクラゲを見ていると、ただ無心で漂う気持ちよさを体験できそうだ。
「それと、このクラゲ。なんとなく、わたしに似ている気がしてね」
彼女がそう言ったクラゲは、とても青く美しいクラゲだった。
「たしかに、綺麗なクラゲだよね」
「そうじゃなくてね。特性が……」
彼女の顔が赤くなっている。
特性? おれは説明文をのぞき込んだ。
――――
≪カツオノエボシ≫
通称“デンキクラゲ”。風に乗って移動し、、猛毒を持つ。
――――
「えー、全然似てないじゃん」
「そうだといいんだけどね……」
彼女はさびしそうにそう笑った。
大丈夫?と口にだそうとした瞬間……。
「ふたりとも、イルカショー始まっちゃうよ。早く、早く」
蒼井さんの声で、遮られてしまった。
「うん、今行くねー。行こう、山田くん」
今日はつくづく遮られる日のようだ。
ヤレヤレと思いながら、おれは佐藤さんに続く。




