二日目
次の朝がきた。
おれは、食堂へと降りていく。金田は、すでに部屋にいなかった。
今日も、あいつ早いな。何気に、イベントごとの朝は、あいつは早起きだ。
この前のゴールデンウィークの時もそうだった。
「おはよう」
もうすでにみんなが集まっていた。
みんな挨拶を返してくれる。
そこに、ギクシャク感はなかった。ただ、女子ふたりの表情がどこかぎこちなかった。ふたりとも変に意識してしまっているようだ。
「それでは、坊ちゃん。朝食の用意ができました」
管理人さんが台所から、料理を運んできた。
ライ麦パンに、溶けたチーズを乗せたトースト。
じゃがいものポタージュ。
焼いたベーコン3枚。
サラダ。
朝食からゴージャスだった。そして、このメニューはどこかで見たことがあるような……。
「さすがは黒井。完璧なアルプス飯だ」
やっぱりか。この管理人さんは、高スペックのすべてをかけて、金田を喜ばそうとしているのだ。なんという、プロの犯行。子供の時、再放送でみた某アルプスの少女のアニメに出てきた食事を再現していた。完成度高けーなオイ。釣られて、おれまで心の中でオタク用語をつぶやいていた。
「「「「いただきます」」」」
おれたちは食事をはじめた。
「びゃあ゛ぁ゛゛ぁうまひぃ゛ぃぃ゛ぃ゛」
金田は奇声を上げた。どこから出しているんだ、その声は……。元ネタは全自動卵割り機だろうけどさ。元ネタがすぐに出てしまうおれも完全に金田に毒されてしまってるな。そう思って、おれも料理に手をつけた。
ポタージュの優しい味が寝不足の体にしみる。熱々に溶けたチーズのトーストを、頬張ると幸せな味が口いっぱいに広がった。
シンプルな料理だからこそ、作り手の技量が強く出る。絶妙な味加減だ。
「こういうのがいいんだよ。こういうのが……」
流行していたグルメドラマの名言がつい口に出てしまう。
みんな、少しずつ笑顔になっていった。
おれの考えすぎだったのかもしれないな。そんな楽観的な考えになってきた。
もう、悩まないくていいや。旅行二日目を大いに楽しもう。他人のことで悩むのが、馬鹿らしくなってきた。アルプスの山々と大きなブランコのおかげで、すべてがどうでもよくなってきた。
せめて、今日だけでも、おれは必死に楽しむぞ。そう、決心するのであった。




