眠れない夜(金田編)
山田が部屋に戻ってきた。
おれは、布団にくるまって寝たふりをする。
“寝たふり”は昔から、得意だ。おれは、なにもかも他人を騙して生きてきたように感じる。
騙すというとの言葉が悪いかもしれない。他人が描く理想の自分を演じているというのが本当のところだ。
これが有名な小説の冒頭でも書かれている≪恥の多い人生≫だと、自分では思っている。
自分が自分であると感じられるのは、趣味の世界で生きている時だけなのだ。オタク世界では、好きなものは好きだと言える。そして、その言葉が大きな問題にはならない。だから、安心する。
今日、おれは自分のキャラクターを演じられないほど動揺するイベントがあった。
山田が買い出しに行っている間、おれは海岸を散歩していた。
その夜の海岸で、小さいころからずっと一緒だったイズミが、親友の山田と抱きついていた。
「ごめん、山田くん。五分だけ肩貸して」
おれの幼馴染は、そう言うと子どものように、山田の肩に寄り添ったのだ。
結論だけ書く。
失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した。
失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した。
いつものおれなら、こんな風にオタクネタにしているだろう。でも、あの時は、怖くてあの場から逃げてしまった。そして、あのシーンの真相をふたりには、聞くことができていない……。
もしかしたら、おれはイズミのことが好きだったのかもしれない。自覚はなかったけれども……。
そして、彼女を失うことが確定してしまうから、おれは大好きなふたりに真相を聞けないのだ。
ここでも、おれの理想とする“自分像”が邪魔をする。
「おれはずっと笑って、ひょうきんなキャラでいなくちゃいけない」
そんな馬鹿な考えが頭から離れないのだ。
だから、トランプ大会はうまくいった。明日もうまくいくだろう。その自信はあった。自分を自分で騙す自信は……。
じゃあ、それからは……。おれは絶句する。明日で世界が終わるわけではない。おれはいつまで、自分を騙し続けなくてはいけないのだろうか。
「本当に≪人間失格≫だな」
おれはこころの中でそう自嘲した。




