眠れない夜
おれは、佐藤さんと別れて部屋に戻った。
部屋は真っ暗だった。
無言の部屋で、金田は寝息をたてている。こいつのせいで、こっちは大変なことになっているのに、呑気なやつだ。
さきほどの、佐藤さんの言葉を思い出す。
「ねえ、山田くん。わたし、明日、ダメもとで≪告白≫しようと思うの」
「ねえ、山田くん。わたし、明日、ダメもとで≪告白≫しようと思うの」
「ねえ、山田くん。わたし、明日、ダメもとで≪告白≫しようと思うの」
この言葉が頭の中で何度も繰り返された。それに対して、金田はなんと答えるのだろうか。あいつは佐藤さんのことをどう思っているのだろうか。聞いたこともなかった。
そして、おれはどうしてこんなポジションになってしまったのだろうか。かなり損なポジションだ。
「Q・B・K(急にボールが来たので)」
おれは、懐かしいネタを口に出した。
ネタはひとりでぼやいても、盛り上がらない。こういう時こそ、金田の存在が必要なのに……。
そして、佐藤さんはこうも言っていた。
「イズミちゃんにちゃんと伝えてあるんだ」
蒼井さんが、一体これを聞いて、どんな気持ちになったのだろうか。たぶん、そのことで海岸にいたんだろうと思うと、胸が締めつけられる。彼女が泣いていた理由がわかった。
こんなことを考えて、もう一時間ベットでごろごろしていた。当たり前だが、眠れない。
スマホでも見ようと、電源をつけた。そこには、蒼井さんからのメッセージが届いていた。
「こんばんは! さっきはありがとうね。眠れてる?」
十分前のメッセージだった。
正直、眠れる気分ではなかったので、おれはすぐに返信した。
「さっき、佐藤さんから全部、聞いたよ。蒼井さんこそ、大丈夫?」
「心配かけるね。ごめんなさい」
すぐに短いメッセージが届く。
“大丈夫”とは、書いていなかった。それが真実だ。
「でも、いつかはこうなるって覚悟はしていたんだ。だから、もう平気」
覚悟ってなんだよ。どうして、諦めてるんだよ。まだ、勝負もしていないだろうに。
「ごめんね。変なメッセージだったね。明日は全力で楽しむから。おやすみ」
おれの怒りは、行く当てもなくなってしまった。
「明日、どうなるかなあ」
おれは、暗闇に向かってぼやいた。




