トランプ大会
「金田、起きろ。一時間経ったぞ」
おれは、言われた通り金田を起こす。金田は泥のように眠っていた。そんなに疲れていたのだろうか。
「うーん、もう朝か?」
そんなお決まりの文句が飛び出てきた。おれじゃなくて、このポジションが蒼井さんだったら完璧だったろうにな。まあ、彼女にとってそんな状況じゃないのは、わかっているんだけれど……。
管理人さんは帰ったので、別荘に残ったのはおれたちだけだ。
夜更かしして、みんなではしゃげる。大人がいないこの状況で。かなり魅力的な環境だった。
ただ、はしゃげるのかな、この雰囲気……。
おれは一抹の不安を抱きながら、ダイニングに向かった。
「くらえ、革命」
全国の大貧民よ、団結せよ。おれはこころのなかで、革命軍司令官としてそう演説した。しかし、それは金田の無情な武力攻撃で、一瞬にして崩壊した。
「なんの、八切りからのスペードの五」
「おれが負けただと……。革命までしたのに……」
「これが、これこそが財力だっ!」
心配は不要だった。さっきまで泣いていた蒼井さんも無事に復活し、みんなで楽しく大富豪で遊んでいる。まあ、おれが負け続けて、大貧民なんだけど。リアルでも、ゲームでも、このポジションとか悲惨すぎる。挙句に、≪革命≫を起こしたのに、大富豪に鎮圧されるという不条理。もう無理だよ、この資本主義体制。
「ほら、大貧民よ。はやくシャッフルしたまえ」
大富豪様は、おれに命令する。
「まあまま、金田くん。それくらいにしてあげなよ」
佐藤さんは笑いながらそう言った。
「大貧民に、情けは無用だよ。ねっ」
蒼井さんまで、金田に同調していた。そんな様子をみて、おれは少しだけ安心する。とりあえずは、大丈夫そうだ。
「ほれ、大貧民よ。施しじゃよ」
金田からは、最弱カードが下りてくる。おれは、ジョーカーとAを手渡した。
おれの手札に残っている最強の数字は≪十≫だった。これは、なんてムリゲー?
「さあ、くらえ。おれのカードはジャックだ」
初手から、おれの最強カードよりも強いんですが。もう、草も生えない絶望的な状況だった。
そして、このターンもおれは安定のポジションだった。手札は一枚も使うことができなかった……。
おれは放心状態でつぶやく。
「どべじでわ ごぜむあずるわ げずりなの がだた」
「なぜに復活の呪文」
金田はそう突っ込んだ。




