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月夜の海岸

「くそう、重いぞ」

 おれは、罰ゲームによって、コンビニにダッシュして、飲み物とお菓子を買って、再び別荘に戻っている。少し疲れたので、夜の海を見ようと、寄り道しているところだ。しかし、二リットルのペットボトル二本とお菓子各種が入ったビニール袋はおれの手に大ダメージを与えてくれる。


 海岸に、ビニール袋をおいて一息つく。そこには、大きな満月と波の音だけがこだまする幻想的な空間となっていた。

「少しだけ」

 と思いながら、砂浜に腰をおろした。


「手にビニールの跡ができちゃってるな」

 おれは苦笑する。たしかに、重かった。そして、夏だ。ジメジメしていて暑い。でも、そのおかげでこんな光景をゆっくりみることができたのだから、これは勲章なのかもしれない。ちょっと、ポジティブシンキングしていると、少し遠くの砂浜に人影が見えた。それは、おれがよく知っている人影だった。


「どうしたの? 蒼井さん」

 おれは、彼女に話しかけた。幻想的な夜の下の彼女は、とても儚げで壊れてしまいそうな雰囲気だった。目が潤んでいる。

「ああ、山田くんか」

「金田じゃなくて、残念だった?」

 おれは、冗談を言う。

「うん、とっても。やっぱり、わたしはわたしだな~」

 彼女は苦笑いしながら、そう答えた。最後の言葉の意味は、よくわからなかったが……。

 金田が、ここに駆けつけてくれなかったことを残念に彼女は微笑んでいた。


「なにかあったの?」

「うん、なにかあったんだ」

 まるで、禅問答のような答えだった。ここで、なにがあったのかと詳しく聞いていいものなのか。人生経験が浅いおれにはよくわからなかった。


「あのね、佐藤さんって、彼のこと好きなんだって」

 彼女はポツリとそう言った。そのことか。おれたちが、呑気に遊んでいる間に、大変なことが起きたのだとわかった。

「佐藤さんになにか言われたの?」

「ううん」

「本当に?」

「本当だよ。むしろ、励ましてもらったくらいで……」


「じゃあ、どうして?」

「自分が情けなくてね」

「情けない」

「うん、勇気がない、言い訳ばかりの自分がとっても情けない」

「でも、それは……」

「それに比べてね。佐藤さんは堂々としていたんだ。そこに嫉妬しちゃってね、自己嫌悪。少し頭を冷やしたくて、ここに来たんだ」

「……」

「わたしは、彼の近くにいる資格あるのかなあ」

「……」

「ごめん、山田くん。五分だけ肩貸して」

 そう言って、彼女はおれの肩に顔を沈めた。

 無言の悲しみを外にだしながら……。

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