本音
「そんなに前から、金田くんのこと好きなんだね」
わたしの思い出話に、佐藤さんはそうつぶやいた。
「うん」
わたしは、恥ずかしくなりながらうなづく。
「でも、最近ね。わかったんだ」
わたしは誰にも言えなかった悩みを打ち明けた。
「わたしはね、彼の中では結局、わたしでしかないんだよ」
彼女は不思議な顔を浮かべていた。この前、ふたりで買い物をした時だって、わたしを特別扱いはしてくれた。ただ、それは友だちとしての特別で、女性としての特別ではなかった。気がついていたのに、見ないようにしていたことをわたしは口にする。もう止めることはできなかった。
「つまりね、もし告白して、付き合っても、わたしは恋人じゃなくて、“蒼井イズミ”という存在でしかないんだよ。恋人とかじゃなくてね」
「うん」
「今の関係よりも、さきに進むのが難しいんだと思うんだ。たぶん、今の関係が一番最適な関係で、これ以上、先に進めても、後戻りしても、今以上の関係は作れないと思うんだ」
「……」
「どっちに進んでも、たぶん、今の“蒼井イズミ”という特別な存在じゃなくなってしまう。だから……」
「いまの特別な存在のままでいたいんだ」
「うん。情けないんだけど、そうなんだ。このまま。わたしはこのままでいたい」
わたしは少しだけ目を潤ませながら、そう言った。わたしは好きなひとにこれ以上近づいてはいけない。
少しだけ、部屋が沈黙に包まれる。
わたしは破れかぶれになっていた。だからこそ、このタイミングで、パンドラの箱を開ける決意をしたのだ。彼女が隠している真実へ。
「ねえ、佐藤さん。佐藤さんが好きなひとってさ……」
「うん、そうだよ」
彼女はわたしの目を見て、はっきりした口調で肯定した。わたしの言葉が終わる前に……。




