回想
「そうだね。はじめて、自覚したのは、小学六年生の時かな」
ちょっと前に、山田くんに答えたときと同じ回答をわたしは、佐藤さんにする。ただ、この回答は以前の回答は違う重さが必要だった。そうしなければ、いけなかった。
そう、あれは小学六年生の秋のころだった。
クラスメイトと、合唱祭の練習を終えて通学路を帰っている時のことだ。
「ねえ、イズミちゃん。ガールズトークしようよ」
仲の良かったレンちゃんが、いきなりそんな話をしてきた。まるで、今の状況そっくりだ。彼女は小学生のくせにませていた。
「ガールズトークって何を話すの?」
「そりゃあ、もちろん、決まってるでしょう」
彼女は楽しそうに微笑む。いたずらっ子が新しいアイデアを思いついた時の顔だった。
「もちろんって?」
「恋ばなだよ。恋ばな」
彼女は、ませていた。それに対して、わたしは……。
「うわ、イズミちゃん、顔真っ赤だよ。だいじょうぶ?」
「レンちゃんが変なこと言うからでしょう」
でも、彼女は続ける。からかうような口調で。
「まあ、聞くまでもないんだけどね。イズミちゃんの好きなひと、聞かなくてもわかるもん」
いたずらっ子な笑顔で、彼女はそう言う。とても楽しそうだ。
「いないもん。好きなひとなんて、いないもん」
わたしは顔を真っ赤にして否定する。
「またまたー。嘘が下手なんだから」
「本当だよ」
ひたすら否定した。でも、彼女はとりあわなかった。
「金田くんでしょう。イズミちゃんが好きなひとって」
レンちゃんは、少し真面目な口調でそう言った。
「ぜ、全然、違うよ。金田くんとは、幼馴染なだけで、全然、そんなことないもん」
「えー」
「今日だって、全然、真面目に歌の練習しないし、いつもふざけてるし」
「それから、それから」
「わたしにいじわるばっかりしてくるし、授業中は先生にいつも怒られてるし」
「うん、うん」
「たしかに、たまには優しくしてくれるよ。消しゴム忘れた時は、貸してくれるし。他の男子からからかわれたときはかばってくれるし……」
「うん、うん」
レンちゃんの顔がとてもにやついていた。どんどんにやつきが増していった。
「だからって、好きなわけ……」
わたしは少し怒りながら、否定しようとする。
「もう、素直じゃないんだから。それって、金田くんのことをいつも見ているってことじゃん」
「えっ」
わたしは何も言い返せなかった。だって、本当にそうだったから……。
「だから、それをね、好きっていうんだよ。イズミちゃん」
「そう、なの」
「そうだよ。むしろ、どれだけ金田くんのこと好きなんだよ。ご馳走様でしたって気分」
さっきよりも、顔が赤くなっている実感があった。
そうなんだ。わたしって彼のことが好きなんだ。これが、「恋」なの?
気持ち良い秋風が、わたしを包んでいた。




