始まり④
そんなこんな、ふたりで盛り上がっていると部屋の外から階段を上る音が聞こえてきた。
「おじゃまします~」
小柄な黒髪ショートヘアの女の子が部屋に入ってきた。
金田の幼馴染の蒼井イズミさんだ。こんなかわいい子と、ずっと一緒だったとは本当にうらやましいやつだ。
「おう、イズミ。お疲れ様!」
金田はまるで男友達とあいさつするかのように、気楽な口調だった。
「これ、親が持っていけって」
彼女の手には、かわいいケーキの箱があった。たしか、彼女の家は、お父さんが有名なケーキ職人で……
「いつもありがとうな。ちょっと、下でお茶の準備してくるわ。あとはお若いふたりで~」
金田はスイスイと部屋を後にした。
「蒼井さん、ごめんね。本当はふたりきりのほうがよかったよね」
おれは申し訳なさそうにそう言う。
「ううん、ふたりきりだと、いつものようにだべって終わっちゃうから」
「それで進展は……」
おれの質問に彼女は、微笑で返す。ですよねー。
表情には無念のようなものがにじみ出ていた。
「ううん。いつも通り」
少しして、彼女は明るい声でそう言った。
「まったく、あの鈍感ラノベ主人公は……」
「高校卒業までには、気がついて欲しいかも」
こんなにしおらしい彼女に思ってもらえるなんて、うらやましいぞ。金田。昨日、失恋したおれに謝れ。ここにいない金田におれは怒りをぶつけた。
「おお、おふたりさん。いい感じだね」
鈍感主人公が帰ってきた。
「「はー」」
ふたりでため息をついた。
「息ピッタリだね、おふたりさん」
ヒューヒューと冷やかす金田。
「おまえなー」
「おおっと、イライラするなって。悪いな、イズミ。こいつ、昨日、佐藤に告白して、玉砕してな。気が立っているんだよ」
「えっ、失恋」
「そう、失恋」
「「 kwsk 」」
息ピッタリの幼馴染コンビにおれは圧倒された。さっきまで、いい感じの同盟関係だった蒼井さんにおれは簡単に裏切られてしまったのだ。勉強の前に、おれは傷をえぐられる運命のようだ。
「……ということなんだ」
おれは簡単に昨日の出来事をふたりに説明した。金田は詳細を知っている癖に。
「みごとな玉砕ぶりですね、解説のイズミさん」
「はい、やはり攻める気持ちが強すぎて、カウンターを浴びたようなのもですね。もう少し、外堀を埋めていく必要があったと思います」
かなり的確な解説だった。下手なサッカー解説よりも、わかりやすい。
ふたりのコントが終わったあとイズミさんはこうフォローしてくれた。
「山田くん、女子から人気あるのにね~」
「ああ、そうだな。告白全勝男に、ついに土がついたんだ。非リア歓喜」
おまえは、非リアではないだろう。
「もう帰りたい」
「そういえば、高校に来てから彼女いないんだろ。五回って中学の時?」
「一回はな」
「もう四回は?」
イズミさんの厳しい追及がおれのゴールマウスを揺らす。
「幼稚園と小学生の時……」
ふたりの大笑いがおれを襲った。苦笑と失笑が混ざっていた。
「もう結婚しちゃえよ、おまえら」